ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:いちごやー

女中B「もうっ。そんなことするなら、食べさせてあげませんよ?」

「いいじゃねえか。別に減るもんじゃねえんだし」

悠「あん?」

この声、聞き覚えがあるような?

「ほら。お前さんも、もっとこっちに来いって」

女中C「イヤですよ。そうやって金さんは、いつも私たちの仕事の邪魔をするんですから」

悠「金さん?」

まさかと思ってそちらに目を向けると、よく見慣れた姿がそこにあった。

朱金「何いってんだ、こーいうのが仕事なんだろ?へへへへ」

女中C「あぁん」

朱金は女の子の肩を抱き、自分の隣へと引き寄せた。

朱金「まったくけしからん服だ。けしからんから調べてやんなくちゃなぁ」

そして、肩を抱いた手のひらを女の子の胸元に進め、服の中に滑り込ませようとする。

女中C「あん、もぉっ。そこにはなにもありませんわ」

朱金「あるじゃねぇか、へへへっ、立派なふくらみがふたつもよぉ。んん~?」

女中B「いくら金さんでも、欲張り過ぎはいけませんわよっ」

もうひとりの女の子はそんなふうにいいながら、こっそりお尻に近づいてきた朱金の手をぺちっと叩く。

朱金「なんでぇ、いいだろちょっとくらい。そんな触ってくれってなカッコしておいてよぉ」

女中B「だってこれは制服ですもの。ヒラヒラがいっぱいで、かわいいでしょ?」

朱金「ああーまったくもってけしからんなぁ。で?そのヒラヒラってやつを、もっと近くで見せてもらおうじゃねぇかぃふへへへへっ」

女中B「あ……ちょっと。金さんたら……」

今度は強引に引き寄せられ、彼女は抵抗をするそぶりを見せるが……その顔は楽しそうに笑っていた。ようするに朱金やあの女の子たちは、わざと文句を言いながら、ふざけ合っているだけなんだろう。

まったく。北町奉行ともあろう者が、あんな緩みきった顔をして……。だがおれも他人のことは言えないか。

牡丹ちゃん相手に、ずいぶんな醜態をさらしてしまったし。しかもそれを唯ちゃんにみられていたわけで……。ダメだ。これ以上ここに居ると、さらにみっともない姿をさらしかねない。

悠「唯ちゃん、そろそろ帰ろう」

唯「え~っ、まだ来たばっかじゃん」

牡丹「そうですよ。ゆっくりなさっていってください」

悠「え~それじゃあ……じゃなくて、急用を思い出したんで。すみません!」

唯「ちょっと、悠さんっ!?」

おれは唯ちゃんの手を掴み、逃げるようにして会計へと向かうのだった。



ー大江戸学園:日本橋ー

悠「やれやれ。すごい店だったな」

いちごやからの帰り道、店でのことを思い返して、しみじみと呟いてしまった。

唯「ホントすごかったね。あんなに広いホールの隅々まで、ちゃんと掃除が行き届いてたし」

悠「あ?」

唯「使ってた端末のおかげで、注文から配膳までが予想以上にスムーズだった。ケーキなんてすごく美味しかったし、ハーブのことはよくわからないけど、たぶん女の子は好きだと思う。接客は基本、男の人向けだったみたいだけど、ボクにもちゃんと気を配ってくれてたし、いちおう及第点かな」

悠「あの……唯ちゃん?」

唯「ん?なに?」

悠「冷静に、そんな分析してたんだ」

唯「と~ぜんでしよっ?ボクたち偵察に来たんだから。まっ、悠さんは牡丹さんに見とれててそれどころじゃなかったんだろうけどさっ」

悠「……」

悲しいことに、なにも反論できない。

唯「なんにせよ、あんな店が近くにできちゃ、そりゃウチの客も減るわけだ」

納得したとばかりに、唯ちゃんは大きく頷いている。

悠「で、どうするんだ?」

唯「どうするって?」

悠「このままじゃ店がつぶれかねないし、放っておくわけにはいかないだろ?」

唯「まあね」

悠「何か考えがあるのか?」

唯「考えって言うか、正攻法で行けばいいんじゃない?」

悠「正攻法……」

唯「にひっ♪」

唯ちゃんはおれの問いかけには答えずに、ただ意味ありげな笑みを浮かべるだけだった。
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