ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】
ー大江戸学園:道場ー
なんだろう。御前試合の日が近付くに従って、嫌な予感が際だってくる。いろいろと問題を含みながらも、学園はやっぱり盛り上がってきている。この空気に、おれは敏感になっているだけだろうか。こんな時は師匠の道場に行って、身体を動かしてこようかな。などと思い、来てみたら。
男子生徒A「エイヤーッ!トアァァーッ!」
男子生徒B「せやっ!せやっ!はぁっ!!」
男子生徒C「でぇぇぇえいっ!!」
いつもの二倍……いや三倍くらい生徒が、道場の中でひしめき合い、それぞれに刀を振っていた。十兵衛さんの名は学園中に轟いている。もともと門を叩く人が多い方ではあったけど、それにしても……。これは一体どういうことなんだろう。
十兵衛「お、小鳥遊もきたか。これは盛況だな」
ボケッと入口に突っ立っていたら、師匠の方からおれを見つけて声をかけてくれた。
悠「どうもちわっす。今日はずいぶんと人が入ってますね。なんかあったんすか?」
十兵衛「んん?何をいってるんだお前は。もうすぐ学園に何があるのか、知らんわけではないだろう」
悠「学園にって……」
十兵衛「巷では御前試合の開催が迫っているからな。皆最後の追い込みに来ているのさ」
悠「ええっ!?まさかこれだけの人がみんな、乱取りに出馬するんですか?」
ざっと見ただけで五十人は優に超えているように思うんだが……。もちろん剣術道場はここだけじゃない。本当に参加者数が百人単位で足りるんだろうか?
十兵衛「いやいや、さすがに全員じゃない。この熱気に当てられて、普段はろくに修練をしていなかったような奴らまで、刀を振りに来ているのさ」
悠「あー…」
なるほど、おれと同じような気になった人がたくさんいたってわけか。納得だ。
十兵衛「だが心配するな。お前のエントリーは、しっかりと済ませてきたからな」
悠「はい……は……え?ん?ええっ!?」
十兵衛「剣術指南役・柳宮十兵衛の推薦だと、太鼓判を推してきた。期待されているぞ」
悠「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!おれが出場するんすか?聞いてませんよ!」
十兵衛「ああ、伝えていなかったからな」
悠「なんで勝手にそんなことを……なんの準備もしてないし、そもそも何百人もの中に放り込まれるなんて!」
十兵衛「準備なら出来ているだろう。普段からの目安箱活動などでな。実戦では普段からの行動がモノを言う。直前になって思いだしたように鍛錬してみても、身につくものなど何もないよ」
……今、ビクっと反応した人がたくさんいたみたいだけど。
十兵衛「それにもうひとつ安心しろ。去年の上位入賞者は、今年の乱取りには参加できないようになっている。お前はこれまで、自分が思う以上に鍛えられている。十二分に、頂点を狙える実力が備わっているさ」
悠「そんな、簡単に言いますけど……」
何百人ものなかで、しかも最長三日間も戦い続けるなんて。考えただけでも気が遠くなりそうだ。
十兵衛「まぁとりあえず、ここまで来たのなら体を動かしていけ、剣を振るっていると、些細なことなどすぐに忘却の彼方へと飛んでいく。それから改めても考えても、遅くはないだろうけど?」
悠「調子のいいこといって、もうエントリーしてしまったんでしょう?」
朱金も忙しそうにしてたし、取り消すのも面倒な手続きが要りそうだ……。どうやら嫌な予感が的中したらしい。ああなんだかヤケになって来た。この勢いを維持できるのなら、ああ、参加してもいいや
十兵衛「直前の鍛錬も、勘を保ったままにするくらいにはまぁ、意味がある。さぁ存分にしごいてやるから、どこからでもかかってこい!」
悠「はぁ、解りましたよ。一本取らせてもらいますから覚悟しといてくださいよ!」
おれは師匠の期待の上をいってみせる!
