ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー武家屋敷:地下ー

想「比良賀君も笑ってないで!早くそれを止めなさい!」

輝「あはは、なーんだい。そんなに気にしなくても脱げはしないさ」

吉音「そうなの?」

輝「ああ、さすがにね。それに、モロ見えは輝さんの美学に反するしね!上はギリギリ、下はぱんちら!全部見えるなんて無粋な真似はしないさ!見えそうで見えない!これ最強!」

悠「なるほど、一理あるな!」

想「……」

う、逢岡さんの視線が心なしか冷たい……。輝の後ろの図書奉行と保険奉行は猛烈に拍手してるし……。

吉音「え~と、つまりモデルの画像は自分の好きなように動かせるってこと?」

輝「あくまで常識の範囲内で、だけどね」

得意げに語る輝を、逢岡さんが溜息まじりに見つめる。その表情はどことなく疲れているように見える。

想「……もういいです。今回の事件であなた方が起こした問題。盗撮、無認可サーバー設置、ネットへの過負荷などなど。数えだしたらきりがありません……、残りはお白州で聞くとしましょう」

輝「ちょ、ちょっと待って!」

想「……なんですか?」

今までとは違う輝の声色に、逢岡さんも足を止めた。どこか必死な表情。ここまで真剣な態度の輝をおれは今だかつて見たことない。突然どうしたっていうんだ輝のやつ?

輝「確かにおいらたちの問題を起こしたさ!それは動かしようのない事実」

悠「!?」

輝が自分の悪さを認めた……だと!?吉音と顔を見合わせる。吉音のやつも信じられないものを見たと、目を真ん丸くしている。

輝「それでも……それでも!この美少女コンテストだけは開催させてくれねえかい!」

…………は?

想「あ、あのですね比良賀君。私の話、聞いてましたか?」

輝「もちろんさ!でもこれだけはゆずれないんだ!このプロジェクトには、一万人の同胞みんなの夢が詰まっているんだぁい!だから、だから頼むよオーカさん!この通りさ!」

想「うっ……」

真っ直ぐに頭を下げる輝に逢岡さんがたじろぐ。その気持ちは凄く分かる。「あの輝」が素直に頭を下げているのだ。普通ではありえない光景だ。

図書奉行「お、俺たちからもお願いしますお奉行さま!」

保険奉行「どうか、どうかお慈悲を逢岡さま!」

今まで口を噤んでいた二人も輝に合わせて勢いよく頭を下げる。

想「そうは言われましてもね……」

「待ってくださいお奉行さま!」

想「あなたたたちは確か……」

男子生徒E「お願いですお奉行さま!俺らの夢を奪わないでください!」

男子生徒F「一万人の同胞の夢を!希望を!」

男子生徒G「お慈悲を!我ら美少女コンテスト開催の許可を!」

現れたのは、地上で守りを固めていた男子生徒たちだった。ボロボロの身体を引きずって、続々と地下の電脳室へと集まってくる。

男子生徒E「お願いします!」

男子生徒F「お願いします!」

自然と始まったお願いしますの大合唱は、どんどんボリュームを上げていく。お前らどこまでどんだけ必死なんだよ……。そこまでしてしたいもんなのか美少女コンテスト?

想「これは、困りましたね……」

熱意に押され、頭ごなしで否定できなくなったのか逢岡さんの顔に悩みの表情が浮かぶ。うわぁ、何だかどこかで見たことあるような光景だな……。

吉音「別にいいんじゃないかな想ちゃん」

想「徳田さん?それはどういう……」

吉音「だって、みんな楽しそうだしね。美少女コンテストくらいやってもいいんじゃないかなぁって」

悠「おい、新stop!」

慌てて新の口を塞ごうとしたけど遅かった……。吉音のやつ余計なことを!くっ、この状態で優勝候補の吉音がコンテストに賛成なんてしたら……。

男子生徒G「おお!優勝候補の徳田さんが賛成してくれるとは!」

男子生徒F「徳田さん!ありがとうございます!」

吉音「え?えへへ、まぁね~!」

輝「さっすが新ちゃん!分かってるねえ~」

無邪気に喜ぶ吉音、周囲の生徒たちがさらに勢いづく。その様を見ていた逢岡さんが盛大に溜息を吐いた。

想「はぁ……わかりました。仕方がありません」

輝「じゃあじゃあ!」

想「ここまでの熱意を持ち、支持を得ている行動をむげにはできませんからね……条件次第ではコンテストの開催を認めましょう。」

地下室に響き渡る大歓声。なんだこの一体感は……。

輝「オーカさん!この感謝は忘れないさ!オーカさんの英断は、瓦版の一面記事にして今すぐにでも町中に……」

地下室の盛り上がりは今や最高潮へと達している。

想「広めなくて結構ですから。それで条件なのですが、大前提として。今回起こした問題についてはしっかりと罰を受けてもらいます」

輝「う、罰……。えーいしかたがない!同士たちの夢のためさ。それぐらい甘んじるよ」

その素直な物言いに、少しだけ逢岡さんの表情が和らいだ気がした。

想「さすがに、本人の許可を取らずにエントリーさせるのは捨てておけません。アクセスが集中すると回線の調子が悪くなってしまいますので、ネットでの開催も不可です。ですので、公式に参加を募っての、生見出のコンテストであれば開催を許可する。これが条件です」

「やったー!」

「うぉー!」

再びの大歓声。

想「はぁ。毎度毎度のことですが、その情熱、行動力をもう少し友好的に使ってくれれば文句はないんですねどねぇ」

感涙に顔をぐしゃぐしゃにする者、肩を組んで喜びまわる者。エントリーを求め、さっそく地下室から飛び出していった者。おのおのが各自に行動を開始するが、その思いは全員が同じ方向を向いている。

吉音「わーし悠!あたしたちね頑張るぞー!おー!」

悠「まかしとけ!」

そう!おれたちの美少女コンテストのために!ってアレ、なんでおれまたこっち側に……

想「あなたたちまで……。ほんとにもう……」

疲れたように頭を抑えると今日一番の溜息は、大歓声の中へと消えていった。
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