ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー人気のない通りー

悠「黒部、養生所の中に居ろ」

手下A「死ねやぁーーっ!」

斬りつけてきた男の斬戟をギリギリまで引きつけて躱して、顔面に手のひらを振り下ろした。バチンっと破裂音がして手下が泣き叫びながら地面をのたうちまわる。

悠「新!かなうさん!」

あらためて拳を握りながら見とる、ふたりともすでに乱闘のただ中だ。ああもう、なんだっていつもこんな荒事ばかり巻き込まれるんだ……?

黒部が養生所へ逃げ込んだのを横目で確認しつつ、二人ばかり倒して、吉音のところへ向かう。

吉音「たあーーっ!」

手下B「ぎゃっ」

手下C「ぐをっ!」

上段からの打ち下ろしで、あっというまに二人倒した吉音だが、さの分敵へ大きく踏み込んでいた。一騎に敵に突進する吉音らしい戦い方だが、集団戦では背中ががら空きになってしまう。

手下D「きょぁええーーーっ!」

悠「無駄っ!」

案の定吉音の背後から襲いかかろうとした男を横合いから殴りつける。一番叩きこみやすい角度で。

吉音「とあーーっ!たあーーっ!」

まるで材木に打ち込むくさびよろしく、吉音はどんどん敵陣に斬り込んでいった。

悠「……ったく、心配するこっちの身にも……」

手下E「だりゃあーーーっ!」

悠「なってみろっていうんだよぉっ!」

スタンドバイミィーよろしく、斬り溢しの奴らを叩き潰して、吉音の背後に誰も近づけないようにする。一方かなうさんの方は小さな暴風雨、といった感じだ。

かなう「はっ、はあっ!とおっ!」

もともと身体が小さい分、敵からすれば的が小さく狙いづらい。そこをすばやく立ちまわって、相手がなにかする前に、次々向こうずねだの、みぞおちだのに一撃をくれる。こちらが目で追うのも一苦労だ。

不良生徒E「このっ!」

かなう「はあーーっ!」

不良生徒E「ぐわあああっ!」

脚を払われた男がひっくり返る。その胸板にかなうさんが、どんと足を置いた。

かなう「お前のいった通りになったなあ」

不良生徒E「な、な……」

かなう「私が嫌だと言ったら、後悔したろう?」

「なるほど、できるようだな……」

3分の1ほどに減ってしまった男たちの間を割って出てきたのは、目つきの鋭い男だった。一見してほかの連中とは違うということがわかる。

不良生徒E「さ、逆井の旦那!」

かなうさんの足の下で男が情けない声で訴える。しかしその声を無視して逆井と呼ばれた男は続けた。

逆井「お前らは下がってろ。こいつはおれが相手してやる。」

かなう「ふん、少しは腕に覚えがあるって顔だ。お前も後悔したいクチか?」

逆井「俺は逆井京介。名を聞いておこうか」

逆井は冷たい目でかなうさんを見た。さすがに外見だけ見てなめてかかるほど素人ではなさそうだ。

かなう「刀舟斎かなうだ」

逆井「なに。刀舟斎だと……。お前がそうなのか……なるほど、それならばえんりょはしなくてよさそうだな。ゆくぞ」

逆井はずらりっと白刃を抜き放った。下段から跳ねあげるような突き!一瞬のど元を貫いたかに見えた切っ先を、かなうさんは刀で弾くようにして受け流した。大きく流れた逆井の身体にかなうさんの斬戟!

かなう「おらっ!」

だが、今度は逆井のほうが見事にこれを躱した。なるほどいうだけのことはある。

逆井「おのれ、俺の一撃を躱すとは……」

かなう「なに、ねらいどころは足さばきを見てればわかる」

逆井「では……これでどうだっ!うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃっ!」

悠「おー……っ」

今度は息をもつかせぬ連続攻撃。上段から繰り返される打ち込みを、しかしかなうさんは剣で受け、または受け流していく。しかし

かなう「くう……っ」

重い打ち下ろしの連続を受け止めるのは、小柄なかなうさんの体格では厳しい。このままでは……っ。
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