ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー大江戸学園:演劇部部室ー

悠「そこまでだっ!」

おれ達三人は、演劇部の部室を見つけるや否や、なだれ込むように突入した。

吉音「!?」

……だが……すでに、手遅れだった。部室の中では……とんでもないことが、起こっていた……!

男子生徒A「お願いします!」

男子生徒B「この問題の答えを!」

女子生徒A「あたし達に!」

「「「教えてください!」」」

吉音「……な、なんで……この人たち、土下座してるの……?」

悠「頼まれてるのって……例の、被害者さんだよな……」

文「そう、です……部長さん、ですよね?」

部長「えっ?は、はい、私が演劇部の部長ですけど…………あ、この前、助けてくださった方ですよね!あの時はお世話になりました」

文「……い、いえ……こちらこそ……」

さしも文も状況が読めず、お礼をあっさり受け取ってしまうほどだった。いや、おれもさっぱり分からないけど。なんなんだ、この状態は……。



悠「……なるほど。じゃあ今回のことを要約すると……まず、こっちの三人組は、演劇部の部員、と」

部長「はい、お恥ずかしながら……」

恥ずかしいという理由は、よく分かる。これまでの経緯というのもあるが……。

演劇部員A「ま、またやられただと……!」

演劇部員B「……なぜ、俺達は勝てない……」

演劇部員C「今回、すっごく頑張ってのに~」

吉音「弱いから、かな?」

「「「うえぇぇぇん」」」

おれ達は乱入に慌てた三人組が、再度襲いかかってきて……再度負けたのだった。今は、三人きっちり積み重ねられて、吉音が座布団代わりに座っている。

悠「そして彼らが、飛鳥先生のテストを盗み出したのが、事の発端だと」

部長「はい、彼らはその……お分かりになるかと思いますが、あまり勉強は得意では無くて……」

悠「はい、よくお分かりになります」

部長「成績が悪くて、留年しそうなんです。そこで、彼らが思いついた案が……」

悠「問題をあらかじめ盗めば、なんとかなる……と」

部長「……でも、なんとかならなかったんです。その問題が解けなくて」

うん。驚くくらい、馬鹿馬鹿しい話しだ。馬鹿は、何をやっても馬鹿ということなんだろうか……なんだかちょっと切ないくらいだ。

演劇部員A「問題を解ける頭があったら、実力でテストをクリアできるに決まってるだろ!」

吉音「あ、それ正論かも」

悠「全然ちがうからな、吉音」

部長「だから、その……私は、人並みに勉強ができますので……この問題を解いてくれ、と頼まれたんです。でもそれは、カンニングの片棒を担ぐような真似ですから……ずっと断っていて……」

なるほど。文が見かけたのも、多分そういう状況だったんだな。

悠「まあ、共犯者になれと迫られても、困るわなぁ」

部長「ええ、まあ……正直……」

悠「で、どうしますか?彼らのこと」

部長「どう、言いますと?」

悠「問題を不正入手したうえに、あなたを脅した。決して軽くない罪ですよ、これは」

部長「……お目こぼしを、いただけませんか?」

悠「あー?」

部長「もちろん、問題はお返しします。この子たちは、覚えていられるほど器用ではないので、そこは安心してください」

悠「……」

悲しい安心だな……。

部長「カンニングは決してさせません。その代わりテストまでの間、私がしっかり勉強の面倒を見ます。実力で、留年を回避させて見せます!」

確かにそれは立派なことだけど、それで盗んだ罪とかの購いになるんだろうか……。とはいえ、更生の機会かもしれないし、部長さんの気持ちもむげにしたくない。

悠「うーん、どうしたらいいと思う?吉音?」

吉音「んー、思うんだけどさ。今回って、依頼した人、いなくなっちゃたんだよね」

悠「あ、そうか。犯人の一味だったからな」

吉音「だったら、解決しないと困る人もいないんだし、部長さんのいう通りにしてもいいんじゃない?」

悠「なるほど、そういう考え方もあるか……じゃあ、その方針でいいか」

飛鳥先生も被害者といえば被害者だが、幸い問題の流出までには至ってない。……あの三人組の頭が悪いおかげで。それに、飛鳥先生の管理が甘かったのも、原因のひとつだしな。となれば、純粋な被害者は部長さんだけだし……。

吉音「うん、だねっ!」

部長「あ、ありがとうございます!」

自分のことのように、満面の笑みを浮かべる部長さん。悪事に加担させかけたり、監禁までされたのに、懐が深いというか……。それとも、部の責任者って言うのは、これくらいの度量が必要なんだろうか。大変だな、部長さんって……。

吉音「じゃあこれで、一段落かな?」

悠「あ、いや待て、もうひとり巻き込まれた人がいるじゃないか。えっと……あれ、文は?」

慌てて振り返ってみるが、そこには誰も居なかった。

吉音「さっき、何も言わずに出ていっちゃったけど?」

悠「……気づいてるなら、いおうな」

吉音「悠が気づいてないことに、気づいてなかった」

うっ……なんだかおれの鈍さが悪いみたいだ。いや実際落ち度なんだけど。

悠「まあ、問題が片付けば後はどうでもいいって感じだろうし、じゃあこれで終わり、かな」

吉音「うん!万事、解決!」


ー大江戸学園:廊下ー

鼎「あらあらあら!どこにあったの、これ?」

悠「教室のゴミ箱の中です。誰かが、ゴミと思って捨てたみたいです」

吉音「先生が間違って捨ててたりね~」

鼎「うっ、そうかも……反省です」

悠「でもまあ、見つかってよかったじゃないですか」

鼎「そうね、本当に助かっちゃった。届けてくれて、ありがとね!」

吉音「えっへん!」

鼎「…………ところで……中、見ちゃった?」

悠「もちろん見てませんよ」

吉音「もちろん、見ても分かりません~」

明らかに趣旨のずれた答えをする吉音。絵前なぁ……。

鼎「それはそれで、先生困っちゃうんだけどなぁ」

吉音「あはははは~っ」

なんて、そんな能天気な笑い声が校内に響き渡り。まさに一件落着!と相成った一日だった。



文「…………あの、教師…………もしかして…………いえ、勘違いですね。きっと……」
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