ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー人気のない通りー

助太刀したものか、おれが迷った瞬間、だが先に崩れたのは逆井のほうだった。

逆井「こぉの……っ!」

何度打ち込んでも崩れないかなうさんに苛立った逆井は、無意味に大きく剣を振りかぶったのだ。むろん、その隙を見逃すかなうさんではなかった。

かなう「はあぁっ!」

斬っ!!

逆井「…………ぐぁっ」

一瞬で、かなうさんは逆井の背後にまで飛び出していた。その素早い歩法におれが驚くより先に、逆井の手から剣が落ちていた。

不良生徒E「や……やられた……っ」

不良生徒F「逆井の旦那がやられたぁ!」

頼みの用心棒が倒されたことで、ほかの男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

吉音「あ、こら、待て……っ!」

かなう「ふう。急所は外しておいた。治療してやるのはあとになるからな」

吉音「そうなの?」

かなう「ああ。奉行所に行く前にちっとばかり寄り道せにゃあならん。さすがに堪忍袋の緒が切れた!こいつらの親分とやら、悪事の報いを受けさせてやる!」

吉音「そうこなくっちゃ!」

悠「えええええ」

逆井「ふふ……面白い」

苦痛に顔をゆがめた逆井がつぶやいた。

悠「あー?」

逆井「刀舟斎、俺の雇い主のところに乗り込もうというのか……やめておけ」

かなう「なんだと」

逆井「どうせお前らがなにをしたところで、あの町の臆病ものどもは、誰も訴え出たりはしねえ……なにも変わりはしないのさ……ふふ、ふふふ」

かなう「あくまで力で押さえつけようってのか、この……悪党どもめ!いいからおまえは、親分の居る場所を教えろ!」

逆井「いいだろう……教えてやる……」

逆井は親分とやらの居る屋敷の場所を口にした。

悠「……」

逆井「だがあそこには……、俺なんか足元にも及ばない剣士がもうひとり……」

かなう「うるせえっ!」

逆井「が……っ」

かなうさんの傘で一突きされて逆井は悶絶した。

かなう「なにがなにも変わりはしないだ、変わるか変わらないか、見てるがいい。片っぱしから叩き斬ってやる!」

悠「ああああ、かなうさん……」

吉音「先生~~っ」

走りだしたかなうさんをおれと吉音は慌てて追いかけた。




ーとある武家屋敷ー

逆井が教えてくれたのは、とある武家屋敷だった。なるほど、バックに武家が控えてたんじゃ一般生徒は逆らえない。だが怒り心頭に達したかなうさんが、そんなことかまいつけるわけもなく……。あの体のどこにあんな力があるんだろうなあ。かなうさんは重そうな扉を一撃で破って屋敷に飛び込んだ。

かなう「悪党の巣窟ってのはここかあっ!」

親分「お、おまえは……どうやってここへ……」

かなう「おう。やっぱりおまえだったか、親玉は」

現れたのは、あのときおれ達に怪我人が居ると呼び出した男だった。

親分「まさか、あの連中を全部やっつけて……あ、あり得ない。不可能だ……」

かなう「不可能かどうか知らないが、私ぁここにいる。さあ、いま叩き斬ってやるから覚悟しろ悪党め!」

親分「わ、わ……、先生!先生!出番だっ、大神の先生っ!」

かなう「…………っ、例の用心棒か」

かなうさんが刀を構え直す。

悠「…………大神?」

庭を面した部屋の障子を開けて現れたその姿は…………。

伊都「もぉー、なぁにぃ?わたくし、優雅にお昼寝の最中でしたのに。ねぇ、ダイちゃん」

ダイゴロー(伊都)「ウン、ボクモットオヒルネシタカッタナ!」

悠「…………」

かなう「…………」

現れた「先生」は、大神さんだった……。いつもどおり、あまりの空気を読まない彼女の態度に、さすがのかなうさんも呆気に取られている。

吉音「か、かわいい……っ」

さすがに吉音は一枚上手だった。
99/100ページ
スキ