ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「確認するまでもねーけど……罠でいいんだよな?」

越後屋「せめて、痛ぁないよう、一撃で沈んでもらうつもりやったのに」

悠「お生憎様だな」

はじめ「それじゃ、ここからは小細工無しでいく」

越後屋はともかく、佐東の方は不意打ちに乗り気じゃなかったんだろう。構えなおした刀からは、さっきの一撃とは段違いの敵意が伝わってくる。

悠「悪いが、こっちも色々と切羽詰まっててなそう易々と負けるわけにはいかないっぽいんだよな…」

越後屋用心棒の腕は少なからず知っているが、ここで引くわけにはいかない。

はじめ「なら、負ける時がきたんだよ。僕なら、敗北の理由には充分だろう?」

相変わらず顔に巻かれた布は健在で、視線から表情を窺うことはできない。しかし、視界が奪われてるにも関わらず、こちらのほずかな身じろきにも細かく向き直る。ったく、やりにくいことこの上ない。

悠「いつ来てもいいんだべ?」

はじめ「早く来てくれないと焦れる、と素直にいったらどう?」

じりじりと、駆け引きと実際距離の間合いを詰め合う。比例して緊張感は張り詰めていき、空気が固まっていく。

悠「……」

はじめ「……!」

おれ達の緊迫した雰囲気は、ささいなきっかけがあれば決壊するほどに水位を増している。そして、決壊した瞬間にはきっと……どちらかが地に伏していることだろう。おれか、佐東が……!

悠「…………」

はじめ「はぁぁぁぁ!」

悠「どらぁぁぁっ!」

「そこです!!」

悠「あー?」

越後屋「きぉ……あぁぁぁぁ!」

ガキンっ!

しかし緊迫感は、まるで予期しなかった方角から切り裂かれた。

文「……貴女、用心棒ですか」

はじめ「突然乱入して、旦那に斬りかかるとは……ふざけた人だね」

越後屋「ふ、ふぅぅ……寿命が縮まったわぁ」

緊迫した空気に斬り込んできたのは、他ならぬ文だった。しかも佐東ではなく、越後屋の方へ斬りかかってきた。それを横合いから佐東が防ぎ、睨みあいへと発展している。

……すっかり忘れられてしまったおれだが、なんとなく下手なことも口にしにくい雰囲気だ。

悠「なんで、文がここに……?」

サバイバルに参加しているならまだ分かるけど、そんなことはあり得ない。彼女は、生徒ですらないからだ。だがそんなおれの疑問は、文のひとことで氷解した。

越後屋「いきなり斬りかかってくるとはぶっそうやねぇ。なんの御用かしら?」

文「その乳、見逃せません!」

悠「それなんかちょっと別の意味に聞こえるぞ……。」

……なるほど、確かに越後屋の胸は大きい。それもかなりだ。バストコンテストでもあったら、測定する審査員が鼻血を吹きそうなほどのボリュームはある。

どこで聞いたかはしらないが、探しているじょせいかもと思って斬りかかったんだろうなぁ……。

越後屋「いくら自分が貧乳やからって、人の乳を妬むのは筋違いやわぁ」

文「い、いや、そういうつもりでも意味でもなく!」

はじめ「なら、どういう意味で?」

文「…………む、胸の事は胸に秘めておく!」

説明がややこしくて諦めたぞ。おまけに、妙な掛詞になってるし。

悠「……」

文「とにかく、私には理由がある。斬られて大人しくなるか、諦めて大人しくなるか、決めていただきます!」

越後屋「あらあら、困りましたなぁ」

はじめ「どんな理由があっても、旦那に刃向うのならば、見過ごせない。」

おれと佐東の戦いが、文と佐東のそれに切り替わる。文が見ているのは越後屋だけど、佐東が間にたち塞がり、無視することは敵わない。

悠「どうしたもんかな……」

越後屋には騙されたばかりだし、文とは協力する約束をしている。た゜から手を貸すのは問題ないんだが……。一騎討ちは、下手に手を出すと足を引っ張るだけになりかねない。文の性格は知っているが、戦いのクセはまだ把握してるとは言えず、迂闊に手助けもできなかった。
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