ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー闘剣場ー

司会「さあやってきた!急遽開催スペシャルマッチ!最強剣闘士・青龍軒が、あの眠利シオンに勝負を挑む!勝利の女神は青龍軒に微笑むのかぁ!?」

悠「うっ……なんだか、すごいことになっているな……」

吉音「いつの間にか、タイトルマッチみたいになってるね」

闘剣の試合会場は機能にも増した熱気に包まれていた。会場に着くなり、おれと吉音はシオンから引き離されて、試合場のわきに押しやられてしまった。

人質を取られている以上、大人しく従うしかなかった。

悠「……」

吉音「もう、シオンさんに任せるしかないんだよね……」

悠「ああ……シオン、信じてるからな!」

シオン「大袈裟なことだ……なあ?」

青龍軒「互いの名声を思えば、このくらいの舞台が当然だろう」

シオン「そんなことより、女は?」

青龍軒「……おい」

須美「……」

シオン「ああ、いた。じゃあ返してもらおうか」

青龍軒「返してやるとも。この試合で俺に勝ったなら、な」

シオン「それなら返してもらわなくともいいんだが……仕方ない、これもご褒美のためだ。喜べ。相手をしてやる」

青龍軒「はっ!学園最強はこの俺だ!鬼島のまえに、まず貴様を血祭りにあげてやるっ!」

シオン「……!わたしをアレの前座扱いしたこと、後悔しろ!」

シオンと青龍軒がいまにも白刃を交わらせようとした時、大きな歓声が起こった。観客には分かりきっていたことだったみたいだけど、おれと吉音にとっては、それは予想外の展開だった。

いや……須美さんが青龍軒の横に進み出た時点で予想するべきだったのかもしれない。

須美「……」

シオン「おい……なんのつもりだ?」

須美「……」

シオンが睨んでいる先には、青龍軒が刀を振り上げたのと同時にシオンに斬りかかった須美さんの姿がある。

須美「言うとおりに、すれば……兄に謝ってくれると、約束、してくれたんです……っ」

シオン「……意味が分からない」

須美「わっ、私にはどうせ、この男を倒せないから!もう、こうするしかないんですっ!!」

シオン「ますますもって、わけが分からない」

青龍軒「ふ、ふっ……さうどうする、眠利シオン。二対一では輪月殺法は使えないだろう?」

シオン「なるほど。逃げ腰男が立った一夜で急に宗旨替えしたのは、輪月封じを思いついたからか」

青龍軒「どうやら図星のようだな……輪月殺法、破れたり!女を斬れない甘さが貴様の弱点だ!おっと、卑怯だとはいうな。闘剣では二対一の試合も間々あること。これも兵法の内よ」

シオン「兵法、ね……くくっ」

青龍軒「ふんっそのすかした態度もここのでだ!!いくぞ、須美っ!!」

須美「は、はいっ!」

悠「シオン!!」

青龍軒の打ち込みをかわしたシオンに須美さんが身体ごと斬りかかったとき、おれは思わず声を張り上げていた。いくらシオンでも、あの体勢から身をかわすことや、刀だけを弾くなんて無理だと思ったからだ。

ズバッ!
須美「う……ぁ……っ」

シオン「さて、これで一対一だ」

……シオンは一切の躊躇なく、須美さんを撫で切りにしていた。

青龍軒「き、貴様……この女を取り返しに来たのではなかったのか……?」

シオン「は?わたしがその女から受けた頼みは、お前を斬ってくれということだけだ。どうして取り返す必要がある?」

須美「そ、そんな……ひど、い……ッ……」

シオン「酷い?酷いのは、私に剣を向けておいて斬られないと平気で考えられるおまえの脳味噌の腐れ具合だ。復讐劇のヒロインごっこがしたいのなら、兄と二人でやっていろ。他人を巻き込むな。ごっこ遊びに付き合って手加減してくれるほど、他人は優しくないんだよ」

心底つまらなそうに吐き捨てたシオンに、須美さんはもう倒れ伏したまま声も上げない。

声が出ないという点では、オレも吉音も、そして青龍軒も同様だった。

青龍軒「っ……貴様……血も涙もないのか……!?」

シオン「流れているさ。なんなら、斬って確かめてみるか?」

戦慄している青龍軒に、シオンは刀をだらりと下げたまま、無造作に一歩近づく。
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