ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

シオン「くっくっく。悠は可愛いな」

悠「うぅ……やっぱり、からかって楽しんでるんだろ……」

否応なく火照ってしまう顔を振って、おれは笑っているシオンから視線をそらした。あの胸がいかんのだ、あの美巨乳が……。

女子生徒「ぁ……」

眼をそらした先には、ひとりの女性とが立っていた。誰なのかと考える間もなく、店の戸口に立っているのだから、お客さんに間違いない。で、そのお客さんに、シオンに迫られているところを見られたわけで……

悠「……違うんです!!これはただの冗談で、店の中で如何わしいことをしていたわけじゃなくてですね!」

女子生徒「よ……ようやく見つけました」

悠「……あー?」

その女性客は、間抜け声を出してしまったおれの脇をするりと抜けて、シオンに近づいていった。

女子生徒「昨夜はお助けいただき、ありがとうございました……眠利シオンさま」

シオン「昨夜?……ああ、返り討ちに遭っていた子か」

須美「はい、須美と申します。昨夜はお恥ずかしいところを見せてしまいまして……」

シオン「いいさ、そんなこと」

シオンはささやくように微笑みながら、女生徒の腰にするりと腕を回して引き寄せる。

須美「えっ、あの……眠利さま?」

シオン「悠、奥を借りるぞ。布団くらいはあるんだろ」

悠「へ、布団?……って、人の部屋で何をする気だよ!?」

シオン「楽しいことだよ。ああ、お前も混ざるか?」

悠「よろしく……じゃなくて混ざるか!」

シオン「なんだ、つまらない」

須美「あ、あの、私もそういう事をしに来たのではないのです」

シオンの意識がおれに移ったところで、女生徒はシオンからさっと身を離した。

シオン「昨夜のお礼に、抱かれに来たんじゃないのか?」

須美「いえ、感謝はしていますが……あの、厚かましいとは思いますが、お願いがあってまいりました」

シオン「お願い?」

須美「私に、剣を教えてください」

シオン「ふうん……?」

頭を下げた女生徒に、シオンは興味をそそられたようだった。

悠「……」

シオン「昨日の男を斬るためか?」

須美「はい……あの男は、兄の仇なんです」

シオン「理由など知らないが、断言してやる。無駄だ」

須美「そ、そんなのやってみなければ……」

シオン「やるまでもない。あの男はまあそこそこ使う方だ。ずぶの素人が少し齧った程度じゃ敵わんよ」

須美「で、でも……」

シオン「だから、こうしよう。私がおまえの代わりにあの男を斬ってやろう。その代わり……」

滑りを帯びたシオンの瞳が、須美さんの身体を上から下までねっとりと撫でまわした。その視線を振り解くかのように、須美さんはぶるりと身を捩る。

須美「……お気持ちだけ、いただいておきます。ですけど、やはり私自身の手で兄の仇を取りたいんです。」

シオン「ああ、そうかい。なら、勝手にするんだな」

須美「手ほどきはしていただけませんか?」

シオン「無理、無駄、無意味。私の嫌いなものだ」

シオンの言葉には取りつく島もない。ずっと蚊帳の外から傍観していたおれも、さすがに口を挟まずにはいられなかった。
7/100ページ
スキ