ｰ大江戸学園:大通りｰ

詠美「ふむ……ん……確かに牛肉のようね。香辛料の刺激が少し強めのようだけど、これはこれで悪くないわ」

……よかった。少なくとも気にいらないってことは無かったらしい。ここまで強引に連れて来て、口に合わなかったら取り返しがつかないからなぁ。

悠「ふぅ……」

詠美「でもこれなら普通にお店を持てばよいのではない?どうしてこんな路上で、移動販売のようなことをしているのかしら」

悠「こうゃって気軽に買えて、歩きながら食べられるのが良いんですよ」

詠美「さういうものかしら。味は良いのに……もったいないわね」

お気に召したのか、徳河さんは次々に箸を口へ運ぶ。……肉やサラダなど具ばかりを。

悠「あの……徳河さん」

詠美「今度はどうしたの?」

悠「それ、周りのパンも食べられるんですが……」

詠美「なんですってっ……!」

悠「そ、そんなこの世の終わりみたいな顔をしなくても」

詠美「この袋がパンだったなんて……そうか、これはサンドイッチのようなものだったのね。だからかぶりつけと」

悠「そんな大層なものでもないっすけど……」

詠美「はっ!?もしかしてこの包み紙もたべられるの?」

悠「いやいやいやそれはただの紙です!食べられませんよ!」

詠美「そう……よかったわ。こんなに手で触ってしまったもの、どうしようかと……うむむ……世界は広いわね。私は全然精進が足りてないわ……」

悠「いやだかせ、そんなに深刻になるようなことじゃないですってあんまり気にすると美味しくなくなりますよ」

詠美「そ、それは失礼にあたるわね。味わうことを忘れてはいけないわ」

徳河さんのお嬢様っぷりは想像以上だな。ケバブの食べ方が分からないって言うのは、さすがにマズイ気もするし……。そういう意味では誘って良かったかもしれない。味も気にいってもらえたみたいだし、よかったよかった。





ｰ大江戸学園:執務室ｰ

酉居「どうしたんだ、徳河さんはなぜ来ない。何の連絡も受けていないが」

女子生徒A「柳宮さまの道場をでたあと、屋台街を歩いていたという情報があります」

酉居「屋台だと?なぜ徳河さんが、そんな猥雑の極みのような場所へ」

平良「まあまあ、今日はさほど急を要する案件も無し、たまには羽を伸ばしてもいいだろう」

酉居「そういう問題ではない!いく場所が悪いのだ!高貴の身分なものは、みだりに市井を徘徊してはならない。威光に傷がつく!」

平良「だが親しみは湧くんじゃないか?街の動きを知ることも重要だろう」

酉居「そんなものは必要ない。どうしてもというなら人を使いに出せばいいだけだ」

平良「やれやれ、頭の硬さは学園でも随一だな」

酉居「フン……これはひとつ、思い知っていただく他ないな。長谷河、火盗を使うぞ」

平良「遺恨が残らない程度にな……」





ｰ大江戸学園:大通りｰ

詠美「これまで知らずにいたことを、いろいろと教えてもらったわね。ありがとう」

悠「いやぁ……強引に連れ回してしまってすみませんでした」

詠美「構わないわ。おいしいものを食べることもできたし」

悠「別におれが作ったわけじゃないですし、お礼ならあの屋台の人にいってください」

詠美「それもそうね。今度は長谷河さんも誘ってみようかしら」

ふーん。徳河さんて近寄りがたい雰囲気はあるけど、話してみれば結構普通の人だな。こんなことを考える自体失礼だけど……。