ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ーとある長屋街ー

悠「おい、やめとけよ」

河内「いいややめねえぞ!くそお、どうせ奉行所なんて刀持ち共の味方なんだ。俺たちの見方はできねえんだ!」

悠「そうじゃねーってんだろっ!!悪人を退治するんだって、ご法にのっとってやらなくちゃいけないってるだけだ!!恨みがあるから、悪い奴だからって、誰でもがそいつを殴っていいことはないだろ。そんなんじゃ、お前をそんな目に遭わせた奴と同じだぞ」

河内「手前ぇっ、俺っちをあのクソ野郎と一緒だつていいやがるのかっ!」

悠「そうじゃねーよ!話を聞けってんだよ!」

内心しまったと思いながらも、おれはどうしたらいいかわからなかった。河内はどんどん激昂していってしまう。

河内「お上のするこたぁいつだってそうだ!俺たち一般生徒のことなんかこれっぽっちも考えちゃいねえ!」

男子生徒A「そうだそうだ!ちっとも頼りにならねえ!」

見覚えのある男子生徒が声をあげる。昨日河内を運んできた生徒のひとりだ。

悠「いい加減にしろよ。そうじゃないだろ。奉行所はいつだって生徒の味方だ。だけど奉行所にだって守らなきゃいけないきまりが……」

河内「ちくしょう!目安箱なんて嘘っぱちだったんだ!」

悠「だから話を聞けってんだろっ!!誰も決まりを守らなかったらどうして悪人を悪人だって言えるんだ……!」

おれは懸命に話したが、場は収まりそうにもなかった。




ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

おれが読みさしの本に集中できずにいると、吉音がよって来た。なにか言いたいことがあるらしい。話題が何かは想像がつく。

吉音「どうしてやっつけるって言わなかったの?」

やっぱりそれか。

悠「……」

吉音「通りがかっただけのひとを殴る蹴るするなんて、悪い奴じゃない」

悠「確かに河内をやったのは悪い奴さ。だけど、河内の仕返しの手伝いはできない。それじゃあおれ達はただの用心棒だ。最後は腕力の強い奴が勝つってことになるだろ。そうしたら、結局泣くのは河内や他の一般生徒だ」

吉音「うう……そりゃあ悠の言ってることはそうかもしれないけど……」

吉音は納得していないようだった。

悠「……」

おれだって。おれだって全部納得してるわけじゃないんだ……。せめてここが池袋なら崇に相談して心の底からビビらせて持続的に警護をさせたら二度と手を出さなくさせることはできるかもしれない。それでも、それだけのことをしてもらうためには対価はいるし、おれ個人の願いだけに崇を頼るのはデメリットしかない。結局おれも正解は見つかってないのだ。





ー大隅の武家屋敷ー

かなう「おおすみ……、ここか」

表札の名前を確かめ、かなうは通用門を叩いた。

大隅「なんだ貴様は」

かなう「お前が大隅だな。お前がきのうしでかしたことについてただしたくてやってきた」

大隅「昨日?ああ、あの下郎に罰を与えてゃったことか」

かなう「下郎?罰?なんだと……」

大隅「分もわきまえず、生意気なことを申したからな。自分の身分というやつを教えてやったまでよ。」

かなう「それで袋だたきにしたというのか。棒きれひとつ持たない男ひとりを」

大隅「それのなにがいけない」

かなう「いいわけがなかろう!我ら、学園に帯刀を許された生徒は、それだけの責任を任されているのだ。その責任とは好き勝手に他の生徒を叩きのめすことではないぞ!」

大隅「なにが好き勝手なものか、学園の治安を守っているのは我らだ。我らの武あってこその学園よ。それをまるで自分が同じ身分にでもなったかのような下郎の勘違いをただしてなにが悪いというんだ」

かなう「それが勘違いだというておるんだ!」

大隅「……話してもわからんようだな」

かなう「貴様こそ」

大隅「帯刀者にあるまじく、一般生徒の肩を持つなどおかしな奴め。この世には秩序というものがあって、それは力で守られるものなのだ。それがこの世の道徳というやつだ。」

大隅はぽんとたばさんだ刀の柄を叩いて見せた。
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