ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー見玖亭ー
見玖亭の店主「投書にも書きましたが、一週間ほど前から、この店は質の悪い連中に目をつけられておりました。店で騒ぐわ、客や店員に絡んでくるわ、何かあると慰謝料だの何だと喚くは……もう散々でした」
往水「あの、ちょっとよろしいですか?」
店主の話しに、中村がぬっと割りこんでくる。
見玖亭の店主「なんでしょうか……?」
往水「いえね、そんな連中が押しかけて来るようになったら、普通はまずお近くの番屋に駆け込むもんじゃありません?それをどうしてまた、わざわざ南町までいって目安箱に投書しようと思ったので?」
それは、おれや逢岡さんも気になっていたことだ。
見玖亭の店主「それは……奉行所に訴えたら店員の恥ずかしい写真をバラまくぞとおどされまして……」
往水「ほぅ、恥ずかしい写真ですか。あ、ちなみにその店員というのはウェイター?ウェイトレス?」
見玖亭の店主「女給……ウェイトレスです」
往水「なるほど、なるほど。つまり、女性店員のために涙を呑んで不良連中のいいなりになっていたと」
中村さんの言葉に、店主は答える気力もなくしたのか、がくりとうなだれた。
見玖亭の店主「あぁ……私が馬鹿だったんです……あんな……あんな嘘を信じるなんてっ!」
悠「……うそ?」
唐突に出てきた単語のことを聞き返すと、店主はまた泣き崩れそうになる。
見玖亭の店主「その。脅しのネタにされていたウェイトレスは……あ、あいつらとグルだったんです!!」
悠「あー?それってどういう……」
見玖亭の店主「ついさっき、皆さんが来る小一時間前前のことです。私は見てしまったんです……あっ、あの子が……アイツらと話をしているところを!!」
往水「それじゃあ、話しが見えませんよ。店長さん、あんたはそのウェイトレスが誰と話してるところを見たんです?」
見玖亭の店主「だから、あいつら……うちの店をめちゃくちゃにした不良達と楽しげに話しているところをです!」
往水「話の内容は聞いてました?」
見玖亭の店主「ええ、そりゃもう。全部聞いて、カラクリも分かってしまいましたよ……」
中村の合いの手に、店主はまたがくりとうなだれて話を続けた。
悠「……」
見玖亭の店主「脅されている振りをしていた娘は、近所のレストランからのまわし者で、不良もそこに雇われていたんです」
往水「……なるほど。つまり、ライバル店潰しの下衆な工作だったということですかい」
見玖亭の店主「はい……そういうことだったんです……」
悠「でもよぉ、そこまで分かったんなら店を閉める必要はないんじゃないか?いまから奉行所に訴えても――」
おれの言葉を遮って、店主は力なく首を横に振った。
見玖亭の店主「いいえ、もういいんです……もう、疲れました……揉めたところで、離れていった客は戻ってきませんし、それに勉強に手がつかなくなっては本末転倒です」
悠「あー……そうか」
学園内で商売を営んでるのは、そうしないと最低限の暮らししかできない生徒がほとんどだ。そんな生徒にとって、商売は修学環境を良くするためにやっていることで、勉強よりも優先するものではない。商売のために成績を落としてしまったのでは、まさに本末転倒だ。
相手も、店主の店のことより学業を優先すると踏んでいたからこそ、こんな乱暴な手段をとったのだろう。
見玖亭の店主「ですから、せっかく来ていただきましたが、もう……」
悠「……分かりました」
深々と頭を下げて項垂れている店長に、おれはそれ以上、かける言葉を見つけられなかった。
往水「……ひとつよろしいですか?」
代わりに口を開いたのは中村だった。
悠「?」
往水「お話を聞くに、番屋への通報はしなかったようですが、それにしたって巡回の下っ引きくらいくるもんでしょう?」
見玖亭の店主「ええ……来てましたよ。同心さまが足繁く立ち寄ってくれてましたとも」
悠「あー?どういうことだ?」
てっきり、町方が立ち寄らないから不良が入り浸っていたのかと思っていたのだけど、そうじゃないのか?
