ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー北町奉行所ー
朱金「はい、自己紹介終わり。そんじゃ、本題な――八鳥、おまえは見玖亭って飯屋を知ってるか?」
八鳥「……ええ、もちろん知っております。私の担当地区にある店です。」
朱金「じゃあ、その店が不良の溜まり場になっていたことは?」
八鳥「なんと、そのようなことが!?それは本当ですか?私、いまのいままで知りませんでした!」
八鳥は両目をかっと見開かんばかりにして驚いている。
朱金「本当か?聞けば、十日足らずで閉店に追い込まれるほどの暴れっぷりだったそうだぞ」
八鳥「なんと……あ、そういえば、一週間ほど前にその店で騒いでいた不良を懲らしめたことはありました。もしや、その腹いせに……いや、その後何度か見廻りで立ち寄ったが、妖しい奴はひとりもみなかったぞ……」
朱金「ああ、おまえに追い返された腹いせって訳じゃないらしいから、それは気にすんな」
自問自答し始めた八鳥に、朱金は笑って頭を振った。
悠「……」
朱金「とにかく、何も知らないってんなら良いんだ……ああ、まったく違うか。全然良くないのか」
八鳥「誠に申し訳ございません!全ては、悪事をみすみす見逃した私の不徳の致すところ。処罰は如何様にも!」
うーわ……こいつ、土下座した。がばっと畳に頭突きをする勢いで土下座したぞ。
朱金「おおい、そんなことしなくていいって。今日から気を引き締めてくれりゃ良いんだからさ」
八鳥「ははぁ!肝に銘じます!」
八鳥はいったん上げた顔をもう一度、勢いよく畳にこすりつけた。
朱金「……おう、よろしく頼むぜ」
朱金はもう、土下座は要らないという気も失せたのか、ただ頷いて苦笑いした。
八鳥「ははぁ!」
……これでもし本当に初対面だったら、立派な同心だ、と胸を打たれていたかもしれない。本当の姿を見せられた後だと、ただの滑稽な子役人にしか見えないけどな。結局、朱金に時間を作ってもらってまで分かったのは、八鳥という同心の偽人くらいだった。不良が暴れている現場に出会していたとしても、中村と同種の小役人に何かができたとは思えない。一度懲らしめたという話しこそ眉唾ものだ。
もっとマシな同心が見廻りしてくれていたら、こんなことにならなかったかもしれないのに――まったく。……とは、さすがに朱金の前では言えなかった。朱金が思い悩んでいないはず、ないのだから。
ー某所ー
不良生徒A「あっはっは、いやぁ上手くいったもんだなぁ」
不良生徒B「ああ、まったくだ。まさか本当に一週間でけりをつけられるとはな」
見玖亭の女給「だからいったでしょ。あたしにかかれば、あんな男を騙くらかすなんて、ちょろいもんよ」
不良生徒A「まったく怖いもんだぜ、女ってのはよぉ」
不良生徒B「単にあの店長が間抜けだったってだけだろ。おかげでこっちは仕事がやりやすくて助かったがな」
不良生徒A「岡っ引きを気にせず暴れられて、しかも金までもらえるなんて、ほんっとナイスな仕事だったぜ」
見玖亭の女給「あいつに通報させないように演技した、あたしに感謝しなさいよね」
見玖亭の女給「ああ、感謝してるさ。おまえにも……八鳥さんにも」
八鳥「くくく……」
見玖亭の女給「そういえば八鳥様、奉行に呼び出されたって聞いたけど、大丈夫だったんです?」
八鳥「ああ。遠山のヤツ、私をまったく疑っていなかったぞ。少しうろたえた演技をしたら、ころっと騙されおったわ」
不良生徒A「八鳥さん、演技派ですからね。俺らを追い返した時の演技なんて、本気でイラっとしましたぜ」
見玖亭の女給「そうそう。あれで馬鹿店長も、ころっと信じてくれたから、あたしもフォローが楽でしたもん」
八鳥「はっはっはっ、そう煽てるな」
不良生徒B「煽ててなんていませんや。今回のことがうまくいったのは全部、八鳥さんのおかげですから」
八鳥「それはいいすぎだろ。私は、おまえたちと鉢合わせしないように見回りの時間をずらしただけだからな」
見玖亭の女給「またまたぁ。それだけじゃなく、何度も何度も賄賂をせびって追い込みかけてたじゃないですかぁ」
八鳥「むっ、そうだったかな?」
不良生徒B「八鳥さんも酷いお人だ。自分だけ、そうやって小遣い稼ぎをしていたなんて」
八鳥「立場的に私が一番危ういのだから、そのくらいは当然の権利だ。これは、報酬の取り分とは関係ないぞ」
不良生徒B「分かってますよ。最初の約束通り、報酬は山分けです」
見玖亭の女給「あはっ、これであたしも大金持ちねっ」
不良生徒A「よっしゃ、豪遊してやるぜぇ!」
不良生徒B「おいおい、あんまり無駄遣いするなよ」
見玖亭の女給「無くなったら、またどっかで稼げばいいのよ」
八鳥「おいおい、同心の前で悪事の計画などするもんじゃあないぞ……くっくっくっ」
