ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー大江戸学園:野球ドームー
想「では……今の勝負について、私の方から判定を下させていただきます。この勝負の勝者は、中杉辰也さんです」
美波「えっ!?」
辰也「はぁっ!?」
一也「なんだってっ!?」
吉音「ふぇぇっ!?」
悠「ほむ……あっ、間違えた。ふむ。」
思いもよらない言葉に、その場にいた一同の驚きと困惑の声が交差する。三球のうち一球でも打てば勝利。ただしファールは除く――というのが当初のルールだったはず。それに則ると、明らかに勝者は一也さんの方……だよな?
一也「どうしてっ?勝ったのは僕の方じゃないかっ!」
想「『試合に勝って勝負に負ける』という言葉がありますが、まさに今のあなたのことですよ、一也さん」
憤りも露わに抗議する一也さんを、逢岡さんは諭すような口調で宥める。
吉音「ねぇねぇ、それってどういうこと?」
悠「あー、つまりは結果としては一也さんの勝ちだけど、それ以外の原因で辰也さんの勝ちってこと……かな?」
いつの間にか傍に来ていた吉音に訊かれたが、おれ自身、半信半疑なので、あやふやな返事になってしまった。
吉音「全然意味分かんないんだけど?」
悠「自慢じゃないがおれだってわかんない。ま、逢岡さんが説明してくれるだろ」
吉音「ふぅ~ん?」
おれたちがそろって見つめる先には、奉行として凛としたたたずまいを見せる逢岡さんがいた。
想「確かに目に見える形では、勝ったのはあなたかもしれない。でも、あなたは大事なものを見落としている。それは、美波さん自身の気持ちです。」
一也「美波の……気持ち?」
茫然と呟く一也さんに大きくうなずくと、次に辰也さんに視線を向ける逢岡さん。
想「辰也さん、あなた今の勝負にわざと負けましたね?」
辰也「っ!?それは……っ!」
美波「どうして?タッちゃん!」
動揺して視線を逸らす辰也さんに、浅丘さんが悲痛な声で問いかける。
想「あなたと一也さんをこれ以上、苦しめたくなかったからですよ、美波さん」
一也「僕と美波を……?」
想「自分にとって大切なふたりを傷つけたくない。だから自らが退くことで事を収めようとしたでしょう?」
辰也「…………」
逢岡さんの言葉が図星であるかのように、目を伏せた辰也さんは無言で唇をかんだ。
想「一方、あなたは自分の気持ちを押しとおす事しか考えてなかった。辰也さんと美波さんを思いやる気持ちを忘れていましたね?」
一也「……ええ。確かにあなたの言う通りだ」
憑きものが落ちたように肩の力を抜いた一也さんは、唇を歪めて自嘲する。
悠「……」
一也「ははっ、やっぱり兄さんには敵わないってことか」
辰也「一也……」
一也「辰也兄さん、やっぱり兄さんが美波と付き合うべきだ。だって、ふたりは好きあってるんだろ?」
辰也・美波「「えっ!?」」
さっぱりとした顔で笑う一也さんの言葉に、辰也さんと浅丘さんは驚いて顔を見合わせた。
一也「ふたりが惹かれあってることなんて、とっくの昔から知ってたよ。だって僕は、兄さんを見つめる美波を、今までずっと見つめてきたんだからね」
美波「カッちゃん……」
一也「それでも僕は諦めなかった。だから強引にでも美波を自分のものにしようとして……だけど、兄さんのおかげで気づけたよ。そんな自分の身勝手さが大切な人を傷つけてるってこと、辰也兄さんも美波も、僕にとって本当に大事な幼馴染だ。だから、ふたりには幸せになって貰いたい。僕のことは気にしないでくれ。もう自分の中でけじめはついたからさ。」
辰也「一也、お前……」
一也「小さいころからの仲だしふたりが付きあったとしても僕たち三人は今までと変わらず上手くやっていけるよ」
辰也「だけど……」
想「浅丘さん、あなたの覚悟は決まりましたか?」
美波「……はい」
戸惑う辰也さんを横目に、逢岡さんは穏やかな口調で浅丘さんに問いかける。一瞬躊躇するように俯いた浅丘さんだったが、すぐに強い決意を抱いた表情を浮かべると、力強く頷いた。そうか。逢岡さんがいっていた覚悟ってこのことだったんだな……。ここにきてようやくおれは逢岡さんの意図を悟った。
想「では……今の勝負について、私の方から判定を下させていただきます。この勝負の勝者は、中杉辰也さんです」
美波「えっ!?」
辰也「はぁっ!?」
一也「なんだってっ!?」
吉音「ふぇぇっ!?」
悠「ほむ……あっ、間違えた。ふむ。」
思いもよらない言葉に、その場にいた一同の驚きと困惑の声が交差する。三球のうち一球でも打てば勝利。ただしファールは除く――というのが当初のルールだったはず。それに則ると、明らかに勝者は一也さんの方……だよな?
