ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー大江戸学園:野球ドームー
一也「…………」
辰也「…………」
互いの隙を窺うような緊迫した時間が流れる。そして、一陣の風が舞った次の瞬間……。
一也「はぁあっ!」
ビュバッ!
辰也「くっ!」
バシッ!
吉音「ストラーイクっ!」
小細工なしのストレートがもの凄い音を立てて、吉音の構えるミットに突き刺さった。あまりのスピードに、その場から微動だに出来なかった辰也さんは、唇を噛んでバットを握り直す。
一也「これで、まずは一級」
辰也「…………」
吉音「うわぁ~、すっごい速い球だね。気がついたらもう、グローブにボール入ってるんだもん。驚いちゃった」
一也「ははっ、ありがとう。でも、僕のストレートを怖がりもせずキャッチするなんて、君もなかなかだね」
吉音「えへへっ!」
リラックスした様子で吉音が投げたボールをキャッチすると、一也さんは表情を改めて辰也さんを見つめる。
一也「どうだい兄さん、僕はストレートなら150キロ以上出せる。そう簡単には打たせないよ」
辰也「……いいから、さっさと次の球、投げろよ」
一也「はいはい、分かったよ」
素っ気ない辰也さんの言葉に軽く肩を竦めると、一也さんは再び両腕を高く掲げた投球フォームをとる。そこから流れるように動作で振り下ろされた指先から、プロ顔負けの剛速球が放たれた。
辰也「むっ!?」
吉音「ストライクっ、ツーっ!」
まさに手も足も出ないという状態で、瞬く間に辰也さんはツーストライクを取られてしまった。
美波「タッちゃんっ!」
辰也「……ははっ、まいったな」
思わず呼びかける浅丘さんを見つめ、辰也さんはさびしげに笑う。
一也「あと一球っ、これで美波は僕のものだっ!」
辰也「……一也っ」
そんなふたりのやり取りを遮るように、一也さんが勝利宣言ともいえる言葉を叫ぶ。その言葉を聞いた辰也さんのまなざしが一瞬、鋭くなる。
一也「いくぞっ、兄さんっ!うおぉぉっ!」
今までの余裕の態度はどこへやら、一也さんは乱暴な動作で両腕を振り上げる。そして、全体重を乗せる勢いで辰也さんの元へ力強く白球を投げ込んだ。
辰也「……っ!」
一直線に飛来したボールをタイミングを図って振られた辰也さんのバットが見事に捉える。
一也「なっ、何っ!?」
心地よい打撃音と共に空を舞うボールを一也さんが驚愕の表情で見つめる。
吉音「おお~っ!当たったぁっ!」
青空に吸い込まれるようにぐんぐん伸びた打球は、やがて推力を失くし弓なりに落下する。
悠「よっと」
それを追って大きく横に移動したおれはグローブを掲げ、落ちてきたボールをキャッチした。良い当たりだった。でも、これは……。
一也「……ファール、か」
辰也「……一也、お前の勝ちだ」
美波「タッちゃんっ!?」
一也「どういうつもりなんだ?兄さん」
辰也「さすがエースピッチャーだな。お前にはかなわないよ、一也」
辰也さんはどこか納得いかないような一也さんに歩み寄り、笑顔で肩を叩く。
一也「勝負は勝負だからね。後で後悔しないでよ?」
辰也「分かってる。美波を頼む」
そんな兄を一瞥すると、一也さんは喜びにあふれた笑みを浮かべ、浅丘さんの方へ近づいていく。
美波「タッちゃん……」
俯いて道を譲る辰也さんの背中を、浅丘さんは悲しげな表情でじっと見つめていた。その横で静かに事の成り行きを見守っていた逢岡さんが、すっと前に進み出て口を開く。
一也「…………」
辰也「…………」
互いの隙を窺うような緊迫した時間が流れる。そして、一陣の風が舞った次の瞬間……。
一也「はぁあっ!」
ビュバッ!
辰也「くっ!」
バシッ!
吉音「ストラーイクっ!」
小細工なしのストレートがもの凄い音を立てて、吉音の構えるミットに突き刺さった。あまりのスピードに、その場から微動だに出来なかった辰也さんは、唇を噛んでバットを握り直す。
一也「これで、まずは一級」
辰也「…………」
吉音「うわぁ~、すっごい速い球だね。気がついたらもう、グローブにボール入ってるんだもん。驚いちゃった」
一也「ははっ、ありがとう。でも、僕のストレートを怖がりもせずキャッチするなんて、君もなかなかだね」
吉音「えへへっ!」
リラックスした様子で吉音が投げたボールをキャッチすると、一也さんは表情を改めて辰也さんを見つめる。
一也「どうだい兄さん、僕はストレートなら150キロ以上出せる。そう簡単には打たせないよ」
辰也「……いいから、さっさと次の球、投げろよ」
一也「はいはい、分かったよ」
素っ気ない辰也さんの言葉に軽く肩を竦めると、一也さんは再び両腕を高く掲げた投球フォームをとる。そこから流れるように動作で振り下ろされた指先から、プロ顔負けの剛速球が放たれた。
辰也「むっ!?」
吉音「ストライクっ、ツーっ!」
まさに手も足も出ないという状態で、瞬く間に辰也さんはツーストライクを取られてしまった。
美波「タッちゃんっ!」
辰也「……ははっ、まいったな」
思わず呼びかける浅丘さんを見つめ、辰也さんはさびしげに笑う。
一也「あと一球っ、これで美波は僕のものだっ!」
辰也「……一也っ」
そんなふたりのやり取りを遮るように、一也さんが勝利宣言ともいえる言葉を叫ぶ。その言葉を聞いた辰也さんのまなざしが一瞬、鋭くなる。
一也「いくぞっ、兄さんっ!うおぉぉっ!」
今までの余裕の態度はどこへやら、一也さんは乱暴な動作で両腕を振り上げる。そして、全体重を乗せる勢いで辰也さんの元へ力強く白球を投げ込んだ。
辰也「……っ!」
一直線に飛来したボールをタイミングを図って振られた辰也さんのバットが見事に捉える。
一也「なっ、何っ!?」
心地よい打撃音と共に空を舞うボールを一也さんが驚愕の表情で見つめる。
吉音「おお~っ!当たったぁっ!」
青空に吸い込まれるようにぐんぐん伸びた打球は、やがて推力を失くし弓なりに落下する。
悠「よっと」
それを追って大きく横に移動したおれはグローブを掲げ、落ちてきたボールをキャッチした。良い当たりだった。でも、これは……。
一也「……ファール、か」
辰也「……一也、お前の勝ちだ」
美波「タッちゃんっ!?」
一也「どういうつもりなんだ?兄さん」
辰也「さすがエースピッチャーだな。お前にはかなわないよ、一也」
辰也さんはどこか納得いかないような一也さんに歩み寄り、笑顔で肩を叩く。
一也「勝負は勝負だからね。後で後悔しないでよ?」
辰也「分かってる。美波を頼む」
そんな兄を一瞥すると、一也さんは喜びにあふれた笑みを浮かべ、浅丘さんの方へ近づいていく。
美波「タッちゃん……」
俯いて道を譲る辰也さんの背中を、浅丘さんは悲しげな表情でじっと見つめていた。その横で静かに事の成り行きを見守っていた逢岡さんが、すっと前に進み出て口を開く。