不良生徒A「そりゃ違いねぇや、ぎゃっはは!」
見玖亭の女給「あはははっ」
朱金「はい、自己紹介終わり。そんじゃ、本題な――八鳥、おまえは見玖亭って飯屋を知ってるか?」
八鳥「……ええ、もちろん知っております。私の担当地区にある店です。」
朱金「じゃあ、その店が不良の溜まり場になっていたことは?」
八鳥「なんと、そのようなことが!?それは本当ですか?私、いまのいままで知りませんでした!」
八鳥は両目をかっと見開かんばかりにして驚いている。
朱金「本当か?聞けば、十日足らずで閉店に追い込まれるほどの暴れっぷりだったそうだぞ」
八鳥「なんと……あ、そういえば、一週間ほど前にその店で騒いでいた不良を懲らしめたことはありました。もしや、その腹いせに……いや、その後何度か見廻りで立ち寄ったが、妖しい奴はひとりもみなかったぞ……」
朱金「ああ、おまえに追い返された腹いせって訳じゃないらしいから、それは気にすんな」
自問自答し始めた八鳥に、朱金は笑って頭を振った。
悠「……」
朱金「とにかく、何も知らないってんなら良いんだ……ああ、まったく違うか。全然良くないのか」
八鳥「誠に申し訳ございません!全ては、悪事をみすみす見逃した私の不徳の致すところ。処罰は如何様にも!」
うーわ……こいつ、土下座した。がばっと畳に頭突きをする勢いで土下座したぞ。
朱金「おおい、そんなことしなくていいって。今日から気を引き締めてくれりゃ良いんだからさ」
八鳥「ははぁ!肝に銘じます!」
八鳥はいったん上げた顔をもう一度、勢いよく畳にこすりつけた。
朱金「……おう、よろしく頼むぜ」
朱金はもう、土下座は要らないという気も失せたのか、ただ頷いて苦笑いした。
八鳥「ははぁ!」
……これでもし本当に初対面だったら、立派な同心だ、と胸を打たれていたかもしれない。本当の姿を見せられた後だと、ただの滑稽な子役人にしか見えないけどな。結局、朱金に時間を作ってもらってまで分かったのは、八鳥という同心の偽人くらいだった。不良が暴れている現場に出会していたとしても、中村と同種の小役人に何かができたとは思えない。一度懲らしめたという話しこそ眉唾ものだ。
もっとマシな同心が見廻りしてくれていたら、こんなことにならなかったかもしれないのに――まったく。……とは、さすがに朱金の前では言えなかった。朱金が思い悩んでいないはず、ないのだから。
ー某所ー
不良生徒A「あっはっは、いやぁ上手くいったもんだなぁ」
不良生徒B「ああ、まったくだ。まさか本当に一週間でけりをつけられるとはな」
見玖亭の女給「だからいったでしょ。あたしにかかれば、あんな男を騙くらかすなんて、ちょろいもんよ」
不良生徒A「まったく怖いもんだぜ、女ってのはよぉ」
不良生徒B「単にあの店長が間抜けだったってだけだろ。おかげでこっちは仕事がやりやすくて助かったがな」
不良生徒A「岡っ引きを気にせず暴れられて、しかも金までもらえるなんて、ほんっとナイスな仕事だったぜ」
見玖亭の女給「あいつに通報させないように演技した、あたしに感謝しなさいよね」
見玖亭の女給「ああ、感謝してるさ。おまえにも……八鳥さんにも」
八鳥「くくく……」
見玖亭の女給「そういえば八鳥様、奉行に呼び出されたって聞いたけど、大丈夫だったんです?」
八鳥「ああ。遠山のヤツ、私をまったく疑っていなかったぞ。少しうろたえた演技をしたら、ころっと騙されおったわ」
不良生徒A「八鳥さん、演技派ですからね。俺らを追い返した時の演技なんて、本気でイラっとしましたぜ」
見玖亭の女給「そうそう。あれで馬鹿店長も、ころっと信じてくれたから、あたしもフォローが楽でしたもん」
八鳥「はっはっはっ、そう煽てるな」
不良生徒B「煽ててなんていませんや。今回のことがうまくいったのは全部、八鳥さんのおかげですから」
八鳥「それはいいすぎだろ。私は、おまえたちと鉢合わせしないように見回りの時間をずらしただけだからな」
見玖亭の女給「またまたぁ。それだけじゃなく、何度も何度も賄賂をせびって追い込みかけてたじゃないですかぁ」
八鳥「むっ、そうだったかな?」
不良生徒B「八鳥さんも酷いお人だ。自分だけ、そうやって小遣い稼ぎをしていたなんて」
八鳥「立場的に私が一番危ういのだから、そのくらいは当然の権利だ。これは、報酬の取り分とは関係ないぞ」
不良生徒B「分かってますよ。最初の約束通り、報酬は山分けです」
見玖亭の女給「あはっ、これであたしも大金持ちねっ」
不良生徒A「よっしゃ、豪遊してやるぜぇ!」
不良生徒B「おいおい、あんまり無駄遣いするなよ」
見玖亭の女給「無くなったら、またどっかで稼げばいいのよ」
八鳥「おいおい、同心の前で悪事の計画などするもんじゃあないぞ……くっくっくっ」
不良生徒A「そりゃ違いねぇや、ぎゃっはは!」
見玖亭の女給「あはははっ」