ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー大江戸学園:廊下ー

悠「……って、ずいぶん安請け合いしてたけど、何かメドはあるのか?」

吉音「ぜんぜん!」

悠「その、隠しごとをしないところは、嫌いじゃないけど……確かあの笠の子……多分文だと思うけど、光姫さんの持ってるデータにも載ってなかったんだよな。まあ、まだ同一人物って決まったわけじゃないんだけどさ」

吉音「んー……ここは、基本に戻れってやつかな」

悠「あー?基本?」

吉音「犯人は、現場に戻る!」

悠「……その理屈だと、戻ってくるのは依頼人に詰め寄ってた男の方だぞ」

吉音「あれ?」

悠「とはいえ、校舎のなかのできごとなんだから、ここで出会える可能性も低くはないだろう。あとは、放課後なら島のあちこちを回ってみる、とかだな。なんか、放浪グセがあるっぽい感じだし」

吉音「うむうむ、じゃあその線で!」

というわけで、当面の方針も固まり、校舎やその周辺を散策してみた。しかし当人どころか目撃情報も得られないまま、日暮れを迎えてしまう。この分だと、少し手ごわい依頼になりそうだな……。




ー???ー

「……で、ヤツは見つかったのか?」

「ううん、今日は駄目だったみたい」

「ちっ、役に立たん……」

「……無理に探し出すこともないんじゃないか?」

「どういうこと?」

「このまま当日まで何事もなければ、問題ない。探すことで、無用な騒ぎを招く方が怖い」

「でも、このまま不安を抱えているのも、得策とはいえないんじゃない?」

「それに、事後でも告発されては面倒だ。ひっくり返される前に釘を刺すほうが、万全だろう」

「…………そうだな、すまん。その通りだ」

「ああ、なんとしてでも見つけ出し……」

「『処理』、するのね」

「……うむ……」



ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「……うーん、うーむ……どうするべきか……うむむ……」

おれが腕を組み悩んでいるのは、例の依頼についてだった。困った人を助けたいという吉音の気持ちは分かるし、応援もしてる。だから、今日も依頼の人を捜しに行くべき……なのだが。この店……どうする?探しに行くのなら、店を閉めないとならない。留守を任せるあてなんてないからだ。しかし、昨日に引き続き今日も閉めるとなると、まず売り上げに関わる。そして臨時休業が続けば、今度は客足に影響が出るだろう。

ただでさえ、客足不足に悩んでいるのが現状だ。今来てくれるお客さんまで、足が遠のいたら……。おれが目安箱に投書する側になりそうだな。店を助けてくださいって……思ったよりも現実味があったので、一瞬寒気を感じてしまう。

うーん、どうすれば、何かいい選択肢は……いっそあの子が向こうから来てくれたら、それが一番なのにな……。

文「……」

そうそう、あんな感じで…………えっ!?昨日、あれほど探し回った人物が、今目の前をごく自然に歩いている。のんきに……いや、本人はそんな意識はないんだろうけど、おれの主観的に口笛なんて吹きながら。いや、正確には楊枝笛か?

悠「って、そんなことはどうでもよくて……おーい!」

文「…………」

見失う前に、おれは慌てて声をかけた……が、反応はまったくだった。ええい、嫌がるのだろうけど仕方ないな!

悠「文!文文文あやや!文さん!」

文「……やめてください、なんです?」

直接名前を呼んだら、ようやっと足を止めてくれた。

悠「ちょっと話しがあるんだが……」

ただ視線が冷たくて怖いんだけど……。

文「私にはありませんので、失礼」

そして、すかさず歩きだす。

悠「いやいやいや、頼むから待ってくれ!」

文「……なんですか」

悠「うん、ちょっと聞きたいことがあって……この前校舎で、向かってきた男を転ばせて負かせた人って、君か?」

文「……そういう面倒なことがあったことは、ありますが」

悠「じゃあ、やっぱり当たりかもしれないな。いや、その時助けてもらった人が、君にお礼を言いたいらしくて……」

文「いえ、人助けをした覚えはありませんから、人違いかと」

悠「へ?」

文「それでは、私はこれで……」

悠「ちょ……特徴も一致するし、感謝したいらしくて」

文「私は、されたくありません」

うーむ、暖簾に腕押しだ。とはいえ、ここで逃がしたら、いつこの子に会えるか分からない。
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