ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

放課後、いつものように店を開けていると、光姫さんが由佳里を伴ってやってきた。二人が常連さんでいてくれることで、ウチの店の経営状態もすごく助かってる。のれんや看板のこともあるし、光姫さんには本当に頭が上がらないな。

光姫「今日は新さんも居るんじゃな」

悠「昨日は光姫さんたちが帰られてから、新は店に来ましたからね」

吉音「補習だったんだよぉー、もう勉強やだぁー!」

由佳里「やっぱり、甲級になるとお勉強も難しくなっちゃうんですか?」

光姫「ちゃんと授業を聞いておれば、それほど難しいことはないよ」

吉音「ミッキーは頭が良いからそういうこといえるんだよぉ」

悠「お前は授業をまともに受けるところから始めないとな。テストとか分からないところだらけなんじゃないか?」

吉音「なにもわからないということしかわからない!」

悠「誇って言うことじゃないだろ……」

そんないつも通りのやりとりをしていると、通りを歩く人の中に光姫さんが誰かを見つけたらしく声をかけた。

光姫「ん?そこな坊主」

浩太郎「あ、昨日のお姉さん……」

悠「浩太郎じゃないか、寄っていきなよ」

光姫「ほれ、ここ、隣に座れ」

浩太郎「は、はい……」

浩太郎の分のお茶と団子を用意してやる。

悠「昨日と同じみたらし団子で悪いけど」

浩太郎「そ、そんな……」

悠「遠慮しないでいいよ、どうせ今日出さなきゃダメになっちゃうから。食べてもらったほうがありがたい」

浩太郎「ありがとうございます、いただきます……」

んー、昨日帰るときはそこそこ元気だったけど……。

光姫「落ち込んで居るようじゃな、またなにかあったのか?」

浩太郎「……あの……どうしたら、お姉さんみたく強くなれますか?」

光姫「ほう、強くなれるか、のう……」

浩太郎「昨日、ここからの帰りに、またクラスメイトにいじめられたんです……」

吉音「いじめっ!?そんなのよくないよ!懲らしめてやらないと!」

悠「はいはい落ちつこうな新。浩太郎が驚いているだろ?」

浩太郎「あ、あの……」

光姫「話の腰を折って悪かったの、続けてくれ」

浩太郎「昨日のことで、いろいろ言いがかりをつけられたんですけど……お姉さんたちが味方だって言ってくれたし、僕もこのままじゃいけないって思って、睨み返したんです」

光姫「ほう、すごいじゃないか」

浩太郎「でもすぐに怖くなって……結局逃げ出してしまいました……」

光姫「そうか、それは仕方ないのぅ」

浩太郎「僕、強くなりたいんです。あんなやつらに負けないくらいに!どうしたら強くなれますか?」

光姫「強さのう……浩太郎よ、強いというのはどういうことだと思う?」

浩太郎「それは……喧嘩が強いとか、そういうことじゃないんですか?」

光姫「肉体的な強さの一端ではあるがの……強いというのはな、いなわち心の強さなんじゃ」

浩太郎「心の強さ……」

光姫「そうじゃ、力に屈しない意思と信念、それが大事なのじゃ。どんな困難にも立ち向かい、自分の気持ちを貫こうとする気持ちがあれば、そう簡単に負けはせんよ」

浩太郎「……僕は意気地無しだから、強くなれませんね」

悠「そんなことはないぞ」

浩太郎「悠さん……」

悠「いきなり変わることは出来なくても、積み重ね次第でどうにでもなる。意気地がないと諦めるのは簡単だ。泣かされても逃げても、殴られても100回耐えてみろよ。痛い目は見るし心はすり減るかもしれない。それでも一回一回を少しずつ変えられたなら、100回もし耐え抜けたなら今と同じ位置にはいないと思うぞ。ついでにそのあいだに身体も心も鍛えられたらさらに良しだ」

光姫「なかなか、乱暴な言い方じゃが悠のいうことも間違いではないぞ」

由佳里「気持ちだけじゃなく、行動に起こすことが大事ですよね」

吉音「そうだよ!強くなって、いじめっ子なんてぶっ飛ばしちゃえ!」

浩太郎「皆さん……僕……僕やってみます!もう悔しい思いをしなくていいように!」

光姫「その意気やよし!どれ、わしが直々に稽古をつけてやろうかの」

浩太郎「ええっ!お姉さんがですか!?」

吉音「いいねいいね!私も稽古付けちゃう!」

光姫「おぬしは加減が出来んじゃろうが。さて、浩太郎や、どうする?」

浩太郎「やります……やらせてください!」

光姫「いい返事じゃ」
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