ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

放課後のにぎわいを他所の風景に、あちの茶屋は今日も静まり返って……

伊都「いいですこと?真の淑女は常在戦場。いついかなるとき、誰の挑戦でも受けなくてはいけませんわ」

学園探偵団「「「はいっ、夜さま!」」」

……前言撤回。今日はとっても賑やかだ。他にお客もいないし、ちゃんと注文してくれているし、少々騒ぐくらいは別にいいけどさ。

伊都「苦しいこともあるだろう。言いたいこともあるだろう。不満なことも腹立つことも泣きたいこともあるだろう。それらを堪えず、すっぱり無視するのが女の修行よ!」

学園探偵団「「「はいっ、夜さま!」」」

伊都「運は天に、鎧は胸に、手柄は足に!」

平和「死なんと戦えば生き、生きんと戦えば死す!」

志乃「帰らじと思えば帰り、帰らんと思えば帰れず!」

つばめ「運は揺らげど、道は揺るがず!」

伊都「淑女の道は一直線。おのれの道を突き進め!それが淑女の生きざまよ!!」

学園探偵団「「「はいっ、夜さま!」」」

騒がしくするのはいいけれど、お嬢さま育ちな三人にあんまり変な教育はしないでくれよ。いや、いい事いっているとは思うんだけどさ。




三人組と伊都が帰ってからの店番は暇だった。あまりに暇すぎて自分でいれたお茶を既に八杯飲み終えてしまっていた。腹をタプタプにしつつ暇を持て余していると見知った顔がやってきた。

越後屋「小鳥遊さん、おじゃましますえ」

はじめ「…………」

悠「いらっしゃい……って、佐藤さんと越後屋か」

越後屋「はじめがさん付けで、ウチが呼び捨てというのが少々何ですがよしとします」

細かいこと気にする奴だな。だいたいお前は『さん』付けで呼んでもらえるような突きあいじゃないだろ。

悠「あー?なんだ、おれに喧嘩でも売りにきたのか?」

越後屋「この店は暖簾をくぐった客にいちいち殴りこみの疑いをかけるんか?」

そういわれた瞬間、脳裏に寅と風雷コンビの顔がよぎる。十分に疑いをかけるレベル。

悠「相手による。」

越後屋「まっ、失礼なお人やわ。」

きやや客層に問題があるのかもしれないが、先入観で噛みついたのはおれが悪かったかもしれない。

悠「それで何かおれに用事か?」

越後屋「別に今日は小鳥遊さんに用事がある訳やあらへん。ただ立ち寄らせてもろただけや」

はじめ「うん。今日は旦那の仕事のしたみで……。小鳥遊堂には休憩で寄っただけ」

悠「ってことは……本当に客か」

越後屋「ホンマに商売に向かんタイプやね。うちやなかったら出ていっとるで」

悠「ちゃんとしたお客には笑顔で接客していますから、それで何かご用意しましょうか?」

満面の笑みを浮かべるおれ。

越後屋「ひと息つければ十分や。お茶とお団子をお願いしますえ」

悠「わかった」

越後屋「やれやれ」

やれやれはこっちのセリフだ……。今日は普通にお客様然とふるまってくれるようだ。金さえ払ってくれるならお客様は神様です……と。




悠「お待たせ」

お茶と団子を二組盆に載せて提供する。自分でいうのもなんだが、だいぶ接客にも慣れてきた。立ち振る舞いもそこそこだと思う……誰も褒めてくれたことはないけれど。

越後屋「ふぅ……。ずず……ずずっ……。ふぅ……」

はじめ「……ずず……ず……」

越後屋「ふぅ……香りの立ったよろしいお茶やな」

悠「そっか?」

思わず身を乗り出す。褒められたのはおれ自身ではないがそれでも褒められれば悪い気はしない。それが越後屋であってもだ。
24/100ページ
スキ