ー大江戸学園:某所ー
瑞野「ほっほっ、こうして徳河のお嬢さまが二人並ぶというのも、なかなか壮観なことですな」
吉音「…………」
瑞野「これからの日本を支える両輪。いやはやこの場に立ち会えるのも校長の役得かもしれません」
詠美「空世辞は必要ありません。ご用件を簡潔にお願いいたします。」
瑞野「おお、これは失礼。以前にもご連絡をさしあげていた通り、お二人には御前試合にて、一騎討ちを行っていただきます。これは理事会の方々や政財界の重鎮も御観覧される、特別な舞台なのです。学園がいかに活気に満ち、文武ともに優れた教育が行われているか、それを示さなければなりません。見ているだけで魅了されるような、素晴らしい戦いぶりをお願いしますよ」
詠美「言われるまでもありません。持てる力の全てを発揮して見せましょう」
吉音「うん。せっかくの詠美ちゃんとの対戦だしね」
瑞野「おお……これは頼もしい。では当日も、その調子で期待しておりますよ」
吉音「でもひとつだけお願い。名前は徳田新にして欲しいの。じゃなきゃ出ない。」
瑞野「う……それは……」
吉音「出ない」
瑞野「わ、わかりました。交渉はしてみるので」
吉音「うん。よろしくね」
瑞野「はは……それでは私はこれで、失礼いたしますよ」
詠美「……ふぅ。結局はお父様達にいいところを見せたいだけなのね、俗物が」
吉音「えへへ、別にいいじゃんそれでも」
詠美「なに、校長先生が帰ったとたん、急に機嫌を良くして、そういえば珍しく徳河の行事に不満を漏らさないのね」
吉音「だってぇ詠美ちゃんと一緒にいられるしー。一騎討ちなんて何年振りかなぁ~。伯父さんも来るんだって。いいとこ、見せられるといいね」
詠美「昔はあなたに歯が立たなかったけれど、今は違うわ。人は成長するということを教えてあげる」
吉音「うん。いっしょにがんばろーっ!」
詠美「だから、別に何かに協力するわけではないのだけど……もう用は終わったでしょう。あなたもいつまでも城にとどまらず、茶屋にでもいった方がよいのではない?」
吉音「ええ~、もうちょっとお話ししようよー」
詠美「私にもまだ仕事があるの。またいずれ」
吉音「んー、詠美ちゃんいつもいそがしそうにしてるからねぇ」
詠美「忙しいからよ。悪いけれど私の方から失礼するわ」
吉音「……ん。それじゃまたね」
なんだろう。御前試合の日が近付くに従って、嫌な予感が際だってくる。いろいろと問題を含みながらも、学園はやっぱり盛り上がってきている。この空気に、おれは敏感になっているだけだろうか。こんな時は師匠の道場に行って、身体を動かしてこようかな。などと思い、来てみたら。
男子生徒A「エイヤーッ!トアァァーッ!」
男子生徒B「せやっ!せやっ!はぁっ!!」
男子生徒C「でぇぇぇえいっ!!」
いつもの二倍……いや三倍くらい生徒が、道場の中でひしめき合い、それぞれに刀を振っていた。十兵衛さんの名は学園中に轟いている。もともと門を叩く人が多い方ではあったけど、それにしても……。これは一体どういうことなんだろう。
十兵衛「お、小鳥遊もきたか。これは盛況だな」
ボケッと入口に突っ立っていたら、師匠の方からおれを見つけて声をかけてくれた。
悠「どうもちわっす。今日はずいぶんと人が入ってますね。なんかあったんすか?」
十兵衛「んん?何をいってるんだお前は。もうすぐ学園に何があるのか、知らんわけではないだろう」
悠「学園にって……」
十兵衛「巷では御前試合の開催が迫っているからな。皆最後の追い込みに来ているのさ」
悠「ええっ!?まさかこれだけの人がみんな、乱取りに出馬するんですか?」
ざっと見ただけで五十人は優に超えているように思うんだが……。もちろん剣術道場はここだけじゃない。本当に参加者数が百人単位で足りるんだろうか?
