ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー食事処:見玖亭ー
見玖亭の店主「そ、そんな……」
八鳥「だが、私が睨みを利かせておけば、やつらも手出しはしてこんだろうが」
見玖亭の店主「本当ですか!よろしくお願いします!」
八鳥「うむ……では、ほれ」
見玖亭の店主「はい?手を差し出されて……握手、でしょうか?」
八鳥「違うわ、馬鹿もの。手ではなく、袖だ。袖を見ろ。」
見玖亭の店主「袖?……あっ、ああ。袖の下ですね……ええっ!?袖の下をよこせと!?」
八鳥「いや、そうは言ってないぞ。私はただ、こうして手を差し伸べているだけで、何もいってないぞ」
見玖亭の店主「は、はぁ……」
八鳥「ところで、さっきの連中がまた店にやってきて暴れたとしたら、いくらの損害になるのかねぇ」
見玖亭の店主「う、ぅ……少々おまちください……」
八鳥「職務中で忙しい私に、待てと?」
見玖亭の店主「すっ、すぐにお礼をお持ちしますっ!」
八鳥「ふふっ、ちょろいものだな」
往水「八鳥さん、見てましたよ」
八鳥「むっ……なんだ、誰かと思えば中村か」
往水「へへっ、どうも景気がいいようで」
八鳥「あれは感謝の気持ちを受け取っただけのことよ」
往水「感謝されるってのは気持ちの良いもんですからねぇ。アタシも、よぉく分かりますとも」
八鳥「どうやら、南の同心も感謝されるのが好きだと見える」
往水「ええ、そりゃもう。ですが真面目な話し、来たのお奉行はよくお忍びで出歩いているとか、いないとか。うっかり見られでもした日には、感謝を賄賂と勘違いされて、叱られちまうんじゃないですかい?」
八鳥「そんなドジは踏まんよ」
往水「や、心強いお言葉で」
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
悠「……」
往水「……ってな話を、さっきしてきたところなんですよ」
悠「はぁ、そうすか。あぁ、でも、そういう話しは目安箱でもたまに見ますね」
おれはあいまいにうなずく。いきなりやってきて、北町の不良同心と親交を温めてきた、なんて話しされても反応のしようがない。
往水「そうでしょうとも。アタシらに付け届けするってのは、言ってみれば生活の知恵ってやつですからね」
悠「いや、そっちの話しでなくって、因縁を着けてくる客の話しの方」
往水「あぁ、なんだ。アタシはてっきり、小鳥遊さんもついにアタシに袖の下を寄越す気になったのかと思いましたよ」
悠「そんな堂々と要求するもんじゃねーでしょ、それは」
往水「なら、こっそり要求したら、くれるんですか?」
悠「そんなわけねーでしょ……それにしても、うちの店も気をつけないといけないな」
往水「はい?なんの話しです?」
悠「だから、因縁を付けてくる客の話しだよ。うちの店も気をつけないとな……って」
往水「はははっ、そいつは要らぬ心配ってやつですよ」
悠「え、どうして?」
往水「だって、たいして儲かってもなさそうな用心棒つきの店に因縁吹っかけたって面白くないじゃないですか」
悠「うぐっ」
儲かってなさそうと、はっきり言われると少し傷つく。いや、その通りなんだけど……。
往水「隣のねずみやさんも、そのへんのあしらい方は心得ているようですし、この辺は安全だと思いますよ」
悠「この辺りは、ですか」
往水「ええ。その気になって探したら、狙い目のお店なんて結構わんさか転がってるもんですよ」
悠「……」
往水「おっと、おどかしちゃいましたかね?」
悠「いや、そこまでわかってんだったら、中村も少しは真面目に見回りしたらいいだろと思っただけ」
往水「あらら、これは意外なところからチクチクと」
悠「……」
