ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ーとある武家屋敷ー

親分「せ、先生っ。やっちまってください!ささっと、いつもの腕前で!」

伊都「んーーー」

悠「……」

大神さんは眠そうな目でおれ達のほうを見た。そしてかなうさんのところで視線を止める。

伊都「あなた、けっこうできそうね」

かなう「おまえも……そのようだな」

かなうさんの言葉に慎重さがにじんでいる。激怒したときの彼女はふつう手がつけられないのに。

伊都「あ!ところであなた、ここの男の子たち、治療してくれたんですって?」

かなう「ん?あ、ああ……」

いきなり話がどこへ向かうのかわからず、かなうさんはあいまいにうなずいた。構わず大神さんは続ける。

伊都「お金ちゃんと払ってもらいました?もらってないでしょう。ボランティアっていったって、もらうものはもらわないとね。はい、これ」

ぽん、と大神さんは分厚い封筒を放って寄越した。反射的に受け取ったかなうさんの目が丸くなる。

かなう「こ、これは……、ずいぶんな大金じゃないか」

親分「先生ぇ、あれは……私がさし上げた用心棒代……」

伊都「ええ。もう飽きちゃったから、用心棒はおしまい。じゃあね!」

と、くるりと背中を向けると、あともふり返らずに歩いていってしまう。

ダイゴロー(伊都)「ナイト。コレカラドウスルンダイ?」

伊都「そうねえ、風の吹くまま気の向くままってところかしら……」

ダイゴロー(伊都)「カーッコイイ!」

伊都「そうでしょうそうでしょう」

親分「ちょ……せ、先生……」

悠「……」

かなう「……」

吉音「あーあ。行っちゃった。」

かなう「さて」

ずい、とかなうさんが一歩踏み出した瞬間。

親分「もーーしわけありませんでしたああああっ!」

親分は、蛙のようにジャンプしてその場に土下座したのだった。

吉音「初めて見た……ジャンピング土下座」

悠「…………おれもだよ」





ーかなうの養生所ー

養生所の中は、たくさんの怪我人で溢れていた。みんな今回の乱闘で怪我をした男子生徒たちだ。

悠「あー、大変な賑わいっすね」

かなう「ああ。私ひとりじゃ手に負えんので、小石川に手伝いを頼んだくらいさ。ま、今回はバイト代も出してやれるしな。それに半分は私がさせた怪我でもあることだし」

悠「半分」

かなう「そうだろうが。残り半分はおまえと新がゃった分だ」

吉音「ええーーっ、あたしもっとやっつけたよ?」

悠「いや。そんなこと比べなくていいから」

かなう「結局、黒部はどうなったんだ?」

悠「うい。今日はソレを報告に、遠山さんの計らいで、罪一等は減じられたものの、あいつもそれなりに悪事は働いていますからね」

かなう「うむ」

悠「半年間のボランティア義務と決まったそうです。あと、例の親分。どうやらややこしい血筋をちっとひいていたようだけど、遠山さんから上のほうにてをまわしてくれたようで蟹居謹慎、事実上の重停学処分になりました。で、あの町もいま奉行所の手入れが入っているところです」

かなう「悪い奴らは一掃、ということになりそうか」

悠「簡単にはいかないでしょうが……きっと」

かなう「ふん」

軽くうなずくと、かなうさんは怪我人の治療に戻っていった。

悠「ま、一歩一歩ではあっても、学園から悪いヤツがいなくなって、生徒が泣かないで済むようになれば……アレ?新?」

吉音「ねー!悠ー!あたしもお手伝いしたいーっ」

悠「やめい、やめい。おまえが手伝うとまた火傷する」

吉音「あたしも怪我人の治療したーい!」

悠「……またそんな殊勝げなことを……あ、おまえもしかして看護師さんの制服が着てみたいだけだな!」

吉音「ぎくう」

悠「……いいから帰るぞ!」

吉音「あああんっ。制服、制服着たいっ。お手伝いしたいよおーーーーっ」

見るだけなら、おれもちょっとだけ見てみたいけどな。
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