ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ーかなうの診療所ー
吉音「ふふふっ、あたしの出番!」
悠「やめい。火傷したばっかりだろ?おれがいく。おい、お前ら。これ以上何かするようなら、奉行所に訴え出るけど、いいんだな?」
不良生徒C「ぶ、奉行所?」
奉行所という言葉に男子生徒たちは目を見合わせた。どうやらまだお上を恐れるだけの常識があったらしい。
悠「おれは小鳥遊悠。南町奉行所からご用をいいつかっている者だ」
おれが名乗ると、男子生徒達の動揺はさらに大きくなった。
不良生徒A「南町……、逢岡か……っ。く、くそ……出直すぞ!」
男子生徒達は悶絶したきりの仲間をかついですごすごと養生所を逃げ出していった。
吉音「あぁーっ、帰っちゃうのぉ?」
悠「帰っていいだろ。なにも好んで荒事にするみたぁない。なぁ、かなうさん」
かなう「お、おう」
かなうさんはいつの間にか手にしていた刀を鞘に戻した……やっぱりヤル気だったか。
悠「……」
かなう「急いで治療してやらんとな。手当が遅れていいことはない。おい。悠そっちに運んでやってくれ」
悠「うい」
黒部という生徒のケガは結構酷いものだった。刀傷こそなかったものの、殴る蹴るはもちろん、棍棒か何かで容赦なく打ちのめされている。
かなう「骨には異常はないようだが……、この怪我じゃしばらくは動けんな」
ひと通りの治療を終えたかなうさんがいった。
吉音「てせも、どうしてこんな目に?やったのはさっきのあいつらなんでしょ」
黒部「…………」
かなう「黙っていちゃなんにもわからんぞ?」
悠「さっきもいったが、この二人なら任せてしまっても大丈夫だから。話してくれないか?お前がこんな目にあったわけを」
黒部「…………」
黒部はなおもしばらく黙っていたが、ついに口を開いた。
悠「ん?」
黒部「俺は……我慢できなくなって……逃げ出そうとしてたんだ……」
吉音「我慢って、なにに?」
黒部「なにもかもだ。なにもかも。あの町に居たら俺たちぁ、生き地獄だ……っ」
悠「あの町」
かなう「おだやかな話しじゃないな。黒部といったな、いいからとにかく洗いざらい話してみろ」
いわれずとも、毒を食らわばという気持ちになっていたのだろう。黒部はこれまで自分に起きたことをとつとつと語り始めた。黒部の住む町は、さっきやってきたようなやくざ者らが取り仕切っているのだという。商いを営む者へのみかじめ料と称しての恐喝はもちろん、そうでない一般生徒も「年貢」をとられる。むろん断れば、この黒部のような目に遭わされるというわけだ。
吉音「奉行所はなにしてるの?」
憤激した吉音は火傷の痛みを忘れてしまっているようだ。しかし黒部は吐き捨てるように呟く。
黒部「奉行所なんかあてになるもんか。おそれおおく、と訴え出た次の日にはそいつか、そいつの家族が川にはまってどざえもんだ」
かなう「報復を恐れて、訴え出ることもできないというわけか」
黒部「誰も逆らえないから、結局みんな奴らの仲間になっていく。さっきのあいつらも……」
かなう「なるほど。悪党の仲間になることで、金を巻き上げられずに済まそうとそういうことか」
黒部はかすかにうなずいた。
黒部「けど、そんなことしてたって、結局はうえの連中に絞り取られるだけ。その金を手に入れるるために、もっと弱い連中から巻きあげる……俺は……」
かなう「そんな生活に嫌気がさして逃げ出そうとした、そんなところか。なるほど。悪党の片棒を担いでも、芯まで悪に染まっちゃいなかったってことだな。……ったく」
悠「……」
かなうさんは彼女らしくもない溜息をついた。
かなう「いったい悪事ってのは尽きることはないのか。執行部も少しは町の様子をみてみろっていうんだ」
吉音「…………」
悠「ともかく。ここまで来たらまずは安心していい。今日は休んで明日にでも奉行所にいくぞ」
黒部「……」
悠「大丈夫。逢岡さんにせよ遠山さんにせよ、こういうことを見逃すようなひとらじゃないから」
黒部「……」
黒部はまだ信用していないようだけど、それでも小さくうなずいた。執行部があてにされていなくとも、ふたりの奉行の名はそれなりに効果があるようだった。
