ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー雪那の寺小屋ー

雪那「……なるほど。それで玖慈さんは、私のところにきたというわけですか」

信乃「はい。雪那先生だったら、学園に代々伝わる不思議なことも沢山、知っていらっしゃると思ったんです」

雪那「あまり買被られても怖いのですが、不思議なことというと、たとえば七不思議だとか、ですか?」

信乃「あっ……はい、そうです!」

雪那「……ふふ」

信乃「な、なんでしょう……?」

雪那「普段もそのくらい勉強熱心だと嬉しいんですが……と思っただけですよ」

信乃「あぅっ……す、すいません……」

雪那「ですが、学園のことに興味を持つのはとても良いことだと思いますよ。そもそも、この大江戸学園は……」

信乃「ああっ、雪那先生!あんまりお時間をいただくわけにはいきませんから、手短に教えていただければ!」

雪那「そうですか?私なら構わないのですが……七不思議でしたね、知りたいのは」

信乃「あ、はい。そうです」

雪那「さすがに七は知りませんが、ひとつ変わった怪談を聞いたことがあります」

信乃「えっ!どんな話しですかっ!?」

雪那「玖慈さんも、学園島では趣味の範疇でなら釣りが許可されていることを知っていますよね。」

信乃「はい。海とか川とかで釣りをしている人を見たことがあります」

雪那「では、置行掘の話しを聞いたことは?」

信乃「おいてけぼり……?それ、お化けの名前ですか?」

雪那「いいえ。置行掘と呼ばれているお掘りがあるんですよ。そこで釣りをすると、とてもよく釣れるのだそうです」

信乃「へぇ……」

雪那「ですが、いざ釣った魚を持って家に帰ろうとすると、と゜こからともなく声が聞こえてくるのです。置いてけぇ、置いてけぇ、という声が!」

信乃「ええぇっ!!ほ、ほっ本当ですかぁ!?」

雪那「さあ、どうでしょうね。私はそこで釣りをしたことがありませんから」

信乃「もし、お魚を置いて行かなかったら、どうなっちゃうんですか……?」

雪那「そのときは、釣った魚の代わりにお堀の中へ引きずりこまれてしまうのだそうです」

信乃「沈んで溺れちゃいますよっ!?」

雪那「はは、大丈夫ですよ。この話しは、釣りに熱中し過ぎて足を滑らせたひとの話しが誇張されて広まっただけですから」

信乃「……ぇ?」

雪那「この学園島はまだ二らしい埋立地ですから怪談や七不思議が生まれる程の歴史はありませんよ。だというのに、このような怪談が広まっている事実は社会心理学上の考察に値するとは思いますが」

信乃「あ、あっ……あの、雪那先生!それで、その置行掘というのは、どこにあるんですか?」

雪那「おや、もしかしていってみるつもりですか?」

信乃「はい。何事も自分の眼で確かめることが大切だって、雪那先生、いつもいってるじゃないですか」

雪那「……そうでしたね。私の授業をよく聞いてくれていて嬉しいですよ」

信乃「あ、はい……」

雪那「場所は教えてあげますが、くれぐれも足を滑らせないよう注意するように。いいですね」

信乃「はい、分かりました」
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