ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

新とはなちゃんを帰して店内の掃除をしている最中、ふと思い立って箒を剣にして中段に構えてみた。

我ながらそこまで悪くない。意外と身体が覚えてるもんだ。まぁ、また剣を握るなんてことは無いと思うけど。

悠「さて戸締まり、戸締まり」

家に帰るのがめんどくさくなったおれは、ここで今夜は泊まることにした。
夕飯を済ませて、食器を流しにだしておく。
とりあえず漬け置きだけしておいて洗うのは明日でいいや。

あとは風呂に入って寝るだけ。おれはタオルと着替えをつかんで浴槽に向かった。

悠「あれ、風呂場の電気消さなかったかな?」

それになにか匂いがする。なんだこれ、バラ?入浴剤なんか入れた覚えがないぞ。
おれは浴室の戸に手をかけた。

悠「……」

ガチムチな男「……」

とにかく一旦戸を閉めた方がいいと本能が全力で訴えてきたので……閉めた。

おれは一旦、部屋まで撤退し、落ち着いて状況を整理しようと努める。

しかし…

ナニガオコッタノカヨクワカラナカッタ。

悠「……誰か、居たよな。」

それは確かだ。
見なかったことにしてこのまま風呂に入らずに寝てしまうという選択肢が妙に魅力的に感じられる。

けど、それをしたら起きたときとんでもないことになってる気がする。

彼岸花の咲く夜に並みの妖怪が住み着いていても困る。おれは風呂場にもう一度戻ることにした。

悠「よし…」

無理やりに気合いをいれて戸に手をかける。

ガチムチの男「入ってこいよ」

悠「ひっ!?だ、誰だ!」
おれは勇気をかき集めて扉を開け放った。
浴室には男が悠々と浸かっていた。もちろん全裸だったが、それを隠すそぶりも見せない。

見惚れるような鍛え上げられた肉体美ではあるが、この状況ではそんなことはどうでもいい。
問題はひとつ!知らない男がうちの風呂に勝手に入っていることだ。

ガチムチの男「待ちかねたぜ、ボーイ。いつまで突っ立てんだ。とっとと脱いで入ってこいよ。ちょうどいい湯加減だぜ?」

風呂の男はこともあろうにこちらにウインクをしてみせた。

悠「だから誰?」

ガチムチの男「名乗り合うのもいいが、こかは風呂だぜ?まず裸の付き合いってのはどうだい?」

そういって男はおもむろに浴槽から立ち上がった。

悠「ぎゃああ!!」

本能的に身の危険を感じたおれは、慌てて回れ右をしてその場から二度目の逃走!の、つもりだったのだが…目の前にやわらかいような固いような壁に鼻先をぶつける。

悠「いてっ!?」

おれはおそるおそる顔を上げる。

けだもの『クマクマー♪』

そこに立ちはだかっていたのは…巨大な熊だった。

悠「あ、あぁ……うわああぁぁぁ!!」


おれは悲鳴をあげていた。
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