ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】
ーとある武家屋敷ー
住宅与力「……いまの話、間違いないんだな?」
住宅同心「はい。あれは間違いなく逢岡奉行でした……まさか、たかが手続き上のミスに奉行が出てくるとは……」
住宅与力「馬鹿者、そんなわけあるか。俺たちの不正に感づいたからに決まっているだろ!あの長屋が何事もなく取り壊されてくれれば、証拠は全て闇に葬れるというのに……返す返すも馬鹿ものが!」
住宅同心「も、申し訳ありませんっ」
住宅与力「いまさら謝罪など遅いわ!通達不備などと詰まらんミスしよって!いま町方に手入れされてみろ。お縄になるのは俺だけじゃなく、貴様もなのだぞ!」
住宅同心「わっ、分かっております」
住宅与力「……ならば、何をすればよいのかも分かっているんだろうな?」
住宅同心「こ……心得ておれます……今夜中にかならず、証拠は消して見せます……」
住宅与力「ああ、頼むぞ。くれぐれも見つからんようにな」
ー桃子の長屋ー
桃子「ぐがぁー……くかぁー……ぐがっ、っ……んぁ?なんだぁ?誰だよ、外で懐中電燈なんか振り回してやがるのは、安眠妨害もいいところだぜ……ったくよぉ…………。おい誰だぁ?こんな時間に明りをちらつかせてるんじゃ……ね……え、ぇ……ぅえええ!?かっかかっ火事だぁ!!みんな起きろ火事だぁ!!」
住宅同心「くそっ、なんだって見つかるんだよ……せっかく火を点けたのに、これじゃ消されちまうじゃないか!……あっ、やべ!」
桃子「そこに隠れてやがる奴、出て来い!あっ、待て!逃げるな、この野郎!……といわれて逃げないヤツはいねえよなぁ。にしても……あの顔は……」
悠「鬼島さん!火事って本当か!!」
桃子「おう、悠か。本当だけど、あたいがいま消し止めたところだから安心しな」
悠「消し止めた!?鬼島さんひとりでですか?」
桃子「おうっ、こいつで燃えてるところ叩っ壊してな」
悠「あ、はは……なるほど、凄いですね……」
桃子「んなことより、悠」
悠「はい?」
桃子「これからちょっくら鬼ヶ島にいってくるんだが、悠も一緒にどうだ?」
悠「……はい?」
ーとある武家屋敷ー
住宅同心「与力さま……」
住宅与力「お、帰ったか。上手くやったか!?」
住宅同心「いえ、それが……見つかって、小火で消し止められてしまいました……」
住宅与力「なんだと!貴様、それでおめおめと戻って来たわけではないだろうな!?」
住宅与力「で、ですが、住人に顔を見られてしまいまして……」
住宅与力「なんだとぉ!?おい貴様、まさか放火するのに帽子のひとつもかぶっていなかったんじゃないだろうな!?」
住宅同心「……あっ」
住宅与力「あっ、ではない!この馬鹿者が!貴様はあの長屋の管理担当者だろうが!長屋の住人が貴様の顔を知らんはずがないというのに、ああっ、もう終わりだ……全部終わりだぁ……」
住宅同心「お、俺、捕まっても与力さまの事はいいませんから!」
住宅与力「馬鹿者……貴様が喋らなくとも同じだ。せめて、証拠さえ燃やしておければ……ぬうぅっ」
住宅同心「おっ、俺!もう一回、火ぃ点けて……うわぁっ!?」
住宅与力「なんだっ……投げナイフか?」
「そいつはな、小柄ってんだよ」
住宅同心「だっ、誰だ!?」
住宅与力「庭だ!おい、障子を開けろ!」
住宅同心「へい!」
屋敷の内側から、障子が勢い良く開け放たれる。その物々しい音を聞いただけで、俺は心臓が弾け飛びそうになっている。だけど……この人は全然違った。むしろ全く逆だった。
住宅与力「だ……誰だ、貴様は!面なと被って怪しい奴め!」
住宅同心「そうだそうだ!顔を隠すなんて卑怯だぞ!」
桃子「……」
座敷の中から青ざめながら怒鳴り散らしてくる役人を前にしても、鬼島さんは身動きひとつしていない。艶やかな打掛を被ったまま、般若の面で隠した顔を、まっすぐ座敷に向けている。それがあまりにも異様で堂々としていて目が離せないからなのか、役人たちはおれに気付いても居ない。
