ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー大江戸学園:通りー

平和「よ、夜の通りって…ン手そ、そんなに恐くないで、ご、ござる、ね……」

信乃「そそっそうね、だぜ。ぜっ全然怖くなんか、なっなな、ないぜ……」

つばめ「そうですね~。夜風がとっても気持ちいいです~」

出発前の元気はどこへいったのやら、河原へと向かう三人の足取りはぎこちない。いや、約一名はいつもと変わっていないけど。

悠「三人とも、夜なんだから、あんまり騒ぐなよ」

吉音「あはは。悠、本当に先生みたい」

悠「さしずめ、探偵部の顧問か。はは、笑えないな……ん?」

そのとき、おれは前方に何かを見つけたような気がして、ふと足を止めた。

吉音「どうしたの、悠」

悠「いや……あれ、なんの明りだろう?」

平和「おぉ鬼火!?」

信乃「きゃああっ!?」

つばめ「んー……屋台の提灯みたいですよ」

平和「へっ、屋台?」

信乃「あ……本当ですね……」

三人が騒がしく指さしている先には、提灯の明かりをぽつんと灯したヤ地位が佇んでいた。提灯にはそば屋と書いている。

悠「夜泣き蕎麦か……にしては鳴り物が無いみたいだけど、休憩中なのかな?」

吉音「……」
ぎゅるる~

悠「こっちのお腹は絶賛稼働中みたいだな」

吉音「え、えへへ……」

悠「でも、待てよ……あの屋台が昨日もここで店を出していたなら、何か見ているかもな」

平和「あっ、たしかにそうでござるな」

信乃「よぉし、事情聴取しにいこうぜっ」

つばめ「お~」

悠「あ、ちょっと待て……といって待つような奴らじゃないか。おれたちもいくぞ」

吉音「うん」

おれたち五人は、聞きこみの為に夜泣き蕎麦の屋台へ近づいていったのだが……

悠「……あれ?近づいてこないぞ。ずっとそこに見えてるのに」

吉音「あの屋台、動いてるよ」

信乃「動いてやがりますね……」

二人がいう通り、屋台はおれ達が近付いた分だけ、遠ざかっていた。すぐに気がつかなかったのは、屋台がほとんど揺れずに水平移動していたからだ。

悠「おいおい……なんだよ、あの屋台は」

屋台のくせに客から逃げることも、滑るような動き方も全部が全部、不自然の塊だ。

平和「天国、つばめ。これは事件でござるよ!」

つばめ「ええ。あれはとっても怪しいです」

信乃「よぉし、追いかけるぜ!」

悠「あっ……だから勝手に動くなと……」

吉音「悠、あたしたちも行こっ」

悠「……おう!」

平和・信乃・つばめ「待て~!待て待て待てぇっ~!!ま、待てぇ……はぁ、はぁ……」

悠「はっ……はぁ……あの屋台、どれだけ……逃げるん、だよ……っ……」

もう、さっきから何分間こうして走っているのか……それすらも分からなくなるほど、頭が酸欠状態だ。それだけ必死に追いかけているのに、逃げる屋台との距離は一向に縮まらない。

さすがにおかしい。逃げている相手がどれだけ力持ちでも、屋台を引いてこんなに速く、長く走りつづけていられるはずがない。え、つまり相手は人間じゃない!?まさか本当に妖怪の仕業!?って、そんなわけはない。何か秘密があるはずなんだ。でなきゃ、おかしい!

吉音「ゆ、悠ぅ……あたし、目がぐるぐるしてきたよぉ」

悠「なんでだよ……あっ!そうか、そういうことか!お、おい、三人とも!ちょっと聞いてくれ!」

平和「はっ、はぁ……なんで、ござるかっ……?」

悠「あの屋台、さっきんから同じところをぐるぐるまわってるんだ」

信乃「いわれて、みれば……そのとおり、です……だぜっ」

つばめ「そ、それで、どうするん……ですか?はぁ、はぁっ」

悠「はっ、っ……いいか、平和たちは逆回りに走るんだ。挟み撃ちにするぞ……!」

平和・信乃・つばめ「はいっ!」
78/100ページ
スキ