一也「どうしてっ?勝ったのは僕の方じゃないかっ!」
想「『試合に勝って勝負に負ける』という言葉がありますが、まさに今のあなたのことですよ、一也さん」
憤りも露わに抗議する一也さんを、逢岡さんは諭すような口調で宥める。
吉音「ねぇねぇ、それってどういうこと?」
悠「あー、つまりは結果としては一也さんの勝ちだけど、それ以外の原因で辰也さんの勝ちってこと……かな?」
いつの間にか傍に来ていた吉音に訊かれたが、おれ自身、半信半疑なので、あやふやな返事になってしまった。
吉音「全然意味分かんないんだけど?」
悠「自慢じゃないがおれだってわかんない。ま、逢岡さんが説明してくれるだろ」
吉音「ふぅ~ん?」
おれたちがそろって見つめる先には、奉行として凛としたたたずまいを見せる逢岡さんがいた。
想「確かに目に見える形では、勝ったのはあなたかもしれない。でも、あなたは大事なものを見落としている。それは、美波さん自身の気持ちです。」
一也「美波の……気持ち?」
茫然と呟く一也さんに大きくうなずくと、次に辰也さんに視線を向ける逢岡さん。
想「辰也さん、あなた今の勝負にわざと負けましたね?」
辰也「っ!?それは……っ!」
美波「どうして?タッちゃん!」
動揺して視線を逸らす辰也さんに、浅丘さんが悲痛な声で問いかける。
想「あなたと一也さんをこれ以上、苦しめたくなかったからですよ、美波さん」
一也「僕と美波を……?」
想「自分にとって大切なふたりを傷つけたくない。だから自らが退くことで事を収めようとしたでしょう?」
辰也「…………」
逢岡さんの言葉が図星であるかのように、目を伏せた辰也さんは無言で唇をかんだ。
想「一方、あなたは自分の気持ちを押しとおす事しか考えてなかった。辰也さんと美波さんを思いやる気持ちを忘れていましたね?」
一也「……ええ。確かにあなたの言う通りだ」
憑きものが落ちたように肩の力を抜いた一也さんは、唇を歪めて自嘲する。
悠「……」
一也「ははっ、やっぱり兄さんには敵わないってことか」
辰也「一也……」
一也「辰也兄さん、やっぱり兄さんが美波と付き合うべきだ。だって、ふたりは好きあってるんだろ?」
辰也・美波「「えっ!?」」
さっぱりとした顔で笑う一也さんの言葉に、辰也さんと浅丘さんは驚いて顔を見合わせた。
一也「ふたりが惹かれあってることなんて、とっくの昔から知ってたよ。だって僕は、兄さんを見つめる美波を、今までずっと見つめてきたんだからね」
美波「カッちゃん……」
一也「それでも僕は諦めなかった。だから強引にでも美波を自分のものにしようとして……だけど、兄さんのおかげで気づけたよ。そんな自分の身勝手さが大切な人を傷つけてるってこと、辰也兄さんも美波も、僕にとって本当に大事な幼馴染だ。だから、ふたりには幸せになって貰いたい。僕のことは気にしないでくれ。もう自分の中でけじめはついたからさ。」
辰也「一也、お前……」
一也「小さいころからの仲だしふたりが付きあったとしても僕たち三人は今までと変わらず上手くやっていけるよ」
辰也「だけど……」
想「浅丘さん、あなたの覚悟は決まりましたか?」
美波「……はい」
戸惑う辰也さんを横目に、逢岡さんは穏やかな口調で浅丘さんに問いかける。一瞬躊躇するように俯いた浅丘さんだったが、すぐに強い決意を抱いた表情を浮かべると、力強く頷いた。そうか。逢岡さんがいっていた覚悟ってこのことだったんだな……。ここにきてようやくおれは逢岡さんの意図を悟った。