ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

今日の小鳥遊堂は、いつになく賑わっていた。いや、騒がしいとか騒々しいとか形容すべきか。

平和「どうするでござる?」

信乃「うぅん、そうですねぇ……」

つばめ「やはり、いつものあの方にお頼みするのが一番かと」

悠「誰かに宿題を見せてもらおうって話しか?」

おれはお茶とお菓子を運んでいったついでに、何気なく話しかけた。

平和「わわっ!?悠さん、いつからそこにっ!?」

悠「いや、いまからだけど」

つばめ「じゃあ、探偵団の調査会議を盗み聞きしてたわけじゃないんですね」

信乃「守秘義務だから、聞かれちゃ困るんで……困るんだ」

悠「べつに盗み聞きしてたわけじゃないって。だけど、聞かれたくないんだったら、もう少し小声でやってくれ」

平和「むっ、やっぱり聞いてたんでござるねーっ!」

悠「だから、勝手に聞こえてくるんだって!」

つばめ「姫さま、こうなったら仕方ありません。悠さんも仲間に入れてしまいましょう」

悠「あー?」

平和「じゃあ、お菓子がかりでござるね」

悠「あーー?」

つばめ「というわけで、お菓子の追加オーダー四人分、お願いしますね」

おれは諦めて、お菓子を取りに厨房へ戻った。
自分の分のお茶とお菓子を持ってきて腰を下ろすと、おれは改めて三人に質問した。

悠「それでなんの話ししてたんだ?」

平和「むぐむぐ……ええとでござるね、いつものひとにお願いしようかーって話ししていたんでござる」

悠「いつものひとに……お願い?」

信乃「秘密の場所にお布施をすると、秘密のひとが秘密に願を叶えてくれるんだぜ、はむはむ」

悠「……秘密ばっかりだな」

平和「どこの誰だか、誰も正体を知ら無いのでござる」

悠「正体不明の何でも屋さん……?」

つばめ「ん……わたくしたちは親しみを込めて、お仕打さん、とよんでいます」

お仕打ちさん…………それって、いつぞや聞いた仕打ち人のことか?

悠「って、おい!おまえたち、まさか仕打ち人に辻斬りを依頼しようってんじゃないだろうなッ!!」

つばめ「辻斬り……はい?」

信乃「それに、仕打ち人じゃなくて、お仕打ちさん、です」

悠「名前はどっちだっていいよ。それより、何を依頼するつもりなんだ?」

平和「それは守秘義務でござるよ」

悠「じゃあ、いま食べたお菓子、返してくれるのか?」

平和「むぐっ……意外とせこいでござるね。でも、そこまで知りたいというなら、特別に教えてあげるでござる」

つばめ「有名洋菓子店の限定ケーキを、毎日買い占めている方を懲らしめてください……と依頼しに行くつもりなんです」

平和「あっ、私が言いたかったのに!」

つばめ「うふふ、だって姫さま、前置きが長いんですもん」

平和「うぅ~っ」

悔しげに唇を尖らせた平和を、つばめと信乃は笑って見ている。その様子からは、嘘をついているような雰囲気は感じられない。

悠「……良かった、そんな依頼で」

お仕打ちさんなる相手が、逢岡さんのいっていた、仕打ち人だとしても、そんな依頼は断るだろう。ケーキ好きな生徒を懲らしめる職業暗殺者だなんて、まるでイメージがわかない。

平和「そんな依頼とはなんでござる!ケーキが買えなくて、みんな困ってるんでござるんですからねっ!」

思わず苦笑いしたおれに、平和がいつも以上におかしな言葉使いで食ってかかってくる。

悠「わかった、わかった。悪かったよ、許してくれ」

おれは素直に謝った。ここで言い合いになっても面倒なだけだ。
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