見玖亭の店主「ですけど、連中も見張りを立てていたのか、同心さまが来るときは近寄りもしなかったんです」
悠「なるほど……そこまで計画的な犯行だったのか、中村、新いくぞ」
往水「はい?どちらへ?」
悠「奉行所に決まってるだろ。同じ飲食店の店主として、こんなこと見過ごしとくわけにはいかない」
往水「ありゃ……小鳥遊さん、いつになく積極的ですね。」
吉音「難しいことは分かんないけど、あたしも悠に賛成っ」
往水「はぁ……まっ、アタシはお二人のオマケみたいなもんですから、お任せしますよ」
中村は溜息まじりに頭を掻いて、仕方なさそうに賛成してくれた。
見玖亭の店主「投書にも書きましたが、一週間ほど前から、この店は質の悪い連中に目をつけられておりました。店で騒ぐわ、客や店員に絡んでくるわ、何かあると慰謝料だの何だと喚くは……もう散々でした」
往水「あの、ちょっとよろしいですか?」
店主の話しに、中村がぬっと割りこんでくる。
見玖亭の店主「なんでしょうか……?」
往水「いえね、そんな連中が押しかけて来るようになったら、普通はまずお近くの番屋に駆け込むもんじゃありません?それをどうしてまた、わざわざ南町までいって目安箱に投書しようと思ったので?」
それは、おれや逢岡さんも気になっていたことだ。
見玖亭の店主「それは……奉行所に訴えたら店員の恥ずかしい写真をバラまくぞとおどされまして……」
往水「ほぅ、恥ずかしい写真ですか。あ、ちなみにその店員というのはウェイター?ウェイトレス?」
見玖亭の店主「女給……ウェイトレスです」
往水「なるほど、なるほど。つまり、女性店員のために涙を呑んで不良連中のいいなりになっていたと」
中村さんの言葉に、店主は答える気力もなくしたのか、がくりとうなだれた。
見玖亭の店主「あぁ……私が馬鹿だったんです……あんな……あんな嘘を信じるなんてっ!」
悠「……うそ?」
唐突に出てきた単語のことを聞き返すと、店主はまた泣き崩れそうになる。
見玖亭の店主「その。脅しのネタにされていたウェイトレスは……あ、あいつらとグルだったんです!!」
悠「あー?それってどういう……」
見玖亭の店主「ついさっき、皆さんが来る小一時間前前のことです。私は見てしまったんです……あっ、あの子が……アイツらと話をしているところを!!」
往水「それじゃあ、話しが見えませんよ。店長さん、あんたはそのウェイトレスが誰と話してるところを見たんです?」
見玖亭の店主「だから、あいつら……うちの店をめちゃくちゃにした不良達と楽しげに話しているところをです!」
往水「話の内容は聞いてました?」
見玖亭の店主「ええ、そりゃもう。全部聞いて、カラクリも分かってしまいましたよ……」
中村の合いの手に、店主はまたがくりとうなだれて話を続けた。
悠「……」
見玖亭の店主「脅されている振りをしていた娘は、近所のレストランからのまわし者で、不良もそこに雇われていたんです」
往水「……なるほど。つまり、ライバル店潰しの下衆な工作だったということですかい」
見玖亭の店主「はい……そういうことだったんです……」
悠「でもよぉ、そこまで分かったんなら店を閉める必要はないんじゃないか?いまから奉行所に訴えても――」
おれの言葉を遮って、店主は力なく首を横に振った。
見玖亭の店主「いいえ、もういいんです……もう、疲れました……揉めたところで、離れていった客は戻ってきませんし、それに勉強に手がつかなくなっては本末転倒です」
悠「あー……そうか」
学園内で商売を営んでるのは、そうしないと最低限の暮らししかできない生徒がほとんどだ。そんな生徒にとって、商売は修学環境を良くするためにやっていることで、勉強よりも優先するものではない。商売のために成績を落としてしまったのでは、まさに本末転倒だ。
相手も、店主の店のことより学業を優先すると踏んでいたからこそ、こんな乱暴な手段をとったのだろう。
見玖亭の店主「ですから、せっかく来ていただきましたが、もう……」
悠「……分かりました」
深々と頭を下げて項垂れている店長に、おれはそれ以上、かける言葉を見つけられなかった。
往水「……ひとつよろしいですか?」
代わりに口を開いたのは中村だった。
悠「?」
往水「お話を聞くに、番屋への通報はしなかったようですが、それにしたって巡回の下っ引きくらいくるもんでしょう?」
見玖亭の店主「ええ……来てましたよ。同心さまが足繁く立ち寄ってくれてましたとも」
悠「あー?どういうことだ?」
てっきり、町方が立ち寄らないから不良が入り浸っていたのかと思っていたのだけど、そうじゃないのか?
見玖亭の店主「ですけど、連中も見張りを立てていたのか、同心さまが来るときは近寄りもしなかったんです」
悠「なるほど……そこまで計画的な犯行だったのか、中村、新いくぞ」
往水「はい?どちらへ?」
悠「奉行所に決まってるだろ。同じ飲食店の店主として、こんなこと見過ごしとくわけにはいかない」
往水「ありゃ……小鳥遊さん、いつになく積極的ですね。」
吉音「難しいことは分かんないけど、あたしも悠に賛成っ」
往水「はぁ……まっ、アタシはお二人のオマケみたいなもんですから、お任せしますよ」
中村は溜息まじりに頭を掻いて、仕方なさそうに賛成してくれた。