ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「助かったよ。いきなり屋根を飛び移って出ていかれたら、引き留めようがなかったからな」

由真「アンタ……なんでここに?」

悠「どうせこんなことになるんじゃないかと思って、様子を窺ってたんだよ」

由真「…………」

悠「越後屋に忍び込むつもりなのか?」

由真「……証拠を見つけに行くだけよ」

悠「結花さんや唯ちゃんは許可してくれたのか?」

由真「……うっさいわね。アンタには関係ないでしょ」

悠「やっぱりおまえの独断なんだな」

由真「……だったらなに?」

悠「はぁ~……結花さんのいうように、情報を集めてからじゃダメなのか?」

拗ねたような口ぶりに、あきれてため息を吐きたくもなるってもんだ。

由真「そんな悠長なことしてる間に、証拠が無くなっちゃたらどうするのよ?砂糖なんて、捨てられちゃったらそれでおしまいじゃない」

悠「……それは確かに」

由真「言っとくけど、止めても無駄だからね。まあ、どうせアンタじゃ私を捕まえられっこないだろうけど」

悠「結花さんや唯ちゃんを呼ぶことぐらいならでるぞ?」

由真「出てくる前に逃げちゃえばいいだけよ」

やれやれ……。

今にも逃げ出そうとしている由真に向って、降参だというように両手を上げてみせる。

悠「わかったよ。もう無理に引きとめたりしないって、その代り、おれも連れていってくれ。」

由真「はあ?なんでアンタを……」

悠「おまえひとりを行かせるのが心配だからに決まってるだろ」

由真「!?何いってんのよ!別にあんたなんかに心配してもらわなくたって大丈夫だってば!」

悠「声、大きいぞ」

由真「うっ……」

由真は慌てて口を閉ざし、家の方を振り返る。幸いというべきなのか、結花さんや唯ちゃんが出てくるような気配はない。

悠「そういう迂闊なところがあるから、ひとりで行かせるのが心配なんだよ」

由真「なに私のことわかってるみたいな口利いてるわけ?そもそも、今のはアンタが変なこと言うから……っていうか、アンタみたいなのについてこられても、足手まといなんだけど」

悠「その足手まといにこうして見つかってるのは誰だ?」

由真「ぐっ……」

悠「それに足手まといが居れば、慎重に行動する気になるだろ?」

由真「…………」

由真は睨むような目つきでおれを見つめてきた。だが、おれが目をそらさずに見つめ返していると、仕方なさそうにため息を吐く。

悠「……」

由真「邪魔しないでよね。」

悠「お前が無理をしない限りはな」

由真「……ふんっ」



ー大江戸学園:大通りー

というわけで、おれと由真は一緒に大通りにやってきた。そして物陰に身を隠し、いちごやの様子を窺う。

悠「越後屋の家に忍び込むわけじゃないんだな?」

由真「そりゃあ、いくらなんでも盗んだ物を自分の家には置いとかないでしょ。だからって、あんま無関係なトコに置いとくとも思えないし……ならココかなーって」

悠「……勘なんだ?」

由真「悪い?」

悠「いや」

どうせそんなことだろうとは思っていたさ。
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