ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】
ー大江戸学園:とある住宅街ー
悠「ええと……この辺りだと思うんだが……」
おれは立ち止まって、ぐるりと辺りに視線を巡らす。高級住宅街と言って差し支えない通りは、この時間ともなると本当に静かだ。あらかじめ、大通りの方で道を聞いていなかったら、誰も通りかからなくて途方に暮れていたかもしれない。
それにしても、本当なのか?シオンが鬼島さんに執着しているなんて……。いくら師匠がいったこととはいえ、おれには、にわかに信じがたい話だった。
~~
ー大江戸学園:道場ー
十兵衛「よし、今日の稽古はここまでだ」
悠「ひぃー……ありがとうございましたっ……」
おれは汗だくで息切れしてると言うのに、師匠は汗のひとつも掻いていない。
十兵衛「まだまだ動きに無駄が多いな、小鳥遊。そんなことでは、乱取りで勝ち残れんぞ」
悠「逃げ足には自信があるんでなんとかなりますよ……最初だけは」
十兵衛「出場するからには勝つつもりでいけ。弱音を吐かずに、血反吐をはくまで鍛錬だ」
悠「血反吐はくまで、血尿が出るまでってのはなんかのルールなんスか?知り合いのおっさんにも言われたけど……」
十兵衛「わっはっはっ、確かにそうかもしれないな」
おれが呆れるのも関係なく、師匠は大口を開けて豪快に笑った。
悠「……」
十兵衛「まぁしかし、まずは無事に終わってくれることを願わなければな」
悠「何か心配ごとでも?」
十兵衛「それはいろいろあるが、まぁ第一はシオンと鬼島のことだな」
悠「?」
眉根を寄せたおれに、師匠はかすかな溜息をはいてから、改めて口を開いた。
十兵衛「シオンは以前、鬼島と対戦して敗れたことがある。そのときのことを、いまだ根にもっているようなのだ」
悠「シオンが根に持つ……?」
十兵衛「ああ……この御前試合で高揚し、おかしなことをしなければいいのだが」
~~
シオンが根に持っている、と師匠はいっていたけれど、おれにはやっぱり信じられないことだった。眠利シオンとはそんなに話したことないけど、師匠の言葉とはかなり印象が違う。いきなり看板娘を出せといったと思ったら、ひと目で興味を失ったように去っていったし……享楽的というか、刹那主義というか、本当に気まぐれな感じだ。そんなシオンが、たった一度の試合結果にいつまでも固執している?本人に問い質すのでなければ、納得は難しそうな話だった。というわけで、こうして夜分にアポも取らずに、おれはシオンの住宅を目指して歩いているのだった。
悠「……っと、あの家か?」
道すがらに聞いた住所だと、ここなのだが……。家というかお屋敷、豪邸だ。この界隈に居並ぶ邸宅はどれも立派なお屋敷だけど、シオンの居住まいだと思うと、いっそ豪邸に思える。おれは深呼吸を一回すると、屋敷の門を叩いた。
シオン「良く来てくれたな、悠」
しっかりおれのことを覚えていてくれたのか。宵の口に突然訪れたおれを、シオンは嫌な顔ひとつせず快く歓迎してくれた。邸内に霞がかかるほど立ちこめてくる甘ったるい香りも相まって、緊張がすっと溶けていく。
悠「悪いな、こんな時間に突然……」
シオン「嬉しいよ。おまえのほうから、しかもこんな夜更けに訪れてくれるとは」
シオンはオレの声なんか聞きもせず、一方的に捲し立ててくる。
悠「いや、あのな。今夜はおまえに聞きたいことが……」
シオン「ああ、すまない。湯を浴びるのが先だったな。話しなら、ベッドで一線済ませた後でやればいいのだし」
悠「一戦?あの、もしもし何の話しですか?」
シオン「決まっているだろ」
悠「ああっ、言わなくていい!いいから」
おれはぶんぶん大きく頭を振って、シオンの言葉を差し止めた。
悠「ええと……この辺りだと思うんだが……」
