ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー南町奉行所ー
吉音「ねぇ、想ちゃん。なんとかならないの!?」
想「ん……」
吉音の訴えに、逢岡さんは渋い顔をするばかりだ。
吉音「このままじゃ店長さんが可哀想だよっ」
悠「おい、新。あんまり無茶言うなよ。逢岡さんが困ってるだろ」
吉音「だっい……」
想「私も、何とかできるのなら、そうしたいです。ですが、事件が起きたのは北町です」
吉音「でも、あたしたちに助けてーっていってきたんだよ」
想「その投書に基づいて調査したのでしょう?でしたら、後は遠山さんに任せるべきです」
吉音「でも……」
想「それとも徳田さんは、遠山さんが何もしないでいると思っているんですか?」
吉音「そんなことないよっ」
想「でしたら、私たちにできる最上のことは、遠山さんを信じて待つことです」
吉音「でも……でも……」
想「大丈夫ですよ、徳田さん。遠山さんならきっと、事の詳細を調べ上げて、正しい裁きを下してくれますよ」
吉音「……うん」
逢岡さんの静かな説得に、吉音は納得しきれないようではあったけれど、最後はこくりと頷いた。……だけどおれは、この前たまたま見かけた真留に甘味を奢って聞きだしていたから、知っている。
見玖亭を閉店に追い込んだ不良二名と店員の素性は、依然として掴めていないことを。不良達の恨みを買うのが怖いのか、連中を特定するだけの目撃情報が思うように集まらないそうだ。
女性店員のほうも偽造の生徒証を使って雇われていたために、捜索が難航しているそうだ。
その事実を逢岡さんが口にしないでいるのは、吉音を先走らせないためだ。なら、おれもいうわけにはいかない。
悠「そうだぞ、新。おれ達にできることは全部やったんだ。後は任せるしかないさ」
おれは笑って、吉音の肩にぽんと手を置く。
吉音「悠……うん、そうだね。金ちゃんなら、ちゃんと解決してくれるよねっ」
吉音は、まるでおれを励ますように笑った。きっとそれは、吉音の肩に置いたおれの手に、必要以上の力がこもっていたからだろう。吉音を元気づけるつもりが、逆に元気づけられるとは……おれもまだまだだな。
ーとある境内ー
見玖亭の店主「奉行所に訴えても目安箱に投書しても……結局、何もしてくれなかった……私は店を失ったのに、やつらは捕まってもいない……この世の中には神も仏もいないんですかね?私は、悔しいですよ。悔しくて悔しくて、勉強どころじゃありませんよ。悔しくて眠れないんですよ…………ここに、店を処分したときの金を置いていきます。ですからどうか……どうか、やつらに仕置きを――!」
往水「……奉行所も目安箱も何もしちゃくれなかった、か。期待して期待して裏切られるってのは、さて、どんな気持だったかな……」
ーとある街路ー
八鳥「ふぅい……少々遅くなってしまったか。あの店の女は引きとめるのがうまいから困る。しかし、あの女。あれは絶対、私に気があるな。今度、アフターに誘ってやるのもいいか……くくっ」
「――随分とご機嫌ですなぁ」
八鳥「むっ、誰だ!?」
往水「嫌ですね、怖い顔して。アタシですよ、アタシ」
八鳥「なんだ……仲村か。驚かせるな」
往水「こりゃすいませんね。ところで、今夜も夜遊びですか?」
八鳥「まあな。ちと臨時収入があったもので、な」
往水「ああ……レストラン潰しの片棒を担いだ報酬ですか」
八鳥「……なんの話しだ、それは」
往水「嫌ですねぇ。アタシにそんな美味しい話を隠してただなんて、八鳥さんも大概イケズですよ」
八鳥「さて、なんの話しだか私にはさっぱり分からんな」
