ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】
ー長屋ー
桃子「くっそぅ!みんな、あいつに目に物見せてやろうぜ!」
長屋の女子生徒「お金はかけられなくても、あたしら全員で協力すればあと五年や十年、保つってもんよ」
長屋の男子生徒「おうよ!エアコンがなくとも、夏は内団扇、冬は布団で乗り切ってきたんだ。貧乏学生、なめんな!」
鬼島さんたち長屋の住人は、酉居の歩いて行った方を睨んで意気を盛んにしている。
悠「この分だと、立ち退き問題は拗れそうですね……」
想「ええ、そうですね……」
吉音「酉居さえ来なかったら、すんなりいってたのにね」
悠「だな。視察って言ってたけど、本当は最初から邪魔するつもりだったりしてな」
想「さすがに、それはないでしょう。それよりも……少々気になることができました」
悠「どうしたんです?」
おれの問いかけに答える代わりに、逢岡さんは長屋の中へと入っていった。
吉音「想ちゃん、どうしたのかな?」
悠「さぁ……あ、戻ってきた」
長屋から出てきた逢岡さんは、そのまま鬼島さん達のほうに近づいていく。
想「鬼島さん。いま確認させてもらいましたが、エアコンが旧型のようですね」
桃子「おう。旧型かどうかは知らないんだけど、ガタがきているから、まともに動いてくれないんだ」
長屋の男子生徒「おかげで、うちの長屋じゃ団扇と布団が現役なんでさ」
長屋の女子生徒「そりゃ、あんたのとこだけだよ。あたしらは扇風機とストーブって文明の利器をちゃんと使ってるんだから」
長屋の男子生徒「うるさいね。風情ってもんかせ分かんないかね」
長屋の女子生徒「風情じゃなくてやせ我慢だろ、まったく」
桃子「まっ、不便ではあるけど、エアコンが動かなくたって何とかなるもんさ」
想「なるほど。ありがとうございます、参考になりました」
逢岡さんは鬼島さん達に一礼すると、おれたちのほうに戻ってきた。
悠「気になることって、エアコンのことだったんですか?」
気になって問いかけたおれに、逢岡さんも今度は、声を潜めて答えてくれた。
想「ええ……私の記憶によれば、数か月前に全学区全住居のエアコンが一斉交換されたはずなのです。新しいエアコンの納品は確認していますから、各戸に分配する時点で不備があったのでしょうか……」
悠「その分配ってのは、どこが担当しているんですか?」
おれの疑問に、逢岡さんはしばし黙考してから口を開く。
想「住宅環境方ですが、備品がそこに届くまでに幾つかの部署を経由していますから、まだ何とも」
悠「え、ええと……住宅環境方、ですか?」
想「ええ。長屋の管理は、そこの保全部が管轄しています。」
悠「あー……おれの理解力だと、アパートの管理人さん組合みたいなイメージしか想像できないっすね」
想「ああ、その想像で大体合ってますよ……ふふっ」
合っていると言いつつも、逢岡さんはくすくすと笑いを噛みころしている。
悠「そんなに笑わないでくださいよ……それよりも、おれに手伝えること、ありますか?」
想「……いいえ、これ以上は町方内部での問題になりそうですから」
逢岡さんはゆるりと頭を振った。言われてみれば確かにそうだ。奉行所内の問題となってくると、おれに手伝えることはないだろう。
悠「そうっすか」
想「また何かあったら、そのときはよろしくお願いします。」
悠「ういっす。了解です」
吉音「お仕事、頑張ってね」
鬼島さんたち長屋住人が一致団結しているその横で、おれ達も笑顔を交わすのだった。
その少し離れたところで、こちらをひっそりと窺う人影があったことに、おれ達はきづいてもいなかった。
桃子「くっそぅ!みんな、あいつに目に物見せてやろうぜ!」
長屋の女子生徒「お金はかけられなくても、あたしら全員で協力すればあと五年や十年、保つってもんよ」
長屋の男子生徒「おうよ!エアコンがなくとも、夏は内団扇、冬は布団で乗り切ってきたんだ。貧乏学生、なめんな!」
鬼島さんたち長屋の住人は、酉居の歩いて行った方を睨んで意気を盛んにしている。
悠「この分だと、立ち退き問題は拗れそうですね……」
想「ええ、そうですね……」
吉音「酉居さえ来なかったら、すんなりいってたのにね」
悠「だな。視察って言ってたけど、本当は最初から邪魔するつもりだったりしてな」
想「さすがに、それはないでしょう。それよりも……少々気になることができました」
悠「どうしたんです?」
おれの問いかけに答える代わりに、逢岡さんは長屋の中へと入っていった。
吉音「想ちゃん、どうしたのかな?」
悠「さぁ……あ、戻ってきた」
長屋から出てきた逢岡さんは、そのまま鬼島さん達のほうに近づいていく。
想「鬼島さん。いま確認させてもらいましたが、エアコンが旧型のようですね」
桃子「おう。旧型かどうかは知らないんだけど、ガタがきているから、まともに動いてくれないんだ」
長屋の男子生徒「おかげで、うちの長屋じゃ団扇と布団が現役なんでさ」
長屋の女子生徒「そりゃ、あんたのとこだけだよ。あたしらは扇風機とストーブって文明の利器をちゃんと使ってるんだから」
長屋の男子生徒「うるさいね。風情ってもんかせ分かんないかね」
長屋の女子生徒「風情じゃなくてやせ我慢だろ、まったく」
桃子「まっ、不便ではあるけど、エアコンが動かなくたって何とかなるもんさ」
想「なるほど。ありがとうございます、参考になりました」
逢岡さんは鬼島さん達に一礼すると、おれたちのほうに戻ってきた。
悠「気になることって、エアコンのことだったんですか?」
気になって問いかけたおれに、逢岡さんも今度は、声を潜めて答えてくれた。
想「ええ……私の記憶によれば、数か月前に全学区全住居のエアコンが一斉交換されたはずなのです。新しいエアコンの納品は確認していますから、各戸に分配する時点で不備があったのでしょうか……」
悠「その分配ってのは、どこが担当しているんですか?」
おれの疑問に、逢岡さんはしばし黙考してから口を開く。
想「住宅環境方ですが、備品がそこに届くまでに幾つかの部署を経由していますから、まだ何とも」
悠「え、ええと……住宅環境方、ですか?」
想「ええ。長屋の管理は、そこの保全部が管轄しています。」
悠「あー……おれの理解力だと、アパートの管理人さん組合みたいなイメージしか想像できないっすね」
想「ああ、その想像で大体合ってますよ……ふふっ」
合っていると言いつつも、逢岡さんはくすくすと笑いを噛みころしている。
悠「そんなに笑わないでくださいよ……それよりも、おれに手伝えること、ありますか?」
想「……いいえ、これ以上は町方内部での問題になりそうですから」
逢岡さんはゆるりと頭を振った。言われてみれば確かにそうだ。奉行所内の問題となってくると、おれに手伝えることはないだろう。
悠「そうっすか」
想「また何かあったら、そのときはよろしくお願いします。」
悠「ういっす。了解です」
吉音「お仕事、頑張ってね」
鬼島さんたち長屋住人が一致団結しているその横で、おれ達も笑顔を交わすのだった。
その少し離れたところで、こちらをひっそりと窺う人影があったことに、おれ達はきづいてもいなかった。