ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
吉音「じー…………っ」
鍋の中の寒天をゆっくりと混ぜる。メレンゲを造ってるわけじゃないから泡立ってもらっては困るからだ。
悠「……」
吉音「じぃ――……っ」
充分に溶けたところで火から下ろす。そして鍋ごと氷水を張ったたらいにつける。ここでも混ぜるのをやめてはいけない。寒天と水が分離してしまうからだ。
悠「……」
吉音「じい――――……っ」
あら熱が取れて、寒天がどろっとしてきたら、それ以上固まる前に型に流しこむ。今回は特に変わったかたちにするつもりはないから、中くらいの四角い形だ。気泡が入らないよう静かに流し込む。それでもできてしまった気泡は、浮いて来たところを竹串で丁寧につぶしていく。落ちついたところを見計らって安置し、おれは通常の小鳥遊堂業務を開始した。
また時間を見計らい、頃合いを見て寒天の方へと戻ってくる。
悠「……オーライ」
箱の中ではなめらかな表面が出来上がっていた。
吉音「ようかん?」
悠「ちがうよ、水ようかんと勘違いしてるだろ。これは普通の寒天。さいの目に切ってみつまめにいれるんだ」
吉音「おお!みつ豆!みつ豆、おいしいよねえっ。そっかぁ、あの四角いのはこうやって作るんだねえ、ぷるぷるしてておいしいよねえ」
悠「そだな」
吉音「ねえ、試食試食、試食させてよ」
悠「そんな必要ないだろっ。だいたい、いっつも売れ残るんだから、どうせ夜には食べられるじゃないか」
うーん……我ながら考え方が後ろ向きに全力疾走だな。
吉音「うー。いま食べたいのに……。あ、じゃあさ、手伝わせて!これからその寒天切るんでしょ?あたし切りたい。切るのなら得意だし!」
悠「いや待て、包丁と刀じゃ同じって訳には……」
吉音「うん、包丁これね!よおーっしやるぞーー」
いちばん刀に近いから使いやすいと思ったのだろう、吉音は牛刀を手に取った。そしておもむろに型からあけたばかりの寒天に刃を当てる。
悠「……」
吉音「……ん、……あれ、あれ?……あれ?」
刃渡り50センチ近い牛刀で、寒天を斬ろうとする吉音。
悠「……」
吉音「あれ、あれれ……?」
しかし、切り口が歪んでしまって、寒天は四角どころか、ジャガイモみたいな形になってしまった。
悠「…はぁ」
吉音「なんでよう!悠、この包丁といでないんじゃないの?」
悠「うぉっい!刃先をこっちに向けるなっ。そんなわけないだろ、ちょっと替われ」
吉音「むー」
不満そうな吉音に替わって、おれはごく普通の文化包丁を手に取った。そして刃先をポットのお湯で少し温める。
悠「ほら。こうしてきれば……刃先をちょっと温めれば、その熱でずっと切りやすく……」
刃先がすっと半透明の固まりに沈み込む。とりあえず吉音が変な切り方をしたところを斬り離してしまおう。
吉音「やってみる!」
悠「ちょっとでいいんだからな……」
おれの注意を聞く前に、吉音はポットのポンプを思い切り押し込んでいた。
吉音「………………」
悠「よ、吉音……?」
いま思い切り手にかかったように見えたけど……。
吉音「あぎゃあ――――――――っ!あちっ、あちっ、熱いぃぃ―――――っ!!」
悠「だから言わんこっちゃない!包丁置け!水、水で冷やすんだっ」
幸いなことに、まだ桶には寒天を冷やすのに使った氷水があった。暴れる吉音の手を取って、桶に突っ込む。
吉音「――――っっ!」
さすがに蒸気こそ立たなかったが、手は真っ赤になっていた。
悠「このまま冷やせ。火傷はまず冷やさないと」
吉音「うん。うん……」
悠「冷やしたらかなうさんのところに行くぞ。見てもらわなきゃ」
吉音「へ、平気だよ。こんなの。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……」
悠「嘘つけ、あんなに痛がってたろっ。よし、さあ行くぞ。」
