ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー大江戸学園:大通りー

通りに面した洋食屋から出てくる水戸光姫と八辺由佳里。どうやら食事の後である様子。

光姫「うむ。なかなか美味であったな」

由佳里「はい。光姫さま!とっても美味しかったですぅー♪」

光姫「繁盛しておるというから、多少は仕込みやら盛りつけやら荒くなっているところがあると思ったが……」

由佳里「盛り付けも綺麗でしたねぇ。食欲をそそりましたぁ」

光姫「うむ。そうじゃな。評判に違わぬよい店であった。これはミトランに載せても善かろう」

ミトランとは、学園を隅々まで歩きまわって、光姫自らその舌と目で確かめたグルメガイドのことだ。

由佳里「おいしかったですぅ。洋食なのに新鮮なみょうがが利いてて、ごはんのお代りが止まりませんでした!」

そういってお腹のあたりをぽんぽんと叩く由佳里。

光姫「ハチ、お前な……。一応でも女子として…………」

由佳里「デザートにドーナツなんか食べにいきませんか?光姫さま!……あ、今何かおっしゃいました?」

光姫「いや…………なんでもない。まあお前が満足ならそれでもよいがな」

由佳里「?」

学園きってのグルメ、水都光姫も、八辺由佳里の鋼鉄の胃袋を前にしてはかたなしである。光姫はあきらめたように笑ったものの、しかし由佳里の提案については別だ。

光姫「そこまでつきあえるん。味が分からなくなるわ。さ、ゆくぞ」

由佳里「ええーーっ」

提案を一蹴し、光姫は先に立って歩きだす。と、そのとき。

男子生徒A「おっとごめんよ」

由佳里「あっ、すいませーん」

同じ店からでてきた男子生徒が、由佳里の背中にどんとぶつかった。そしてそのまま急ぎ足で立ち去っていく。

由佳里は男子生徒の立ちさった方をぼんやりと見ている。なにか考えている風なのだが……。

光姫「どうしたのじゃ、ハチ」

由佳里「あ、すみません。なんでもないですっ」

光姫「そうか?ならゆくぞ」

由佳里「はいはいっ。今度はなに食べましょうかっ」

光姫「食べんといっておるだろうがっ。悠のところじゃ、食後はゆっくりと茶をいただくものだろうに」

由佳里「小鳥遊堂ですねえ。はーい。おやきにようかん、大福餅。あられ、せんべい、水ようかん。ふっふ~」

いま三品料理を頼んで、さらにライス三回お代りしたはずなのに……。まったく衰えることをしらない由佳里の食い気であった。

光姫「まったくお前という奴は……ゆくぞ」

光姫はあきらめて肩をすくめ、再び歩きだした。



ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

呑気な午後のひととき。おれがそろそろ目安箱の中身を確かめようか、というところに光姫さんと由佳里がやってきた。

悠「やあ、光姫さん。由佳里」

光姫「茶をくれぬか。いま、向こうの洋食屋で昼を済ませてきたところでな」

悠「わかりました。じゃあさっぱりするやつがいいですね」

由佳里「あたしは、おまんじゅうも!」

悠「……おい、いま昼を食べたっていってなかったか?」

由佳里「やだなあ悠さん。おまんじゅうは別腹ですよう」

悠「はいはい。お茶がふたつと、まんじゅうがふたつね。ちょうど野沢菜まんじゅうが蒸しあがったところ……」

光姫「む?わしはいらんぞ?」

悠「わかったます。由佳里の分です。食べるだろ?」

由佳里「はあーーい!」
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