ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】
ーシオンの屋敷ー
シオン「ふんっ……こんな時間に訪ねて来ておいて、勝手な奴だなぁ、悠は」
悠「それについては謝るが……だけど、本当にちょっと聞きたいことがあるだけなんだ」
シオン「ところでどうだ、私のハーブは」
悠「頼むから、おれの話しも少しは聞いてくれよ……」
シオン「甘くていい香りだろ、どれも……ん……」
シオンはおれの訴えを無視して、鼻から大きく息を吸い込みながら辺りを振り仰ぐ。
悠「……」
シオン「ん……バニラ、シナモン、ローズ・ド・メ、ナツメグ、フェンネル、ダミアナ、ワイルドレタス……」
悠「それ……ここに生えている花の名前か?」
シオン「ああ、そうだ。どれも、私が手塩にかけて育てた花だ。いい香りだろ」
悠「そうだな……深呼吸してると落ちついてくるよ。それにしても、凄い庭だな。これ全部、シオンが育ててるなんて、見直したよ」
息を吸い込むと、シオンとの会話で疲れた心が、甘く絡みついてくる香気に揉みほぐされていくようだ。
シオン「いままでは見損っていたかのようなセリフだな」
悠「いやいや、剣が強いだけじゃなく、花の育て方も上手いなんてすごいなって意味だ。おれも趣味とはいえ野菜を育ててる身だからよくわかる」
シオン「くく……分かっている、そう慌てるな。ほら、深呼吸しろ。もっと、花の香りを頭の芯まで沁み込ませるんだ」
悠「あー……?」
深呼吸して落ち着け、というのは解るけど……言い回しが微妙に変じゃないか?
シオン「さあ、どうだ?そろそろ頭の芯がぼんやりして来て、身体がうずいて来ただろう?」
悠「あー?なんの話しだ?」
シオン「……チッ、やはり生の香りでは効き目が出ないか」
今度は眉を顰めて舌打ちだ。もう何が何だか分からない。何を考えているのかとおもって凝視してると、シオンは懐から透明な液体で満たされた小瓶を取り出す。
悠「……?」
シオン「仕方ない、精製したものを摂取させよう」
悠「いや、待て。それはなんだ……飲み薬?」
シオン「媚薬だ」
悠「ああ、媚薬か……媚薬うぅ!?なんで媚薬なんて持ってるんだよ!?というかどういう脈絡で、ここで媚薬が出てくるんだよ!」
シオン「いま、そういう話しをしていたからだろ」
悠「してないだろ。していたのは、花の名前だろ!」
シオン「この庭の花はすべて、媚薬の材料だ」
シオンは不機嫌そうな顔のまま、しれっとそういった。
悠「……そうなのか?」
ただ香り高い花を集めただけかと思っていたら、そういう共通点があったのか。ちょっと感心してしまった。感心はしたけど、やっぱり首を傾げてしまう。そりゃたしかに、女性好みそうな甘くていい香りだと思うけれど、だからって媚薬になるのか?
シオン「くくっ……胡散臭いとでも言いたげな顔だな」
シオンは眉間の皺を緩めながら、手にした小瓶を帯にしまう。本当に使うつもりはなかったみたいだ。
悠「あー、すまん……でも、自家栽培のハーブで作った媚薬なんて本当に効き目あるのか?」
シオン「あるさ、もちろん。その証拠に、私に媚薬を盛られて落ちなかった女はいない」
悠「……それって、媚薬がなくても落ちたんじゃないのか?」
シオン自身が媚薬みたいなものだし――なんてことを考えていると、シオンがずいっと身を乗り出してくる。
シオン「せっかくだ、試してみよう」
悠「た……試すって、何をだよ……」
のけ反って慌てふためくおれに、シオンは口角をにやりと上げて笑いかけてきた。
シオン「ふんっ……こんな時間に訪ねて来ておいて、勝手な奴だなぁ、悠は」
悠「それについては謝るが……だけど、本当にちょっと聞きたいことがあるだけなんだ」
シオン「ところでどうだ、私のハーブは」
悠「頼むから、おれの話しも少しは聞いてくれよ……」
シオン「甘くていい香りだろ、どれも……ん……」
シオンはおれの訴えを無視して、鼻から大きく息を吸い込みながら辺りを振り仰ぐ。
悠「……」
シオン「ん……バニラ、シナモン、ローズ・ド・メ、ナツメグ、フェンネル、ダミアナ、ワイルドレタス……」
悠「それ……ここに生えている花の名前か?」
シオン「ああ、そうだ。どれも、私が手塩にかけて育てた花だ。いい香りだろ」
悠「そうだな……深呼吸してると落ちついてくるよ。それにしても、凄い庭だな。これ全部、シオンが育ててるなんて、見直したよ」
息を吸い込むと、シオンとの会話で疲れた心が、甘く絡みついてくる香気に揉みほぐされていくようだ。
シオン「いままでは見損っていたかのようなセリフだな」
悠「いやいや、剣が強いだけじゃなく、花の育て方も上手いなんてすごいなって意味だ。おれも趣味とはいえ野菜を育ててる身だからよくわかる」
シオン「くく……分かっている、そう慌てるな。ほら、深呼吸しろ。もっと、花の香りを頭の芯まで沁み込ませるんだ」
悠「あー……?」
深呼吸して落ち着け、というのは解るけど……言い回しが微妙に変じゃないか?
シオン「さあ、どうだ?そろそろ頭の芯がぼんやりして来て、身体がうずいて来ただろう?」
悠「あー?なんの話しだ?」
シオン「……チッ、やはり生の香りでは効き目が出ないか」
今度は眉を顰めて舌打ちだ。もう何が何だか分からない。何を考えているのかとおもって凝視してると、シオンは懐から透明な液体で満たされた小瓶を取り出す。
悠「……?」
シオン「仕方ない、精製したものを摂取させよう」
悠「いや、待て。それはなんだ……飲み薬?」
シオン「媚薬だ」
悠「ああ、媚薬か……媚薬うぅ!?なんで媚薬なんて持ってるんだよ!?というかどういう脈絡で、ここで媚薬が出てくるんだよ!」
シオン「いま、そういう話しをしていたからだろ」
悠「してないだろ。していたのは、花の名前だろ!」
シオン「この庭の花はすべて、媚薬の材料だ」
シオンは不機嫌そうな顔のまま、しれっとそういった。
悠「……そうなのか?」
ただ香り高い花を集めただけかと思っていたら、そういう共通点があったのか。ちょっと感心してしまった。感心はしたけど、やっぱり首を傾げてしまう。そりゃたしかに、女性好みそうな甘くていい香りだと思うけれど、だからって媚薬になるのか?
シオン「くくっ……胡散臭いとでも言いたげな顔だな」
シオンは眉間の皺を緩めながら、手にした小瓶を帯にしまう。本当に使うつもりはなかったみたいだ。
悠「あー、すまん……でも、自家栽培のハーブで作った媚薬なんて本当に効き目あるのか?」
シオン「あるさ、もちろん。その証拠に、私に媚薬を盛られて落ちなかった女はいない」
悠「……それって、媚薬がなくても落ちたんじゃないのか?」
シオン自身が媚薬みたいなものだし――なんてことを考えていると、シオンがずいっと身を乗り出してくる。
シオン「せっかくだ、試してみよう」
悠「た……試すって、何をだよ……」
のけ反って慌てふためくおれに、シオンは口角をにやりと上げて笑いかけてきた。