ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「ううん……」

吉音「うーん」

想「ふむ……」

いつもの放課後。いつものように繁盛しているお隣さんの喧騒が聞こえてくるなか、おれと吉音と逢岡さんは首をひねっていた。いつも以上に暇なところへ逢岡さんが顔を見せたので、これ幸いと目安箱の中身を検めていたところだった。投書の大半は緊急性の薄いものだったが、ひとつだけ、ものすごい緊急のものが入っていたのだ。

悠「……うん、やっぱり知らないと思いますよ。取り壊すなんて話しは」

吉音「うんうん、あたしもそう思う。モココさん、引越しの準備なんて全然してなかったもん」

想「しかし、長屋の建て替えはかなり前から決まっていたことですし、退去勧告も出していたはずなのですが……」

悠「ですが、現にこうして投書が来ているわけですし……どこかで不備があったんだと思いますよ」

想「……そうなのでしょうね。汗顔の至りです」

逢岡さんは申し訳なさそうに目を伏せた。その投書は、自分の住んでいる長屋を急に取り壊すと告げられて困っている、という内容だった。逢岡さんがいうには、そういう場合は事前に知らせを出すのだけど、どうやらそこでミスがあったみたいだ。

吉音「まーともかく、この投書の差し出し人さんに会いにいってみようよ」

悠「それもそうだな。ここで話していてもしょうがないか」

想「あ……それでしたら、私ひとりでも……」

吉音「大丈夫だよ、遠慮しないで。今日はお客さんもきそうにないもん」

悠「ははは……まあそういうわけですから、おれ達も一緒に行きます。どうせ、すぐそこなんですし」

そう……問題になっている長屋とは、うちの裏手の、鬼島さんが住んでいる年季の入った長屋の事だった。

吉音「それじゃー、行ってみよーっ」




ー長屋ー

桃子「あれ、悠じゃねえか」

悠「あー……こんちは、鬼島さん」

吉音「こんにちはっ」

桃子「おう、新も元気そうだな。それに……ちょいと珍しい顔まで一緒だ」

想「こんにちは、鬼島さん」

桃子「昼間っから別嬪二人を侍らせて散歩たぁ、悠も出世したもんだねぇ」

悠「そんなんじゃないですよ。それにそうだとしても一匹はペットです」

吉音「それってどーいう意味?」

悠「愛らしいって意味だよ」

桃子「あっはっは、冗談だ、冗談。逢岡がいるってことは、事件かなんかだろ」

悠「事件てほどじゃないけど、まあそんなところかな」

吉音「あのね、モココさん。モココさんの住んでいる長屋が取り壊されるのって、知ってた?」

桃子「へえ、そいつは初耳だ…………はぁ?!取れ壊されるだぁ!?いつ!?」

想「予定通りなら、もう一週間もないはずです」

桃子「なんだよ、それ……マジでいや、嘘だろ?」

想「残念ながら、嘘ではありません」

逢岡さんは申し訳なさそうに頭を振る。

悠「……」

想「本当ならとっくに連絡がいっているはずなのですが、その様子だと、やはり通告されていませんでしたか……」

桃子「マジかよ……って、逢岡がいってるんだから、マジに決まってるよな……いや参ったね、こりゃ。そりゃ確かに、ボロイし不便なとこだけどさ、あたい達にとっちゃ住み慣れた良い長屋なんだよ」

鬼島さんは大袈裟に身体を前後させて残念がっている。
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