ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

男子生徒「あの……ここは……」

平良「茶屋だ、あたりまえだが茶が美味い。悠、私とコイツに茶を入れてくれないか?」

悠「えっ?あ、ああいいけど……」

平良「どうしたんだふたりとも、妙な顔をして」

悠「いや、てっきり火盗の詰め所に連れていくもんだとばかり思ってたから……」

平良「私は話しを聞かせてもらうと言ったんだぞ?詰め所で話しとなれば、それは尋問じゃないか。そこまでことを大きくする必要はないさ」

そういいながら、長谷川さんはイタズラっぽく笑った。わざと勘違いさせるようないい方をしたんだな……。

悠「……」

平良「見つけたのが町方連中じゃなくてよかったな。ヤツらなら、問答無用でひっとらえられただろう」

男子生徒「はあ……」

平良「お前、名前と役職は?」

市松「名前は市松といいます、役職は有りません……」

平良「なんで番屋にイタズラなんかしたんだ?」

市松「……あいつら……岡っ引きの連中が気にいらなかったんですよ」

平良「ほう、岡っ引きがねぇ……詳しく聞かせてもらえるか?」

市松「ちょっと前の話なんですが、北町の方で軽く喧嘩したんですよ……ケンカって言ってもちょっとした小競り合いで、そんな大げさなもんじゃなかったんだ。それなのに町方の連中ときたら、小せえことねちねち攻めやがって……あげくに罰金まで取りやがった!」

平良「へぇ、それはツイてなかったなぁ」

市松「血魔方も岡っ引きの野郎も偉そうにしやがって!対等も許されてねぇ、俺達と同じ一般生徒じゃねぇか!それなのにお上に尻尾振って……権力を笠に着て俺たちを監視してやがるんだ!」

自分の弁に熱くなってきた市松が、興奮も露わに顔を赤くする。

悠「……」

市松「だから思い知らせてやろうと思ったんですよ!テメェらの目は節穴だって!自分のところの看板ひとつ守れなくてなにが町方だってね!」

平良「なるほど……市松、お前はが言いたいことはよく分かった。お前は運がいいな。もし捕まえたのが町方で、番所でそんな話をしてみろ、袋叩きにされていたかもしれないぞ。ヤツらは文字通り看板に泥を塗られたと、犯人探しに躍起になっていたからな」

市松「……別に、あんなヤツら怖かねぇよ」

平良「そうか?……まあ、今回被害に遭ったものは町方の備品と面子のみだ。町方の連中にしても、緩んでいた気を引き締めるいいきっかけになっただろう。それを飲んだら帰れ。今回は見逃してやる。」

市松「えっ?」

平良「勘違いするな、私は盗みを認めてるわけじゃない。あくまでも今回だけ、特別に見逃してやるということだ。次はない。もし同じことを繰り返し、火盗の縄に付いたと有れば……そのときは、町方に突き出された方が幸せだったと後悔させてやる」

長谷河さんに凄まれ、市松はただうなずくしかできなかった。慌ててお茶を飲み干し立ちあがる。

市松「じゃ、じゃあ俺はこれで……お手数をおかけしました……」

平良「市松」

市松「は、はい……」

平良「反省してるか?」

市松「……こんなこと、もうしませんよ」

そういって、市松は頭を下げると、足早に立ち去った。

平良「…………」

悠「勝手に逃がしちゃって良かったのかな」

平良「捉えて罰するだけが町方や火盗の仕事じゃないさ。事の本質を捕え、問題が有ればそこに手を入れる。そうすることで、学園に暮らす生徒たちの苦しみが減り、生き生きと生活できる。私たちの持つ権力はそのために使われるものだ。学園のため、生徒たちのため、私たちの役目はある。だとしたら、こういうやりかたもあっていいだろう?」

悠「酌量の余地があるなら、寛大な処置もありってことか」

平良「それで変われるなら良いじゃないか。北町の方には私が上手くやっておくさ。」

確かに市松の場合、鬱屈した町方への感情をなんとかしない限り、罪に問われたところで問題は解決しない。自分で自分の感情を整理するためのきっかけを得て、変わることが出来るなら、それが本人にも一番いい。

長谷河さんは自分の持つ権限、責任の範疇でそれを行ったんだる大人だなぁと、思った。

こうして、北町の番屋へのイタズラ事件は幕を降ろした。……そう思っていた。
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