ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:教室ー

平和「……とにかく、どうあっても絵を描いてほしい、ということでござるな?」

越後屋「ええ、仰るとおりです」

信乃「あなたも、諦めない人で……だなぁ!」

越後屋「手に入るまで、諦めまへん」

悠「……」

つばめが連絡を入れるや否や、二人は飛ぶようにして戻って来た。そんな二人を待ち構えていたのは、寿命ある悪魔……もとい、商人の魂を持つ越後屋だった。迷惑そうだったら引きはがそうと思っているが、とりあえず今出番はなさそうだ。

越後屋「今も、あんさん方の絵は、十分銭になります」

信乃「絵を描けるのは、姫様ですけどね……」

越後屋「ほう、では先ほどの絵は、あんさんひとりで?」

平和「いや、色を塗ったのは天国でして、きょうどうさくひんというやつでござる」

越後屋「なるほど……では、そちらのお嬢も、なにかを?」

つばめ「応援ですわ」

越後屋「……さ、さいですか。ともあれ、お三方の共同作品という事で話しを進めさせていただきますが……今のままでも価値がありますが、そんな安い商売をする気もさせるつもりもあらしまへん。さらに精進を重ねれば、もっと素晴らしい絵を描けるようになります。才能の花を咲かせまへんか?」

平和「…………む?」

越後屋「自分は由比さんと違ぅて、きっちり対価を支払います。そして、短期であんさん方を使い捨てたりもしまへん。仕事場として、家を一軒用意しまするそれに、道具もひと揃い準備させていただきます。これだけの条件を提示するところは、他には有りまへん。いかがですか?」

平和「あの絵を褒めてくださるのは、恐縮ながらも嬉しく思うでござるよ」

信乃「ありがとうござい……サンキュ!」

越後屋「ほな、前向きに考えてくだはりますか?」

平和「ですがあの絵は、売るために描いたものではないですし、絵の道を志すつもりもないでござるよ」

信乃「もともと、贈り物にする一枚のつもりでした……だったしな!」

越後屋「い、いや、ですから……」

平和「それと、つばめからさっきの話しは聞かせてもらっているのでござるよ」

悠「……」

さっきというのは、依頼人を追い返したあれだろうな……まあ、そりゃいうだろう。

平和「あなたが本気なのは分かるでござるが、あんなことをする人のために描く絵は、一枚もないでござるよ!」

信乃「私も同感だな!」

つばめ「依頼者さんをみんな追いかえしちゃうようなひとですからねぇ~……」

越後屋「い、いや、そのお話しについては……」

平和「はっきりと、お断りさせていただく所存でござる!」

越後屋「ッ!?」

悠「……」

うーむ、交渉決裂か……これもひとつの結果だ、仕方ない。でも越後屋も、ここまで言われたら諦めてくれるだろう……。

越後屋「…………」

悠「さ、戻ろう。今回は縁がなかったんだよ」

越後屋「……しいや」

悠「あー?今、なんて……」

越後屋「たいがいにしいやっ!!」

つばめ「ひゃん!」

越後屋「ひとが物腰低ぅ出たからっていちびり続けるとは、随分偉ぅなったもんやね!!」

平和「き、急にどうしたでござるか?」

信乃「お、落ちついてくださいよぉ……」

つばめ「あらあら~……」

越後屋「才能を埋もれさすやなんて、どれだけ傲慢な行いや!与えられたものを捨てるなんて、こんバチあたり!おとなしゅう、ウチとの証文にサインしとけばええんやっ!!」

悠「あの、その、ごめんな」

越後屋「小鳥遊さん!邪魔せんとってぇな!」

悠「騒がせてすまない。このお姉さんは、おれが責任もって連れて帰るから……」

信乃「そ、そうしてくださいぃ……」

越後屋「まだウチの話しは終わってへんでぇ!」

悠「ど、どうか、今のことは忘れてくれ!な?」

平和「わ、分かったでござる!」

越後屋「サインせぇへんかぁっ!」

つばめ「ひぃぃ~ん」

怒鳴り声と泣き声の二重奏を聴きながら、おれは越後屋を強引に連れ帰り。

彼女の野望は、珍しく達成されること叶わなかった。……まあ、あの流れじゃ当然だけどな……。
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