ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー北町奉行所ー
悠「……ってことで、突然邪魔したわけだ」
吉音「してしまったよーっ」
往水「アタシは止めたんですがね」
朱金「いやいや、おかげで堅っ苦しい会議から抜け出せて、むしろ助かったぜ」
吉音「いえいえ、それほどでもー」
朱金「あっはっは」
吉音と朱金はあっけらかんと笑いあっているけれど、それってつまり、公務を中断させてしまった訳だ。
悠「……時間を作ってもらって、感謝してる」
朱金「だから本当に良いって、会議っつっても、難しい顔でそれっぽいことを言い合ってただけなんだからよ。」
悠「あー、そうなのか……」
一瞬、その言葉通りの光景を想像してしまった。
朱金「そんなことより、ええ……ミルクなんとかって飯屋が不良のたまり場になってたことについて、だったな」
悠「ああ。見玖亭の店主は通報こそしなかったけど、噂くらいにはなっていたと思うんだ」
朱金「だから、届けが出ていなくても町方が動くべきだった。これは職務怠慢だ――か」
悠「あー?そういうつもりでいったんじゃなく――」
弁解しようとするおれの口を、朱金は手ぶりで遮った。
朱金「全面的にオレの落ち度だ。こういうことがないように見回りをさせているってのに面目ない」
吉音「そんなことないよ。金ちゃんは頑張ってるよ」
朱金「シン……」
吉音「毎日頑張って街中をブラブラしてるよっ」
朱金「あー……ま、まあ、励まされたと思っとく」
往水「えー、話しを戻させてもらいますけど、見玖亭のあった辺りを見廻っていた同心からの報告はなかった、と」
朱金「ああ、そうだ」
往水「報告はなかったのに、実際は店ひとつが潰れるほどの騒ぎが起きていた……ということですか。なるほど」
朱金「……耳が痛いね」
いっそ淡々とした中村の言葉に、朱金は痛そうに顰める。そのとき、襖の向こうから控え目な声がかけられた。
真留「遠山様、八鳥様がお見えになりました」
朱金「ん、ああ。ご苦労さん。こっちに通してくれ」
真留「はい、分かりました。」
襖の向こうで気配が遠ざかっていく。
朱金「問題の地区の見廻り担当を呼んでおいた。オレに聞くより、直接聞いた方が早いと思ってな」
八鳥「遠山さま、公務のため遅くなりました。八鳥です」
悠「あー?」
襖を開けて入ってきたのは、見覚えのある同心だった。
朱金「ん?なんだ、悠。こいつと知り合いだったのか?」
悠「いや、べつにぃ……」
まさか、賄賂を要求されたことがあります、ともいえないでいるうちに、同心のほうが先に口を開いた。
八鳥「私に見覚えはありませんね。どこかであったかな?」
悠「だから、別にってんだろ……」
惚けているのか、それとも本気で覚えていないのか、八鳥という同心の表情からはさっぱり判断できない。
朱金「まあいいや。じゃあ初対面ってことで、自己紹介な」
八鳥「では、私から……北町同心、八鳥佐外だ」
悠「南町で茶屋を開いてる、小鳥遊だ」
吉音「……」
いつもならおれに便乗していっしょに挨拶する吉音だけど、いまは八鳥を睨んで憮然としている。難癖をつけて連行されたことを思えば、それも当然か。むしろ、よく騒がずにいると感心だ。
悠「……ってことで、突然邪魔したわけだ」
吉音「してしまったよーっ」
往水「アタシは止めたんですがね」
朱金「いやいや、おかげで堅っ苦しい会議から抜け出せて、むしろ助かったぜ」
吉音「いえいえ、それほどでもー」
朱金「あっはっは」
吉音と朱金はあっけらかんと笑いあっているけれど、それってつまり、公務を中断させてしまった訳だ。
悠「……時間を作ってもらって、感謝してる」
朱金「だから本当に良いって、会議っつっても、難しい顔でそれっぽいことを言い合ってただけなんだからよ。」
悠「あー、そうなのか……」
一瞬、その言葉通りの光景を想像してしまった。
朱金「そんなことより、ええ……ミルクなんとかって飯屋が不良のたまり場になってたことについて、だったな」
悠「ああ。見玖亭の店主は通報こそしなかったけど、噂くらいにはなっていたと思うんだ」
朱金「だから、届けが出ていなくても町方が動くべきだった。これは職務怠慢だ――か」
悠「あー?そういうつもりでいったんじゃなく――」
弁解しようとするおれの口を、朱金は手ぶりで遮った。
朱金「全面的にオレの落ち度だ。こういうことがないように見回りをさせているってのに面目ない」
吉音「そんなことないよ。金ちゃんは頑張ってるよ」
朱金「シン……」
吉音「毎日頑張って街中をブラブラしてるよっ」
朱金「あー……ま、まあ、励まされたと思っとく」
往水「えー、話しを戻させてもらいますけど、見玖亭のあった辺りを見廻っていた同心からの報告はなかった、と」
朱金「ああ、そうだ」
往水「報告はなかったのに、実際は店ひとつが潰れるほどの騒ぎが起きていた……ということですか。なるほど」
朱金「……耳が痛いね」
いっそ淡々とした中村の言葉に、朱金は痛そうに顰める。そのとき、襖の向こうから控え目な声がかけられた。
真留「遠山様、八鳥様がお見えになりました」
朱金「ん、ああ。ご苦労さん。こっちに通してくれ」
真留「はい、分かりました。」
襖の向こうで気配が遠ざかっていく。
朱金「問題の地区の見廻り担当を呼んでおいた。オレに聞くより、直接聞いた方が早いと思ってな」
八鳥「遠山さま、公務のため遅くなりました。八鳥です」
悠「あー?」
襖を開けて入ってきたのは、見覚えのある同心だった。
朱金「ん?なんだ、悠。こいつと知り合いだったのか?」
悠「いや、べつにぃ……」
まさか、賄賂を要求されたことがあります、ともいえないでいるうちに、同心のほうが先に口を開いた。
八鳥「私に見覚えはありませんね。どこかであったかな?」
悠「だから、別にってんだろ……」
惚けているのか、それとも本気で覚えていないのか、八鳥という同心の表情からはさっぱり判断できない。
朱金「まあいいや。じゃあ初対面ってことで、自己紹介な」
八鳥「では、私から……北町同心、八鳥佐外だ」
悠「南町で茶屋を開いてる、小鳥遊だ」
吉音「……」
いつもならおれに便乗していっしょに挨拶する吉音だけど、いまは八鳥を睨んで憮然としている。難癖をつけて連行されたことを思えば、それも当然か。むしろ、よく騒がずにいると感心だ。