ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「はっははは、はっはははー……ヒマだなぁ……。ヒマすぎて笑いが止まんないわ」

吉音「ヒマだねぇー。」

はな「ヒマですねぇー、っていうか、怖いです」

今日はいつもよりさらに客が来ない。かなり前に光姫さんたちが来たが、それっきり閑古鳥が鳴いている。さっき目安箱を確認したところ、入っていたのは『最近洋風の食べ物が多く出回り過ぎではないでしょうか。大通りの露店なんかにも目立ちますし、文化的にどうかと思います』なんてものだけだった。

吉音「別にいいよねぇ、そのくらい。つまんないことにこだわって、美味しいものが食べられなくなる方が大問題だよ」

悠「あー……まぁ、そだな。おれも軍パンだし」

はな「軍パンを引き合いに出すのは違うと思いますですけど」

幸いというか偶然、おれの所は和風なものばかり。でも隣の繁盛店は、洋風テイストが強い。それでもお客は喜んではいってるし、そんな苦情があったと聞いたこともない。

悠「もしかしたら、自分のところが売れなくて逆恨みでもした人の投書かもな」

対処なんて当然、報告する必要もないだろう。

吉音「あー、なにか事件起こらないかな―」

悠「おいおい、滅多なことをいうもんじゃない」

吉音「えー、それじゃぁ……誰か、何か美味しいもの売りに来ないかなぁ―」

悠「売りに来ても買ってやらないからな」

吉音「相変わらずのけちんぼだね、悠は」

悠「破産するよりはマシだよ」





ー大江戸学園:道場ー

悠「はぁぁ……はいよっと!」

詠美「むっ……はっ、せやっ!」

悠「あ痛っ!つっ……」

捕えたと思ったのに、手応えもあったはずなのに、おれの剣は空ぶっていた。いや当たらなかったんじゃなくて、受け流されたのか。

十兵衛「ははは、まだまだ実力差が大きいらしいな」

詠美「でも、以前に比べて格段に上達しているわ。無駄な力が抜けて、各動作の隙がなくなってきている。受けまわしに回ったときの対応力も向上している。私が上でいられるのも、そう長くは無いかもしれないわね」

悠「へ……」

おれ、なんかすごく褒められてない?徳河さんには相変わらず全然敵わないし、実感としてはあまりないんだけど……。いやリップサービスっていうのは百も承知なんだけど!

十兵衛「だとさ。私より徳河先生の方がお好みか?」

悠「またそんな困ることをいわんでくださいよ」

徳河さんも自分の剣の修練にきているはずなのに、おれの相手をしていたらもったいないだろうし。

詠美「私も危機感を忘れずにいられるし、良い刺激になっているわよ」

悠「そーいってもらえるなら、嬉しいです」

徳河さんって意外に気を使ってくれる人なんだな。なんて口が裂けても言えやしないけど。


~数時間後~


さて稽古が終わった。吉音にはお休みだと伝えてあるし、今日はのんびり帰るかな。

詠美「あら……あなたも今帰り?」

悠「あ、徳河さん。お疲れ様です」

詠美「ありがとう……あなたはこれから茶屋を?」

悠「いんや、今日は休みにしました。新を待たせるのも悪いし。」

詠美「新……吉音さんね。彼女はどう?楽しそうにしている?」

悠「基本楽しんでますよ。最近はちっと退屈そうにしてますけど……」

物価の上昇で仕入れが難しくなり、間食を減らさざるを得なくなってきたからな。

詠美「そう。投書を集めて多くの事件を解決していると、こちらにまで聞こえてきているわ。やはり彼女には、そういった生活があっているのでしょうね」

悠「はぁ……」

徳河さんは吉音のことをどう思ってるんだろう。吉音はずいぶんしたっているようだけど、徳河さんの反応は素っ気ない。かと思えば今みたいに、様子を気にしている節もあるし……。徳河さんの方は普段どんなことをして過ごしているんだろう。
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