おれは立ち止まって、ぐるりと辺りに視線を巡らす。高級住宅街と言って差し支えない通りは、この時間ともなると本当に静かだ。あらかじめ、大通りの方で道を聞いていなかったら、誰も通りかからなくて途方に暮れていたかもしれない。
それにしても、本当なのか?シオンが鬼島さんに執着しているなんて……。いくら師匠がいったこととはいえ、おれには、にわかに信じがたい話だった。
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ー大江戸学園:道場ー
十兵衛「よし、今日の稽古はここまでだ」
悠「ひぃー……ありがとうございましたっ……」
おれは汗だくで息切れしてると言うのに、師匠は汗のひとつも掻いていない。
十兵衛「まだまだ動きに無駄が多いな、小鳥遊。そんなことでは、乱取りで勝ち残れんぞ」
悠「逃げ足には自信があるんでなんとかなりますよ……最初だけは」
十兵衛「出場するからには勝つつもりでいけ。弱音を吐かずに、血反吐をはくまで鍛錬だ」
悠「血反吐はくまで、血尿が出るまでってのはなんかのルールなんスか?知り合いのおっさんにも言われたけど……」
十兵衛「わっはっはっ、確かにそうかもしれないな」
おれが呆れるのも関係なく、師匠は大口を開けて豪快に笑った。
悠「……」
十兵衛「まぁしかし、まずは無事に終わってくれることを願わなければな」
悠「何か心配ごとでも?」
十兵衛「それはいろいろあるが、まぁ第一はシオンと鬼島のことだな」
悠「?」
眉根を寄せたおれに、師匠はかすかな溜息をはいてから、改めて口を開いた。
十兵衛「シオンは以前、鬼島と対戦して敗れたことがある。そのときのことを、いまだ根にもっているようなのだ」
悠「シオンが根に持つ……?」
十兵衛「ああ……この御前試合で高揚し、おかしなことをしなければいいのだが」
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シオンが根に持っている、と師匠はいっていたけれど、おれにはやっぱり信じられないことだった。眠利シオンとはそんなに話したことないけど、師匠の言葉とはかなり印象が違う。いきなり看板娘を出せといったと思ったら、ひと目で興味を失ったように去っていったし……享楽的というか、刹那主義というか、本当に気まぐれな感じだ。そんなシオンが、たった一度の試合結果にいつまでも固執している?本人に問い質すのでなければ、納得は難しそうな話だった。というわけで、こうして夜分にアポも取らずに、おれはシオンの住宅を目指して歩いているのだった。
悠「……っと、あの家か?」
道すがらに聞いた住所だと、ここなのだが……。家というかお屋敷、豪邸だ。この界隈に居並ぶ邸宅はどれも立派なお屋敷だけど、シオンの居住まいだと思うと、いっそ豪邸に思える。おれは深呼吸を一回すると、屋敷の門を叩いた。
シオン「良く来てくれたな、悠」
しっかりおれのことを覚えていてくれたのか。宵の口に突然訪れたおれを、シオンは嫌な顔ひとつせず快く歓迎してくれた。邸内に霞がかかるほど立ちこめてくる甘ったるい香りも相まって、緊張がすっと溶けていく。
悠「悪いな、こんな時間に突然……」
シオン「嬉しいよ。おまえのほうから、しかもこんな夜更けに訪れてくれるとは」
シオンはオレの声なんか聞きもせず、一方的に捲し立ててくる。
悠「いや、あのな。今夜はおまえに聞きたいことが……」
シオン「ああ、すまない。湯を浴びるのが先だったな。話しなら、ベッドで一線済ませた後でやればいいのだし」
悠「一戦?あの、もしもし何の話しですか?」
シオン「決まっているだろ」
悠「ああっ、言わなくていい!いいから」
おれはぶんぶん大きく頭を振って、シオンの言葉を差し止めた。