ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

男子生徒A「すっかり食べ終えて、満足したときには、いつのまにか店の外に…………」

由佳里「そ、それは……」

さすがにそこまでは由佳里でもないみたいだった。

銀次「まぁーた、そんな嘘言ったって、すぐにばれちゃうんだぜぇ?」

光姫「まあ待て銀次。この者嘘はいっておるまいよ。似たような者ならそこにひとりおるしな」

由佳里「えへへへーー」

にこにこしている由佳里に光姫さんはため息をついた。

光姫「とはいえ、食い逃げの罪は罪だ。これはつぐなってもらわねばならん。……だが、悠」

悠「はいな?」

え、いきなりおれに話しを振ってきたけれど……。

光姫「いままでの被害者はみな、この者の姿かたちは覚えておらんのだよな」

悠「それは……そうでしたね」

光姫「逢岡あたりには怒られてしまうかもしれんが……、わしにひとつ提案がある。どうじゃおぬし、わしの目となり舌となって、美味いもの探しをしてみぬか」

男子生徒A「え……、えっ?」

光姫「食い逃げにあった店には、わしから代金を払っておこう。そしてこの者にはわしの手伝いをさせ、その球菌からその分をいずれ弁済させる」

吉音「手伝いって?」

光姫「この者、ミトランにも載っておらぬ店を次々に廻っていたろう。ということは美味いものに鼻がきく」

悠「なるほど、そういうことになりますね」

光姫「それに、さすがにわしひとりでは、学園中のうまい店を探し当てるのはなかなか難事だ。その下調べを、この者に手伝ってもらおうと思うのだが。どうじゃ?」

男子生徒A「そ……そんな、いいんですか?だって自分は……」

光姫「無理に我慢をせずにおれば、食い逃げなどせんですんだのだろ?」

男子生徒A「はいっ、それはもう!」

光姫「では決まりだ。よいかな、悠」

悠「…………そうですねえ。悪人を作りだすのがおれ達の仕事じゃありませんからねえ」

由佳里「じゃあ、このひとお仕置きされなくても済むんですか?」

光姫「そういうことじゃ」

由佳里「よかった、よかったですねえ!」

男子生徒A「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!」

男子生徒は由佳里の手をとって涙をこぼした。

銀次「お嬢のために、きちんと働くんだぜぇ?」

男子生徒A「ひい。は、はいっ」

いきなり耳元でしゃべられて、男子生徒が飛びあがる。

銀次「良い舌してるみたいじゃないか。どうだい俺も味わってみちゃ。けっこういい味してるって評判なんだぜぇ」

男子生徒A「え、え、え?」

銀次「なあに心配するこたぁない。俺は食い逃げなんてしない男さ、きっちりみっちりねっとりがモットーなんだ」

男子生徒A「あの、あの、あの……っ」

混乱している男子の腕をぐいとつかまえ、銀次が引っ張る。

銀次「よおし、わかってくれたか。分かってくれれば話しは早い。さっそく男同士のグルメとしゃれこもうぜぇ」

男子生徒A「ひ、ひっ。ひいいいいいいーーーーーーっ」

吉音「あーー、フェードアウトした……」

悠「……いいんすか?あれ」

光姫「たぶんな……、まあ壊さん程度に……」

由佳里「ねえ、男同士ってなに食べるんでしょうねっ。いいなあ、あたしも食べたいなー」

悠「やめたほうがいいぞ。たぶん、だけど」

由佳里「ほえ?」

光姫「まあともかく、ハチのおかげで一件落着じゃ。さっきの天ぷら屋で食べ損ねた食事にするとしよう。もちろん、わしのおごりじゃ」

光姫さんがにっこりと笑った。
65/100ページ
スキ