ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【6】

ーとある蔵の前ー

トビザル『ききっ、きーっ』

トビザルがなにかを抱ええて戻ってきたのは小一時間経ってからだった。カメラとは別の…………あれは、手帳?

由佳里「おかえり~っ、あれ、これは?勝手に持ってきた?だからだめでしょ!それ泥棒……っ」

光姫「まあよいから、それをちょっと見せてみろ」

悠「……」

ふたりの間に割って入った光姫は、トビザルの持ってきた手帳を取り上げ、ぱらぱらとめくる。

光姫「見てみろ、悠」

悠「……これ、レシピですね」

手帳にびっしりと書かれていたのは、お菓子の、と思われるレシピだった。

悠「由佳里、これなんのお菓子か分かるか?」

由佳里「はいはい。ちょっと拝見…………ああ、これは」

手帳を見た由佳里はすぐにうなずきだした。

悠「分かるか?」

由佳里「うんうん、これは堂鳩さんのおかしですよう。いくつか知らないのもありますけど」

光姫「それは発売にまで至らなかったものであろうな。どうやらハチ、トビザル、本当のお手柄であったようだな」

由佳里「ほっ、ほんとですかあ!」

トビザル『きっきー、きっきー!』

光姫さんの言葉に、ふたりは姉妹のように仲良く手を取り合って喜んでいる。

吉音「ってことは、この蔵の持ち主が犯人?よおーっし」

悠「まてゐ」

腕まくりして突進していこうとする吉音のえりを慌てて捕まえる。

吉音「なっ、なーにすんのよっ」

悠「待てゐって。まずはいろいろ確かめてからだろ。そもそもこの蔵の持ち主は誰なんだ?」

吉音「犯人」

悠「だからその名前だよっ。表札とか出てないのかな……」

トビザル『きっきー』

由佳里「これじゃないですかね」

由佳里が巡らされた塀の端にあった、小さな銘板を指した。

吉音「MARUMI……、まるみ?」

由佳里「あー、丸美も有名なお菓子屋さんですねー。工場もあるからお店でも普通に買えます」

悠「ということは……」

光姫「同業者が、この手帳を盗んだということか」



数時間の後、おれ達は再び同じ場所にやって来ていた。

堂鳩「信じられません……。今だに信じられません……」

おれ達と一緒にやって来た堂鳩は青い顔をしていまにも倒れそうだ。動かぬ証拠が出てきた以上、同心らを踏みこませて家捜しするなり、丸美を捕縛してもよかったのだが。これまでの事情を話してやると、堂鳩はぜひとも丸美に遭わせてほしいといいだしたのだ。その言葉に従ってやってきたものの、堂鳩の今の様子を見ていると連れて来ない方が良かったかも。

悠「大丈夫ですか。いまにも倒れそうじゃないですか」

堂鳩「いえ、大丈夫。大丈夫です。」

悠「……」

ちっとも大丈夫そうじゃない。

堂鳩「丸美さんから話を聞くまでは……平気、平気です」

悠「…………」

おれの視線に光姫さんは首を振った。

光姫「当人がそのように申して居るのだ。まずは好きにさせてやるがよかろう」

悠「はあ……、じゃあ行くとするか」
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