ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】
ーシオンの屋敷ー
シオン「媚薬無しでも落とせるかどうかを、だ」
悠「頼むから、おれ以外のひとで試してくれ」
両方の手のひらを突き出してお断りの手振りをしても、シオンは気にせず顔を寄せてくる。
シオン「いいんだぞ、遠慮しなくて。ああそれとも、いまのは駆け引きというやつか?」
悠「遠慮してるんじゃないし、駆け引きでもないし……と、とにかく!おれは鬼島さんとのことを知りたいんだ!」
このままじゃ、いつまで経っても本題に入れない――そう思って強引に話しを切りだした瞬間だった。
シオン「鬼島、だと……!?」
シオンの顔が怒りに一変する。
悠「!?」
シオン「おい、悠。どうしていまここで、桃子の名前が出てくるんだ?どういうつもりだ!?」
悠「ど、どうういうったって……」
あまりに唐突だった表情の変化に、おれはすっかり度肝を抜かれてしまった。ついさっきまで誘うように微笑んでいた相手が、突然ものすごい形相でにらんできたのだ。はっきりいって怖い。
シオン「どうなんだ!?おまえ、桃子と寝たのか?それを自慢しに、わざわざ訪ねてきたんだな!!桃子と何回寝て、何発出して、何人に見せつけたか、私に自慢する気なんだろ。そうなんだろぉ!!」
悠「な……ちょ、ちょっと待てよ。一体どこから、そんな飛躍した結論が出てきたんだよ!?」
シオン「ハッ、違うというのか。なら、どうしてここにきた?いってみろよ、早く、ほら!」
悠「お前が鬼島さんに執着しているって話しを聞いたから、本当かどうか聞きたいんだよ」
シオン「終着!?私が、桃子に執着!?……おい、悠。誰だ、そんなふざけたことを言っているのは!?」
悠「そっ、それは……」
ものすごい剣幕で睨めつけてくるシオンに、冷や汗が背筋を伝う。師匠から聞いたなんて正直に言ったら、シオンはいますぐ飛び出していきかねない。だけど、氷の塊で顔を塞がれているかのような重圧の中で、ずっと黙っていることも無理だ。
シオン「言え、悠」
研ぎ澄ました刃の切っ先みたいな視線に、もうとても耐えられない。
悠「あー……えーっと……おっ、おれ、帰る!いきなり悪かった、じゃあまた!」
シオン「あっ……悠、待て!」
シオンが制止するのに気付かなかったつもりで、おれは脱兎の如く屋敷を飛び出した。どうしてなのかは聞き出せなかったけれど、とにかくシオンが鬼島さんを目の敵にしているのは良く分かった。
なるほど、名前を出しただけでもあの激昂では、御前試合でどうなるかを師匠が心配するのも大いに納得だ。おれも当日は何が起きてもいいように気を引き締めておいたほうがいいかもな。などと考えながら、おれはときどき背後を振り返りつつ、家路をいそいだのだった。
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
女子生徒B「ちょっと、あなたがこの店の店主?」
悠「あー?……そうだけど、いらっしゃいませ」
いきなり呼び付けられて振り向くと、そこには三人の女生徒が立っていて、おれを睨みつけていた。
女子生徒C「あたしたち、客じゃないわよ」
悠「そうなんですか……あ、じゃあ目安箱に投書しに?」
女子生徒C「違うわよ。わたしたちは、あんたに警告しに来たの!」
悠「へ……警告…?」
目を瞬かせたおれに、女生徒三人は眦を吊り上げる。
女子生徒B「そう、警告よ。あんた、私たちの眠利様に畏れ多くも夜這いをかけたそうじゃない」
女子生徒C「あたしら親衛隊に黙って抜け駆けなんて、あんた何様のつもりよ!?」
女子生徒D「しかも、男のくせに!ああけがらわしいっ!!」
三人は口々に捲し立ててくる。口を挟むすきがない。
女子生徒B「今度、夜這いなんて舐めた真似してくれたら、私たちが黙ってないんで、よろしく」
女子生徒C「シオン様の視界に入ってもいいのは、あたしら親衛隊だけなんだから!!」
女子生徒D「しかも男のくせに!男のくせにシオンさまと一夜を共にしようなんて絶対許さないんだから!キ――ッ!!」
女生徒達はいうだけいうと、おれに反論の隙も与えず走り去ってしまった。
悠「な……なんだったんだ……」
吉音「なんかすごかったね~」
おれの漏らした溜息に、店の奥からいまごろ顔を出した吉音がげっそりした顔でうなずく。
悠「新……おまえ、用心棒のくせに隠れてただろ」
吉音「そっ、そんなことないよ?」
悠「じゃあどうして、語尾があがるんだよ」
吉音「それは……ええと…………えへっ」
