ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:いちごや前ー

由真「まだ中に誰かいるみたいね。こんな時間なのになにしてんのよ、もう……ヒトミ、お願い」

ヒトミ『にゃっ』

ヒトミは返事のように泣き声を上げると、店に向かって歩いていく。まあ、しばらくは様子見か……。

悠「ところでさ」

由真「ん?」

悠「砂糖を見つけたらどうするんだ?」

由真「どうするって、泥棒に入った証拠なんだから、奉行所に訴えるに決まってるじゃない」

悠「おれたちも忍びこんだってことがバレてもか?」

由真「は?」

悠「おれ達が忍び込んだって事実がなければ、そこに盗まれた砂糖が有ったって証明できないだろ?」

由真「……え?……ええ!?なんでそうなるの?」

悠「なんでって……じゃあおれ達は、どうやって盗まれた砂糖を見つけたんだよ?」

由真「それは……運びこむのを見かけた、とかいえば……」

悠「それだけで奉行所が動いてくれるかは怪しいが、仮に納得してくれたとしよう。で?見つけた砂糖を、どうやってねずみやの物だって証明するんだ?」

由真「へ?」

悠「いちごやだって喫茶店なんだぞ?どんな砂糖の袋が有ったとしてもおかしくないじゃないか」

由真「…………」

ぽかんっという表情をして、由真が固まってしまった。その様子を見て、おれは今日何度目かのため息を深々と吐く。

悠「やっぱりお前、なんにも考えてなかったんだな」

由真「うっさいわね!ちゃんと考えてるわよ!だから……えっと……そうよ!帳簿が有るじゃない!帳簿と照らし合わせれば、ちやんといちごやがかったものかどうかわかるし……」

悠「……はぁ~」

由真「ため息吐くなぁ!!」

顔を真っ赤にした由真が、おれの胸倉を掴んでガクガクと激しく揺さぶってくる。なんかもう、隠れてるってことすっかり忘れてそうなんだが……。

悠「なあ由真、やっぱり出直さないか?他にもいろいろ穴が有りそうだぞ?」

由真「イヤよ。今さら戻っても結花姉には絶対怒られるし、唯には笑われるだろうし……!!」

掴まれていた胸倉を引っ張られて、無理矢理頭を下げさせられた。

悠「あ!?……なんだよ急に」

由真「しっ。黙って。誰か出てくる。」

悠「あー?」

いちごやの方に目をやると、店の裏手から戻ってくるヒトミが見えた。それに少し遅れて、店の中から男が出てくる。

ヒトミ『んにゃっ』

悠「おかえり、ヒトミ。あのひとで最後か?」

ヒトミ『にゃあっ』

悠「よし。じゃあ、あの人がいったら……」

由真「…………」

悠「由真、どうかしたのか?」

由真「なんか怪しい」

悠「怪しいって……あのひとがか?」

由真「うん」

悠「……」

由真は頷きながら、その男を目で追っていた。おれも同じように目を向けてみたが……これといって気を惹く容貌をしているわれでもない。強いて言うなら、やけに周りを気にしているようにも感じるが……。

由真「つけるわよ」

悠「え?でも……」

由真「いくわよ。見失っちゃう」

由真は返事も待たずに、男のあとを追って歩きだす。

悠「まったく……おまえのご主人さまは自分勝手だなぁ」

ヒトミ『うにゃっ』
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