往水「隠さなくていいですよ。もう不良役とウェイトレス役だった三人から話しは聞いているんです~」
吉音「ねぇ、想ちゃん。なんとかならないの!?」
想「ん……」
吉音の訴えに、逢岡さんは渋い顔をするばかりだ。
吉音「このままじゃ店長さんが可哀想だよっ」
悠「おい、新。あんまり無茶言うなよ。逢岡さんが困ってるだろ」
吉音「だっい……」
想「私も、何とかできるのなら、そうしたいです。ですが、事件が起きたのは北町です」
吉音「でも、あたしたちに助けてーっていってきたんだよ」
想「その投書に基づいて調査したのでしょう?でしたら、後は遠山さんに任せるべきです」
吉音「でも……」
想「それとも徳田さんは、遠山さんが何もしないでいると思っているんですか?」
吉音「そんなことないよっ」
想「でしたら、私たちにできる最上のことは、遠山さんを信じて待つことです」
吉音「でも……でも……」
想「大丈夫ですよ、徳田さん。遠山さんならきっと、事の詳細を調べ上げて、正しい裁きを下してくれますよ」
吉音「……うん」
逢岡さんの静かな説得に、吉音は納得しきれないようではあったけれど、最後はこくりと頷いた。……だけどおれは、この前たまたま見かけた真留に甘味を奢って聞きだしていたから、知っている。
見玖亭を閉店に追い込んだ不良二名と店員の素性は、依然として掴めていないことを。不良達の恨みを買うのが怖いのか、連中を特定するだけの目撃情報が思うように集まらないそうだ。
女性店員のほうも偽造の生徒証を使って雇われていたために、捜索が難航しているそうだ。
その事実を逢岡さんが口にしないでいるのは、吉音を先走らせないためだ。なら、おれもいうわけにはいかない。
悠「そうだぞ、新。おれ達にできることは全部やったんだ。後は任せるしかないさ」
おれは笑って、吉音の肩にぽんと手を置く。
吉音「悠……うん、そうだね。金ちゃんなら、ちゃんと解決してくれるよねっ」
吉音は、まるでおれを励ますように笑った。きっとそれは、吉音の肩に置いたおれの手に、必要以上の力がこもっていたからだろう。吉音を元気づけるつもりが、逆に元気づけられるとは……おれもまだまだだな。
ーとある境内ー
見玖亭の店主「奉行所に訴えても目安箱に投書しても……結局、何もしてくれなかった……私は店を失ったのに、やつらは捕まってもいない……この世の中には神も仏もいないんですかね?私は、悔しいですよ。悔しくて悔しくて、勉強どころじゃありませんよ。悔しくて眠れないんですよ…………ここに、店を処分したときの金を置いていきます。ですからどうか……どうか、やつらに仕置きを――!」
往水「……奉行所も目安箱も何もしちゃくれなかった、か。期待して期待して裏切られるってのは、さて、どんな気持だったかな……」
ーとある街路ー
八鳥「ふぅい……少々遅くなってしまったか。あの店の女は引きとめるのがうまいから困る。しかし、あの女。あれは絶対、私に気があるな。今度、アフターに誘ってやるのもいいか……くくっ」
「――随分とご機嫌ですなぁ」
八鳥「むっ、誰だ!?」
往水「嫌ですね、怖い顔して。アタシですよ、アタシ」
八鳥「なんだ……仲村か。驚かせるな」
往水「こりゃすいませんね。ところで、今夜も夜遊びですか?」
八鳥「まあな。ちと臨時収入があったもので、な」
往水「ああ……レストラン潰しの片棒を担いだ報酬ですか」
八鳥「……なんの話しだ、それは」
往水「嫌ですねぇ。アタシにそんな美味しい話を隠してただなんて、八鳥さんも大概イケズですよ」
八鳥「さて、なんの話しだか私にはさっぱり分からんな」
往水「隠さなくていいですよ。もう不良役とウェイトレス役だった三人から話しは聞いているんです~」