吉音「あ、ちょ、ちょっと悠……」
吉音「じー…………っ」
鍋の中の寒天をゆっくりと混ぜる。メレンゲを造ってるわけじゃないから泡立ってもらっては困るからだ。
悠「……」
吉音「じぃ――……っ」
充分に溶けたところで火から下ろす。そして鍋ごと氷水を張ったたらいにつける。ここでも混ぜるのをやめてはいけない。寒天と水が分離してしまうからだ。
悠「……」
吉音「じい――――……っ」
あら熱が取れて、寒天がどろっとしてきたら、それ以上固まる前に型に流しこむ。今回は特に変わったかたちにするつもりはないから、中くらいの四角い形だ。気泡が入らないよう静かに流し込む。それでもできてしまった気泡は、浮いて来たところを竹串で丁寧につぶしていく。落ちついたところを見計らって安置し、おれは通常の小鳥遊堂業務を開始した。
また時間を見計らい、頃合いを見て寒天の方へと戻ってくる。
悠「……オーライ」
箱の中ではなめらかな表面が出来上がっていた。
吉音「ようかん?」
悠「ちがうよ、水ようかんと勘違いしてるだろ。これは普通の寒天。さいの目に切ってみつまめにいれるんだ」
吉音「おお!みつ豆!みつ豆、おいしいよねえっ。そっかぁ、あの四角いのはこうやって作るんだねえ、ぷるぷるしてておいしいよねえ」
悠「そだな」
吉音「ねえ、試食試食、試食させてよ」
悠「そんな必要ないだろっ。だいたい、いっつも売れ残るんだから、どうせ夜には食べられるじゃないか」
うーん……我ながら考え方が後ろ向きに全力疾走だな。
吉音「うー。いま食べたいのに……。あ、じゃあさ、手伝わせて!これからその寒天切るんでしょ?あたし切りたい。切るのなら得意だし!」
悠「いや待て、包丁と刀じゃ同じって訳には……」
吉音「うん、包丁これね!よおーっしやるぞーー」
いちばん刀に近いから使いやすいと思ったのだろう、吉音は牛刀を手に取った。そしておもむろに型からあけたばかりの寒天に刃を当てる。
悠「……」
吉音「……ん、……あれ、あれ?……あれ?」
刃渡り50センチ近い牛刀で、寒天を斬ろうとする吉音。
悠「……」
吉音「あれ、あれれ……?」
しかし、切り口が歪んでしまって、寒天は四角どころか、ジャガイモみたいな形になってしまった。
悠「…はぁ」
吉音「なんでよう!悠、この包丁といでないんじゃないの?」
悠「うぉっい!刃先をこっちに向けるなっ。そんなわけないだろ、ちょっと替われ」
吉音「むー」
不満そうな吉音に替わって、おれはごく普通の文化包丁を手に取った。そして刃先をポットのお湯で少し温める。
悠「ほら。こうしてきれば……刃先をちょっと温めれば、その熱でずっと切りやすく……」
刃先がすっと半透明の固まりに沈み込む。とりあえず吉音が変な切り方をしたところを斬り離してしまおう。
吉音「やってみる!」
悠「ちょっとでいいんだからな……」
おれの注意を聞く前に、吉音はポットのポンプを思い切り押し込んでいた。
吉音「………………」
悠「よ、吉音……?」
いま思い切り手にかかったように見えたけど……。
吉音「あぎゃあ――――――――っ!あちっ、あちっ、熱いぃぃ―――――っ!!」
悠「だから言わんこっちゃない!包丁置け!水、水で冷やすんだっ」
幸いなことに、まだ桶には寒天を冷やすのに使った氷水があった。暴れる吉音の手を取って、桶に突っ込む。
吉音「――――っっ!」
さすがに蒸気こそ立たなかったが、手は真っ赤になっていた。
悠「このまま冷やせ。火傷はまず冷やさないと」
吉音「うん。うん……」
悠「冷やしたらかなうさんのところに行くぞ。見てもらわなきゃ」
吉音「へ、平気だよ。こんなの。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……」
悠「嘘つけ、あんなに痛がってたろっ。よし、さあ行くぞ。」
吉音「あ、ちょ、ちょっと悠……」