戯けてみせる中村に、おれは自然と、瞼の下がった胡乱げな目つきになってしまう。
見玖亭の店主「そ、そんな……」
八鳥「だが、私が睨みを利かせておけば、やつらも手出しはしてこんだろうが」
見玖亭の店主「本当ですか!よろしくお願いします!」
八鳥「うむ……では、ほれ」
見玖亭の店主「はい?手を差し出されて……握手、でしょうか?」
八鳥「違うわ、馬鹿もの。手ではなく、袖だ。袖を見ろ。」
見玖亭の店主「袖?……あっ、ああ。袖の下ですね……ええっ!?袖の下をよこせと!?」
八鳥「いや、そうは言ってないぞ。私はただ、こうして手を差し伸べているだけで、何もいってないぞ」
見玖亭の店主「は、はぁ……」
八鳥「ところで、さっきの連中がまた店にやってきて暴れたとしたら、いくらの損害になるのかねぇ」
見玖亭の店主「う、ぅ……少々おまちください……」
八鳥「職務中で忙しい私に、待てと?」
見玖亭の店主「すっ、すぐにお礼をお持ちしますっ!」
八鳥「ふふっ、ちょろいものだな」
往水「八鳥さん、見てましたよ」
八鳥「むっ……なんだ、誰かと思えば中村か」
往水「へへっ、どうも景気がいいようで」
八鳥「あれは感謝の気持ちを受け取っただけのことよ」
往水「感謝されるってのは気持ちの良いもんですからねぇ。アタシも、よぉく分かりますとも」
八鳥「どうやら、南の同心も感謝されるのが好きだと見える」
往水「ええ、そりゃもう。ですが真面目な話し、来たのお奉行はよくお忍びで出歩いているとか、いないとか。うっかり見られでもした日には、感謝を賄賂と勘違いされて、叱られちまうんじゃないですかい?」
八鳥「そんなドジは踏まんよ」
往水「や、心強いお言葉で」
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
悠「……」
往水「……ってな話を、さっきしてきたところなんですよ」
悠「はぁ、そうすか。あぁ、でも、そういう話しは目安箱でもたまに見ますね」
おれはあいまいにうなずく。いきなりやってきて、北町の不良同心と親交を温めてきた、なんて話しされても反応のしようがない。
往水「そうでしょうとも。アタシらに付け届けするってのは、言ってみれば生活の知恵ってやつですからね」
悠「いや、そっちの話しでなくって、因縁を着けてくる客の話しの方」
往水「あぁ、なんだ。アタシはてっきり、小鳥遊さんもついにアタシに袖の下を寄越す気になったのかと思いましたよ」
悠「そんな堂々と要求するもんじゃねーでしょ、それは」
往水「なら、こっそり要求したら、くれるんですか?」
悠「そんなわけねーでしょ……それにしても、うちの店も気をつけないといけないな」
往水「はい?なんの話しです?」
悠「だから、因縁を付けてくる客の話しだよ。うちの店も気をつけないとな……って」
往水「はははっ、そいつは要らぬ心配ってやつですよ」
悠「え、どうして?」
往水「だって、たいして儲かってもなさそうな用心棒つきの店に因縁吹っかけたって面白くないじゃないですか」
悠「うぐっ」
儲かってなさそうと、はっきり言われると少し傷つく。いや、その通りなんだけど……。
往水「隣のねずみやさんも、そのへんのあしらい方は心得ているようですし、この辺は安全だと思いますよ」
悠「この辺りは、ですか」
往水「ええ。その気になって探したら、狙い目のお店なんて結構わんさか転がってるもんですよ」
悠「……」
往水「おっと、おどかしちゃいましたかね?」
悠「いや、そこまでわかってんだったら、中村も少しは真面目に見回りしたらいいだろと思っただけ」
往水「あらら、これは意外なところからチクチクと」
悠「……」
戯けてみせる中村に、おれは自然と、瞼の下がった胡乱げな目つきになってしまう。