笑って誤魔化そうとする吉音に、おれはもうひとつ溜息を吐かされた。
シオン「媚薬無しでも落とせるかどうかを、だ」
悠「頼むから、おれ以外のひとで試してくれ」
両方の手のひらを突き出してお断りの手振りをしても、シオンは気にせず顔を寄せてくる。
シオン「いいんだぞ、遠慮しなくて。ああそれとも、いまのは駆け引きというやつか?」
悠「遠慮してるんじゃないし、駆け引きでもないし……と、とにかく!おれは鬼島さんとのことを知りたいんだ!」
このままじゃ、いつまで経っても本題に入れない――そう思って強引に話しを切りだした瞬間だった。
シオン「鬼島、だと……!?」
シオンの顔が怒りに一変する。
悠「!?」
シオン「おい、悠。どうしていまここで、桃子の名前が出てくるんだ?どういうつもりだ!?」
悠「ど、どうういうったって……」
あまりに唐突だった表情の変化に、おれはすっかり度肝を抜かれてしまった。ついさっきまで誘うように微笑んでいた相手が、突然ものすごい形相でにらんできたのだ。はっきりいって怖い。
シオン「どうなんだ!?おまえ、桃子と寝たのか?それを自慢しに、わざわざ訪ねてきたんだな!!桃子と何回寝て、何発出して、何人に見せつけたか、私に自慢する気なんだろ。そうなんだろぉ!!」
悠「な……ちょ、ちょっと待てよ。一体どこから、そんな飛躍した結論が出てきたんだよ!?」
シオン「ハッ、違うというのか。なら、どうしてここにきた?いってみろよ、早く、ほら!」
悠「お前が鬼島さんに執着しているって話しを聞いたから、本当かどうか聞きたいんだよ」
シオン「終着!?私が、桃子に執着!?……おい、悠。誰だ、そんなふざけたことを言っているのは!?」
悠「そっ、それは……」
ものすごい剣幕で睨めつけてくるシオンに、冷や汗が背筋を伝う。師匠から聞いたなんて正直に言ったら、シオンはいますぐ飛び出していきかねない。だけど、氷の塊で顔を塞がれているかのような重圧の中で、ずっと黙っていることも無理だ。
シオン「言え、悠」
研ぎ澄ました刃の切っ先みたいな視線に、もうとても耐えられない。
悠「あー……えーっと……おっ、おれ、帰る!いきなり悪かった、じゃあまた!」
シオン「あっ……悠、待て!」
シオンが制止するのに気付かなかったつもりで、おれは脱兎の如く屋敷を飛び出した。どうしてなのかは聞き出せなかったけれど、とにかくシオンが鬼島さんを目の敵にしているのは良く分かった。
なるほど、名前を出しただけでもあの激昂では、御前試合でどうなるかを師匠が心配するのも大いに納得だ。おれも当日は何が起きてもいいように気を引き締めておいたほうがいいかもな。などと考えながら、おれはときどき背後を振り返りつつ、家路をいそいだのだった。
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
女子生徒B「ちょっと、あなたがこの店の店主?」
悠「あー?……そうだけど、いらっしゃいませ」
いきなり呼び付けられて振り向くと、そこには三人の女生徒が立っていて、おれを睨みつけていた。
女子生徒C「あたしたち、客じゃないわよ」
悠「そうなんですか……あ、じゃあ目安箱に投書しに?」
女子生徒C「違うわよ。わたしたちは、あんたに警告しに来たの!」
悠「へ……警告…?」
目を瞬かせたおれに、女生徒三人は眦を吊り上げる。
女子生徒B「そう、警告よ。あんた、私たちの眠利様に畏れ多くも夜這いをかけたそうじゃない」
女子生徒C「あたしら親衛隊に黙って抜け駆けなんて、あんた何様のつもりよ!?」
女子生徒D「しかも、男のくせに!ああけがらわしいっ!!」
三人は口々に捲し立ててくる。口を挟むすきがない。
女子生徒B「今度、夜這いなんて舐めた真似してくれたら、私たちが黙ってないんで、よろしく」
女子生徒C「シオン様の視界に入ってもいいのは、あたしら親衛隊だけなんだから!!」
女子生徒D「しかも男のくせに!男のくせにシオンさまと一夜を共にしようなんて絶対許さないんだから!キ――ッ!!」
女生徒達はいうだけいうと、おれに反論の隙も与えず走り去ってしまった。
悠「な……なんだったんだ……」
吉音「なんかすごかったね~」
おれの漏らした溜息に、店の奥からいまごろ顔を出した吉音がげっそりした顔でうなずく。
悠「新……おまえ、用心棒のくせに隠れてただろ」
吉音「そっ、そんなことないよ?」
悠「じゃあどうして、語尾があがるんだよ」
吉音「それは……ええと…………えへっ」
笑って誤魔化そうとする吉音に、おれはもうひとつ溜息を吐かされた。