ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ー丸美の工場ー

手下A「な、なんだいあんたたちは」

いきなりどやどや入って来たおれ達に、その場にいた男子生徒が目を丸くする。どうやら、この場でそれなりにエライ地位にある者のようだが……その顔が次の瞬間凍りつく。

番頭「……あ、あんたは……っ」

そこへ、もうひとりが現れた。

丸美「番頭さん、いったいどうしたんだね、騒がしい。例のものは見つかっ…………」

いいかけた言葉が途中で止まる。

悠「……」

丸美「どっ、堂鳩……さん……っ」

入ってきたおれ達を見るなり、丸美は真っ青な顔になって震えだした。これはもう、問い詰めるまでもない。と、番頭と呼ばれた男が、丸美とおれ達の間に割って入る。

番頭「旦那さま、お逃げください!ここは私が……っ」

丸美「よさないかっ。……逃げてなんになる。」

そして番頭を押しのけるようにしておれ達の前に進み出た。

堂鳩「……」

丸美「堂鳩さんがここにいるということは……、もうなにもかもお見通しというわけでございますね」

堂鳩「じゃあ……丸美さんが私の手帳を……どうして……」

震える声で堂鳩がいった瞬間、丸美はその場に両手をついた。

丸美「済まなかった!」

堂鳩「丸美さん……」

丸美は床に頭を擦りつけながらいった。

丸美「うらやましかったんだ。どんなにたくさん菓子を作って、学園中の店にうちの菓子が並んでも……評判では堂鳩の菓子には少しも勝てない。それが……ずっとうらやましくて……つい……つい……どうか私をつかまえて、奉行所に捕まえてくれ。だが、頼む……店の連中は私の命令でやらされただけだ。彼らは見逃してやってほしいんだ。」

番頭「だ、旦那様っ……!」

吉音「そんなこといわれてもねぇ……」

堂鳩「顔を……上げてください、丸美さん」

吉音「ふえ?」

堂鳩は自らも床に膝をついて、丸美の手を取った。

堂鳩「どうか顔をあげてください。私たちは、同じです。」

丸美「おな……じ?」

堂鳩「私もずっと丸美さんが羨ましかった。うちは数が作れないから、全部売れても設けはたかが知れている。だからずっと、学園中のお店に丸美さんの菓子が並んでいるのを見て羨ましかった……」

丸美「そんな……。あんなに素晴らしい菓子を作っていて……」

堂鳩「でも、喜んでくれるのは、熱心なマニアのひとだけ。できることなら、丸美さんのように、老若男女、学園中のひとに味わってもらえる菓子を作りたい……そう思って、ずっとうらやましかったんですよ……」

丸美「堂鳩そん……」

堂鳩「丸美さん。丸美さんさえ良かったら、うちの新しい菓子、丸美さんの工場で作ってはもらえませんか」

吉音「ええええっ」

光姫「いいのか、ご主人」

丸美「いいんですか、堂鳩さん」

堂鳩「もちろんですとも。我々菓子作りの使命は、ひとりでも多くのお客さんに、おいしいお菓子を食べてもらうこと、そうじゃありませんか?」

丸美「……その通り。その通りです。堂鳩さん」

がっくりとうなだれた丸美は、堂鳩の手を両手で押し頂いて、その場で声もなく泣きだした。





ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

由佳里「いっただきまーす!……じゃなかったこんにちは~っ!」

トビザル『きききっ!』

悠「さっそくかぎつけてきたな。いまさっき、堂鳩さんと丸美さんが揃って持ってきてくれたところだよ」

息せき切ッているところを見ると、どうやら全速力で走って来たらしい。顔を真っ赤にして飛び込んできた由佳里達に、届いたばかりの包みを示した。

由佳里「じゃあこれが……堂鳩さん丸美さん共同開発の新製品!」

悠「そう。『みたらし団子チップス』だ」

由佳里「ふわーーっ、食べたい食べたいですっ!」

トビザル『ききききっ!』

悠「ああ。つうだろうと思ってふたりが来るまで開けるのを待ってたんだよ、新。新も食べるだろ?」

吉音「たっべまーーす!」

光姫さんの分はあとで由佳里に持っていってもらうとしよう、おれは届いた包みを開いた。

悠「おお、なかなかいい香り」

甘辛い醤油ダレの匂いがふわっと広がる。あとは我先に手を伸ばして、薄いチップスを食べ始める。

吉音「おっいしーーーい!」

悠「ん。んまい!うちでも置かせてもらえるかなあ」

由佳里「あれ?」

悠「うん?どうした、由佳里」

由佳里「これ、このあいだ食べたのと味が違いますね」

悠「へえ、そすが。堂鳩さんには普通分からないって言われてたんだけど。由佳里たちが見つけたあの手帳、実はレシピに一か所間違いがあったんだよ」

由佳里「間違い?」

悠「と、いうより書き忘れ。手帳を見て堂鳩さん、思いだしたらしい。ついうっかり。だとさ」

由佳里「あははー。ありますよねえ、ついうっかり。でも、思いだしてくれたおかげでさらに美味しくなりました!」

そう笑っている間にも、由佳里とトビザルの手と口は止まらない。

悠「おいおい、そんなに食べたら光姫さんに持っていってもらう分がなくなっちゃうぞ」

由佳里「あっ、いけない!ついうっかり」

いつもうっかりの間違いじゃないのかな……。
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