十兵衛「いやいや、さすがに全員じゃない。この熱気に当てられて、普段はろくに修練をしていなかったような奴らまで、刀を振りに来ているのさ」
悠「あー…」
なるほど、おれと同じような気になった人がたくさんいたってわけか。納得だ。
十兵衛「だが心配するな。お前のエントリーは、しっかりと済ませてきたからな」
悠「はい……は……え?ん?ええっ!?」
十兵衛「剣術指南役・柳宮十兵衛の推薦だと、太鼓判を推してきた。期待されているぞ」
悠「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!おれが出場するんすか?聞いてませんよ!」
十兵衛「ああ、伝えていなかったからな」
悠「なんで勝手にそんなことを……なんの準備もしてないし、そもそも何百人もの中に放り込まれるなんて!」
十兵衛「準備なら出来ているだろう。普段からの目安箱活動などでな。実戦では普段からの行動がモノを言う。直前になって思いだしたように鍛錬してみても、身につくものなど何もないよ」
……今、ビクっと反応した人がたくさんいたみたいだけど。
十兵衛「それにもうひとつ安心しろ。去年の上位入賞者は、今年の乱取りには参加できないようになっている。お前はこれまで、自分が思う以上に鍛えられている。十二分に、頂点を狙える実力が備わっているさ」
悠「そんな、簡単に言いますけど……」
何百人ものなかで、しかも最長三日間も戦い続けるなんて。考えただけでも気が遠くなりそうだ。
十兵衛「まぁとりあえず、ここまで来たのなら体を動かしていけ、剣を振るっていると、些細なことなどすぐに忘却の彼方へと飛んでいく。それから改めても考えても、遅くはないだろうけど?」
悠「調子のいいこといって、もうエントリーしてしまったんでしょう?」
朱金も忙しそうにしてたし、取り消すのも面倒な手続きが要りそうだ……。どうやら嫌な予感が的中したらしい。ああなんだかヤケになって来た。この勢いを維持できるのなら、ああ、参加してもいいや
十兵衛「直前の鍛錬も、勘を保ったままにするくらいにはまぁ、意味がある。さぁ存分にしごいてやるから、どこからでもかかってこい!」
悠「はぁ、解りましたよ。一本取らせてもらいますから覚悟しといてくださいよ!」
おれは師匠の期待の上をいってみせる!
ー大江戸学園:某所ー
瑞野「ほっほっ、こうして徳河のお嬢さまが二人並ぶというのも、なかなか壮観なことですな」
吉音「…………」
瑞野「これからの日本を支える両輪。いやはやこの場に立ち会えるのも校長の役得かもしれません」
詠美「空世辞は必要ありません。ご用件を簡潔にお願いいたします。」
瑞野「おお、これは失礼。以前にもご連絡をさしあげていた通り、お二人には御前試合にて、一騎討ちを行っていただきます。これは理事会の方々や政財界の重鎮も御観覧される、特別な舞台なのです。学園がいかに活気に満ち、文武ともに優れた教育が行われているか、それを示さなければなりません。見ているだけで魅了されるような、素晴らしい戦いぶりをお願いしますよ」
詠美「言われるまでもありません。持てる力の全てを発揮して見せましょう」
吉音「うん。せっかくの詠美ちゃんとの対戦だしね」
瑞野「おお……これは頼もしい。では当日も、その調子で期待しておりますよ」
吉音「でもひとつだけお願い。名前は徳田新にして欲しいの。じゃなきゃ出ない。」
瑞野「う……それは……」
吉音「出ない」
瑞野「わ、わかりました。交渉はしてみるので」
吉音「うん。よろしくね」
瑞野「はは……それでは私はこれで、失礼いたしますよ」
詠美「……ふぅ。結局はお父様達にいいところを見せたいだけなのね、俗物が」
吉音「えへへ、別にいいじゃんそれでも」
詠美「なに、校長先生が帰ったとたん、急に機嫌を良くして、そういえば珍しく徳河の行事に不満を漏らさないのね」
吉音「だってぇ詠美ちゃんと一緒にいられるしー。一騎討ちなんて何年振りかなぁ~。伯父さんも来るんだって。いいとこ、見せられるといいね」
詠美「昔はあなたに歯が立たなかったけれど、今は違うわ。人は成長するということを教えてあげる」
吉音「うん。いっしょにがんばろーっ!」
詠美「だから、別に何かに協力するわけではないのだけど……もう用は終わったでしょう。あなたもいつまでも城にとどまらず、茶屋にでもいった方がよいのではない?」
吉音「ええ~、もうちょっとお話ししようよー」
詠美「私にもまだ仕事があるの。またいずれ」
吉音「んー、詠美ちゃんいつもいそがしそうにしてるからねぇ」
詠美「忙しいからよ。悪いけれど私の方から失礼するわ」
吉音「……ん。それじゃまたね」