ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「……暇だな」

空を見上げ、ぼんやりと呟く。その日、久秀は本業の視察、吉音は光姫さんに呼ばれたとかで、まだ店に顔を出して居なかった。

まあ、吉音が必要になる事態なんて、そうそう起こるわけないし……。居たら居たらでおやつをねだられるから、たまには居なくてもいいような気がしてしまうわけだが。

とかし、閑古鳥の鳴く店に、話し相手もなく突っ立っているのは、どうにも退屈だ。せめて客が来てくれれば……。

などと思っていたとき、近づいてくるひとの気配を感じた。

由真「もー!いったいどうなってんのよ!」

悠「……なんだ、由真か」

由真「なんだとはなによ!」

見るからに不機嫌な顔をした由真が、肩を怒らせておれの前までやってきた。もっとも、ここ数日、由真は学校でもこんな様子なのだが。

できれば厄介事に関わりたくはないが、こんな顔をした由真を放っておくわけにもいかないし……。

悠「……どうかしたのか?」

由真「どうもこうもないわよ。アンタだって気づいてるんでしょ?」

悠「まあ、いちおう……」

ちらっと横目で、ねずみやの様子を窺う。いつもなら店のにぎわいが外まで伝わってくるのに、今日は静まりかえっている。

正確には今日だけではなく、ここ数日、ずっとこんな感じだった。本来なら接客に追われているはずの由真が、こうして外に出て来ている時点で、中の様子はお察しあれだ。

由真「……」

悠「ずいぶんと店が静かだな」

由真「悪い?」

悠「いや。別に悪くはないが……なにかあったのか?」

由真「そんなの私が聞きたいわよ。ホント、訳わかんないし。最近、どんどんお客さんが減ってきちゃって……なんなのよ、もう……」

悠「……由真」

珍しく弱気な表情を見せた由真に驚き、かける言葉を失ってしまった。だがつぎの瞬間、食ってかかるような勢いで、由真がおれに顔を寄せてくる。

由真「まさか、またアンタが何かしたんじゃないでしょうね?」

悠「なんでおれが!?っていうか、またってなんだよ。またって。おれがいつ、お前に何をしたって言うんだ!」

由真「ウチのことが妬ましくて、裏でこっそりなにかしてるかもしれないじゃない」

悠「するか!とにかく、客が減った理由に、なにか心当たりはないのか?」

せっかく心配してやったのに、こいつときたら……。

由真「なにかって?」

悠「たとえば……材料をケチるようになったとか、接客が雑になったとか」

由真「そんなことするわけないでしょ!」

悠「だから、たとえばの話しだ。なんでもいいから気づいたことはないのか?」

由真「そんなこと急にいわれても…………ぁ。そういえば」

悠「なんだ?」

由真「関係あるのかどうかは分からないけど……最初に減って来たのは、男子のお客さんだったの」

悠「男子の?」

由真「うん。日に日に男子が少なくなってきて、途中から、それにつられたみたいに女子の数も減ってきて……」

悠「……どういうことだ?」

客の性別が、なにか関係しているんだろうか?だが、割合として多かったはずの男性客が、ねずみやからはなれる理由なんて……。

由真「手がかりになりそう?」

悠「さすがにそれだけじゃな……」

そんなふうに頭を悩ませていると、ふと、ねずみやから出て来る女の子たちに気づいた。
26/100ページ
スキ