ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

おかしいな。

その日、いつまで経っても開く気配のないねずみやを横目に眺め、首を傾げてみる。学校が休みの日は、いつも早くから開いているのに、どういうことだ?なにかあったんだろうか?

心配だし、ちょっと覗きに行ってみようか……。そんなふうに思って、ねずみやの方に進みかけたとき、店の表に由真が姿を現した。

由真「……」

由真は何やらイラついた様子で、ずかずかとおれの方に向かって歩いてくる。用でもあるのかと思って待っていると……。

悠「おい?由真?」

由真「…………」

由真はおれの声に足を止めることもなく、そのまま通り過ぎていってしまう。わけがわからず、その姿を見送っていると、今度は結花さんと唯ちゃんが店の外に出てきた。

唯「悠さんっ、由真姉止めてっ!」

悠「あ?」

結花「小鳥遊君、お願い」

悠「はあ」

言われるままおれは由真を追いかけて、その手を掴んで引きとめる。

由真「離してよ」

悠「いや……でも、結花さんと唯ちゃんが……」

結花「ありがとう、小鳥遊くん。」

唯「も~っ、由真姉ってば早まんないでよっ」

由真「だって……」

悠「なにかあったのか?」

さっぱり状況が分からないので尋ねてみると、結花さんが困ったような顔をしてため息を吐く。

結花「それがね……」

由真「泥棒が入ったのよ」

悠「……あ?」

由真「泥棒が入ったのよ、ウチの店に」

悠「そんな!?……嘘だろ?だって……」

由真「悪かったわね。泥棒が泥棒に入られて」

悠「いや、悪くはないけど……」

唯「油断してたよ。まさかうちが狙われるなんて思ってもなかったから、セキュリティも甘くてさ……」

悠「それで……なにか盗まれたんです?」

結花「…………」

おれの問いかけに、結花さんが再び困ったような表情を浮かべる。由真と唯ちゃんの方を見ても、同じような顔をしていた。

悠「なんだよ……もしかして、ものすごく大事なものが盗まれたとか?」

結花「そういうわけじゃなくて……砂糖をね……」

悠「砂糖?」

唯「店にある砂糖を片っ端から盗まれちゃったんだよ。倉庫に置いてあった袋も含めて全部ね」

悠「あー?」

なにかの冗談かと思ったが、そういうわけではないらしい。

由真「……」

結花「……」

唯「……」

悠「砂糖って……どうして?なんのために?」

由真「そんなの嫌がらせに決まってるでしょ」

悠「嫌がらせ?」

由真「それ以外考えられないじゃん。砂糖だけ盗むなんて」

唯「実際、店を開けるに開けられない状況になっちゃってるしね」

結花「ケーキが作れないだけなら無理して開けることもできるけど、さすがにテーブルのお砂糖までないとね……」

悠「なるほど」

確かに、紅茶に砂糖を入れる人は少なくないだろうし、それくらいは必要だよな。
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