ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:空き家ー

結花「さてと。どこから話せばいいのかしら?」

唯「由真姉がボクたちに黙ってこっそりでかけちゃったところからでいいんじゃない?」

由真「うっ……」

悠「出かけたことに気づいてたんですか?」

結花「家の前であんなふうに騒いでたらね」

由真「……なら、どうして止めなかったのよ?」

結花「まあ、小鳥遊君がいっしょなら、無茶なことはしないだろうと思ったから」

唯「それに、情報を整理するので忙しかったからね」

悠「情報?」

唯「昼間、買い出しに行ったときと、仕事が終わってから、今回の件をいろいろ調べてたんだよ」

由真「なにそれ?私、聞いてないんだけど?」

唯「だって、ご飯食べてから話そうと思ってたのに、由真姉ってば、とっとと食べて部屋に戻っちゃうんだもん」

由真「引きとめてくれればいいでしょ」

唯「ん~……どうせ考えるのはボクと結花姉だし、ちゃんと整理してから呼べばいいかな~と思って。でも、そしたら由真姉、ひとりでこっそり出かけちゃうし」

由真「それは、アンタと結花姉がのんびりしてるから……」

結花「はいはい。話しが進まないから、そこから先は家に帰ってからになさい。とにかくね、唯の集めてくれた情報を整理してるうちに、いかにも怪しそうな人が、ひとり浮かんできたの。それが、この人」

悠「……」

結花さんが示したのは、おれが首謀者だと予想していた男だった。

結花「この人、いちごやの店長らしいんだけど、隠れていろいろ悪さをしてたみたいなのよね」

悠「悪さ?」

唯「例えば、まだいちごやが奉行所から注意される前のことだけど……一部の常連客から指名料を取って、接客をする女の子を優先的に選ばせたりとかさ」

悠「それはまた、なんというか……」

唯「あと、まだ詳しくは調べてないけど、売り上げの着服とかもしてた感じかな」

結花「でも、いちごやの売り上げが落ちてからは、そういうことがやりづらくなったみたいで……」

唯「その腹いせに嫌がらせをしてきたのかと思ったんだけど、さっきの話を聞いた限りじゃ違うみたいだね。」

悠「ああ。ねずみやを越後屋にけしかけて、また派手なことをやらせて儲けたかったってところか」

導き出された答えに、おれたちは揃ってため息を吐いた。まったくもって、迷惑極まりないというか……。

唯「話しは戻るけど、このひとが怪しいってわかったから、そこからよく出入りしてる場所を調べ出したってわけ。で、隠れて様子を見てたんだけど、急に悠さんが飛び出してくるんだもん。驚いたよ」

結花「本当は小鳥遊くんに任せようかと思ったんだけど、ひとりでも逃がすと面倒なことになりそうだってし……ごめんなさいね。せっかく由真にいいところを見せるチャンスだったのに」

悠「いや、そんなのぜんぜん構わないって言うか……助かりました」

もし男が逃げなかったとしても、おれひとりで全員を相手にするのは、正直きつかったと思うし。

唯「まっ、これであとは、奉行所に報告すれば、一件落着ってことでっ」

結花「あ、帰ったら由真には少し話しがあるから、覚悟しておきなさいね?」

由真「うぅ~……」

深くうなだれる由真を見て、笑ってしまいそうになるのを我慢する。もし笑おうものなら、どんな文句を言われるか分かったもんじゃないからな。ともあれ、こうして一連の騒ぎは結末を迎えたわけだ。




ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「ふわぁ~……」

騒ぎから一夜が明けた。あのあと、犯人たちを連れて奉行所に報告にいったわけだが、事情を説明するのがひと苦労だった。盗みにはいられた時点で報告をしなかった理由や、どうやって犯人を調べ出したのか、などなど……。まあ、結花さんや唯ちゃんがいてくれたおかげで、そこらへんは機転でどうにか切り抜けられたのだが。

おれと由真だけだったら、いったいどうなっていたことだろう。なんにせよ、事件が解決してひと安心だ。店長がしていた悪さをいちごやにリークしておいたから、越後屋があいつらを助けることもないだろうし。

ただ、そういった事後処理をおれも朝方まで手伝っていたので、かなり寝不足だったりする。

悠「んー……今日は少し早めに店を閉めるかな……」

由真「そんな半端な気持ちでやってるから、いつまで経っても店がこの有様なんでしょーが」

声に気づいてそちらを見ると、客のいない店の中を覗きこんで呆れている由真の姿があった。由真が営業中に、わざわざうちに来るとは、珍しいこともあるもんだ。

悠「どうかしたのか?」

由真「え?あ……うん。まあ、その……アンタさ……今夜って、なんか用ある?」

悠「今夜?いや、別になにもないけど」

由真「……そう」

由真「なら……ご飯、食べにこない?」

悠「は?」

由真「いっとくけど、私はイヤなんだからね!でも結花姉が、迷惑かけたお詫びに誘ってこいっていうから……」

悠「はあ」

咄嗟に出た返事はそれだけだった。だって、いくら結花さんにいわれたからといって、由真が素直におれを誘いに来るなんて……。

由真「で、どうなのよ?くるの?こないの?」

悠「ええと……」

吉音「もちろん行くーっ!」

由真「うわっ!?」

横から顔を出してきた吉音に驚き、由真が大袈裟な悲鳴を上げて後ずさった。

悠「……」

由真「アンタ、どこに隠れてたのよ!?」

吉音「そこで寝てただけだけど?」

悠「ああ。横になってたから、机の陰に隠れて見えなかったんだな」

由真「…………」

吉音「ねーねー、あたしも一緒に行っていい?」

由真「それは……」

吉音「いいでしょ?ね?いいよね?」

由真「…………あー、もー、好きにすればいいでしょ。その代り、そいつもゃんと引っ張って来なさいよね。」

吉音「はーい♪」

悠「ちょっと待て。おれの意思は……」

由真「うっさい!どうせ断る気なんてないんでしょ?なら黙ってうなずいときなさいよ、まったく」

由真は不機嫌そうに言い捨てると、結局、おれの返事は聞かずに帰っていってしまった。確かに断る気はないが、もう少し言いようがあるだろうに……。

吉音「くふふっ。お姉ちゃんの作ってくれるご飯、楽しみだな~っ♪」

ため息を吐くおれの隣で、吉音は早くも晩飯に思いを馳せて、にやにやと笑っている。まあ、おれも結花さんの料理は楽しみだし、この際、細かいことを気にするのはやめておこう。

さてと。じゃあ、その時間が来るまで、頑張って働くとするか。
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