吉音「ふふふっ、あたしの出番!」
悠「やめい。火傷したばっかりだろ?おれがいく。おい、お前ら。これ以上何かするようなら、奉行所に訴え出るけど、いいんだな?」
不良生徒C「ぶ、奉行所?」
奉行所という言葉に男子生徒たちは目を見合わせた。どうやらまだお上を恐れるだけの常識があったらしい。
悠「おれは小鳥遊悠。南町奉行所からご用をいいつかっている者だ」
おれが名乗ると、男子生徒達の動揺はさらに大きくなった。
不良生徒A「南町……、逢岡か……っ。く、くそ……出直すぞ!」
男子生徒達は悶絶したきりの仲間をかついですごすごと養生所を逃げ出していった。
吉音「あぁーっ、帰っちゃうのぉ?」
悠「帰っていいだろ。なにも好んで荒事にするみたぁない。なぁ、かなうさん」
かなう「お、おう」
かなうさんはいつの間にか手にしていた刀を鞘に戻した……やっぱりヤル気だったか。
悠「……」
かなう「急いで治療してやらんとな。手当が遅れていいことはない。おい。悠そっちに運んでやってくれ」
悠「うい」
黒部という生徒のケガは結構酷いものだった。刀傷こそなかったものの、殴る蹴るはもちろん、棍棒か何かで容赦なく打ちのめされている。
かなう「骨には異常はないようだが……、この怪我じゃしばらくは動けんな」
ひと通りの治療を終えたかなうさんがいった。
吉音「てせも、どうしてこんな目に?やったのはさっきのあいつらなんでしょ」
黒部「…………」
かなう「黙っていちゃなんにもわからんぞ?」
悠「さっきもいったが、この二人なら任せてしまっても大丈夫だから。話してくれないか?お前がこんな目にあったわけを」
黒部「…………」
黒部はなおもしばらく黙っていたが、ついに口を開いた。
悠「ん?」
黒部「俺は……我慢できなくなって……逃げ出そうとしてたんだ……」
吉音「我慢って、なにに?」
黒部「なにもかもだ。なにもかも。あの町に居たら俺たちぁ、生き地獄だ……っ」
悠「あの町」
かなう「おだやかな話しじゃないな。黒部といったな、いいからとにかく洗いざらい話してみろ」
いわれずとも、毒を食らわばという気持ちになっていたのだろう。黒部はこれまで自分に起きたことをとつとつと語り始めた。黒部の住む町は、さっきやってきたようなやくざ者らが取り仕切っているのだという。商いを営む者へのみかじめ料と称しての恐喝はもちろん、そうでない一般生徒も「年貢」をとられる。むろん断れば、この黒部のような目に遭わされるというわけだ。
吉音「奉行所はなにしてるの?」
憤激した吉音は火傷の痛みを忘れてしまっているようだ。しかし黒部は吐き捨てるように呟く。
黒部「奉行所なんかあてになるもんか。おそれおおく、と訴え出た次の日にはそいつか、そいつの家族が川にはまってどざえもんだ」
かなう「報復を恐れて、訴え出ることもできないというわけか」
黒部「誰も逆らえないから、結局みんな奴らの仲間になっていく。さっきのあいつらも……」
かなう「なるほど。悪党の仲間になることで、金を巻き上げられずに済まそうとそういうことか」
黒部はかすかにうなずいた。
黒部「けど、そんなことしてたって、結局はうえの連中に絞り取られるだけ。その金を手に入れるるために、もっと弱い連中から巻きあげる……俺は……」
かなう「そんな生活に嫌気がさして逃げ出そうとした、そんなところか。なるほど。悪党の片棒を担いでも、芯まで悪に染まっちゃいなかったってことだな。……ったく」
悠「……」
かなうさんは彼女らしくもない溜息をついた。
かなう「いったい悪事ってのは尽きることはないのか。執行部も少しは町の様子をみてみろっていうんだ」
吉音「…………」
悠「ともかく。ここまで来たらまずは安心していい。今日は休んで明日にでも奉行所にいくぞ」
黒部「……」
悠「大丈夫。逢岡さんにせよ遠山さんにせよ、こういうことを見逃すようなひとらじゃないから」
黒部「……」
黒部はまだ信用していないようだけど、それでも小さくうなずいた。執行部があてにされていなくとも、ふたりの奉行の名はそれなりに効果があるようだった。