住宅与力「……いまの話、間違いないんだな?」
住宅同心「はい。あれは間違いなく逢岡奉行でした……まさか、たかが手続き上のミスに奉行が出てくるとは……」
住宅与力「馬鹿者、そんなわけあるか。俺たちの不正に感づいたからに決まっているだろ!あの長屋が何事もなく取り壊されてくれれば、証拠は全て闇に葬れるというのに……返す返すも馬鹿ものが!」
住宅同心「も、申し訳ありませんっ」
住宅与力「いまさら謝罪など遅いわ!通達不備などと詰まらんミスしよって!いま町方に手入れされてみろ。お縄になるのは俺だけじゃなく、貴様もなのだぞ!」
住宅同心「わっ、分かっております」
住宅与力「……ならば、何をすればよいのかも分かっているんだろうな?」
住宅同心「こ……心得ておれます……今夜中にかならず、証拠は消して見せます……」
住宅与力「ああ、頼むぞ。くれぐれも見つからんようにな」
ー桃子の長屋ー
桃子「ぐがぁー……くかぁー……ぐがっ、っ……んぁ?なんだぁ?誰だよ、外で懐中電燈なんか振り回してやがるのは、安眠妨害もいいところだぜ……ったくよぉ…………。おい誰だぁ?こんな時間に明りをちらつかせてるんじゃ……ね……え、ぇ……ぅえええ!?かっかかっ火事だぁ!!みんな起きろ火事だぁ!!」
住宅同心「くそっ、なんだって見つかるんだよ……せっかく火を点けたのに、これじゃ消されちまうじゃないか!……あっ、やべ!」
桃子「そこに隠れてやがる奴、出て来い!あっ、待て!逃げるな、この野郎!……といわれて逃げないヤツはいねえよなぁ。にしても……あの顔は……」
悠「鬼島さん!火事って本当か!!」
桃子「おう、悠か。本当だけど、あたいがいま消し止めたところだから安心しな」
悠「消し止めた!?鬼島さんひとりでですか?」
桃子「おうっ、こいつで燃えてるところ叩っ壊してな」
悠「あ、はは……なるほど、凄いですね……」
桃子「んなことより、悠」
悠「はい?」
桃子「これからちょっくら鬼ヶ島にいってくるんだが、悠も一緒にどうだ?」
悠「……はい?」
ーとある武家屋敷ー
住宅同心「与力さま……」
住宅与力「お、帰ったか。上手くやったか!?」
住宅同心「いえ、それが……見つかって、小火で消し止められてしまいました……」
住宅与力「なんだと!貴様、それでおめおめと戻って来たわけではないだろうな!?」
住宅与力「で、ですが、住人に顔を見られてしまいまして……」
住宅与力「なんだとぉ!?おい貴様、まさか放火するのに帽子のひとつもかぶっていなかったんじゃないだろうな!?」
住宅同心「……あっ」
住宅与力「あっ、ではない!この馬鹿者が!貴様はあの長屋の管理担当者だろうが!長屋の住人が貴様の顔を知らんはずがないというのに、ああっ、もう終わりだ……全部終わりだぁ……」
住宅同心「お、俺、捕まっても与力さまの事はいいませんから!」
住宅与力「馬鹿者……貴様が喋らなくとも同じだ。せめて、証拠さえ燃やしておければ……ぬうぅっ」
住宅同心「おっ、俺!もう一回、火ぃ点けて……うわぁっ!?」
住宅与力「なんだっ……投げナイフか?」
「そいつはな、小柄ってんだよ」
住宅同心「だっ、誰だ!?」
住宅与力「庭だ!おい、障子を開けろ!」
住宅同心「へい!」
屋敷の内側から、障子が勢い良く開け放たれる。その物々しい音を聞いただけで、俺は心臓が弾け飛びそうになっている。だけど……この人は全然違った。むしろ全く逆だった。
住宅与力「だ……誰だ、貴様は!面なと被って怪しい奴め!」
住宅同心「そうだそうだ!顔を隠すなんて卑怯だぞ!」
桃子「……」
座敷の中から青ざめながら怒鳴り散らしてくる役人を前にしても、鬼島さんは身動きひとつしていない。艶やかな打掛を被ったまま、般若の面で隠した顔を、まっすぐ座敷に向けている。それがあまりにも異様で堂々としていて目が離せないからなのか、役人たちはおれに気付いても居ない。