ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

どうにもややこしい事態になっていたので、一度整理してみることにした。その結果、分かったことは……。

悠「あの依頼主は、助けられた方じゃなくて、むしろまったく逆の立場なのか……」

文「被害者らしきひとを追い詰めていたのが、先ほど現れた男性の片方でしたから。その男の側ににいたということは、依頼主の女性は、同じ一味かと思います」

吉音「だとすると、あなたを探してた理由って、お礼とかじゃなくて……」

悠「意趣返し、ってひとか」

吉音「なんだかめんど~なことに巻き込まれちゃったねぇ?」

文「これだから、人と関わりたくいんですよよ……」

吉音「ん?んん?むむむ?だとすると……本当の被害者さんっていうのは、別にいるんだよね?」

悠「ああ、そうなるだろうな」

吉音「意趣返しってことは……もしかして、その子も狙われたりしない?」

悠「その可能性はある……いや、むしろ高いな」

吉音「じゃあ、助けに行かないと!」

悠「それはそうだが……その子の顔を知ってるのは、君だけだ。彼女のこと、知ってるか?」

文「いえ、その時会って、それっきりですから、情報らしきものはなにも」

悠「顔は!?顔は覚えてないか?」

文「大体は覚えていますが、特徴ある顔立ちでもありませんし、口で伝わるとは思えません」

悠「……いや、顔だけ覚えてもらっていれば、調べようはある。すまないが、協力してくれ。」

文「……すみませんが、私には関係ないことですから」

そのつれない態度は、いかなる場合でも相変わらずだった。しかし、引くわけにはいかない。おれは必死に食い下がる。

悠「……本当に関係ないか?あんたがその場に立ち会ったことで、さっきの奴らの行動を、より過激なものにしたかもしれない」

文「…………」

悠「それがきっかけで、人探しの依頼までしてきた。おれ達だって巻き込まれた側だ。お互い、関係ないとはいえない立場なんじゃないのか?」

文「…………分かりました。今回はこちらが折れます」

悠「すまん、助かる」

文「お礼はいりません。感謝して欲しいから協力するわけではありませんから、断り続けて、これ以上時間を無駄にするのを回避しただけです」

悠「……分かった。これ以上、困らせるような事は言わないでおく」

文「助かります」

吉音「でも、被害者のひとをどうやって調べるの?手掛かりは?」

悠「顔を覚えてるんだ。あとは、名簿をしらみつぶしにあたって……」

吉音「……十万人分の?」

悠「あー……確かに数が多すぎるな……女ってだけでなくもう少し、候補を絞れる情報があれば……」

文「…………部長……?」

悠「あー?」

文「確か……あの男が、会話の中で……部長、と呼んでいた記憶があります」

悠「部長……愛称とかじゃなくて、実際に部の代表だったら、数も限られてくるな」

吉音「うん、無理じゃない数だよ!」

悠「よし、ならあの人たちに助けを求めよう!」



光姫「どうじゃ、見つかりそうか?」

文「……ここまで見た限りでは、まだです。」

光姫「ハチ、次を見せてやれ。」

由佳里「は、はいっ!」

おれ達は、迷うことなく光姫さんと由佳里を頼った。人探しや人物データなら、彼女達以上に詳しいひとはいないだろう。事情を包み隠さず話すと、光姫さんは快く協力を申し出てくれた。……具体的には、「端末ごとハチを好きに使ってくれ」というものだったけど。

文「違います……この人でもないです……」

由佳里の操作する末端を、文が食い入るように見ている。とても協力を渋っていたようには思えない。
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