ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
想「もう出てきてもいいですよ、美波さん」
『勝負は明日』と決めて双子が帰った後、店の裏に向かって逢岡さんが声をかける。
美波「お手数……おかけしました」
おずおずと物陰から出てきた浅丘さんが、おれ達にぺこりと頭を下げてくる。
悠「浅丘さん……!」
吉音「わっ!美波ちゃん、そんなとこにいたんだっ!?」
まさか、そんなところに隠れていたとは思わなかったおれと吉音は思わず驚きの声を上げてしまう。
美波「これで、よかったのでしょうか……?」
想「ええ」
不安げに尋ねる浅丘さんにゆっくりと近づくと、逢岡さんはすっと表情を引き締める。
美波「……」
想「あなたも覚悟をきめなければいけませんね」
美波「……はい」
そっと肩に手を置かれた美波さんは、どこか思いつめた表情でうなずいた。
吉音「えっと……どういうこと?」
悠「さぁ、おれに聞かれてもな」
きょとんとした顔で尋ねてくる吉音に、おれは軽く肩をすくめて見せる。とにかく、この一件に関しては逢岡さんに任せておくしかないだろうな……。
ー大江戸学園:野球ドームー
そして迎えた、二人の勝負の日。
吉音「よっし!どんとこーい!」
自らキャッチャーを申し出た吉音が、威勢のいい掛け声をかける。またえらく軽装だ、本人は大丈夫だというし、あいつの運動能力の高さなら、怪我することもないだろう。一方、おれと言えば外野でボール拾いだ。少し離れたところでは、美波さんと逢岡さんがじっと勝負の行く末を見守っている。
一也「それじゃ、もう一度説明するよ、兄さん」
辰也「……ああ」
落ち着いた表情で投球位置についた一也さんは、だらんと腕を下げてバットを持つ辰也さんに話しかける。
一也「僕が三球投げるうち、一級でも打てれば兄さんの勝ちだ。それが出来なければ僕の勝ちってことになるファールは無効とさせてもらう。あくまでもヒット以上を打って一球としてカウントする。それでいいね?兄さん」
辰也「ああ。俺は構わない」
辰也さんは明らかに気が進まない様子で、やる気に溢れた一也さんの方がどう見ても有利に思える。そもそも一也さんは野球部期待のエースだ。当然、辰也さんもそれは知ってるだろうし、それでも勝負を受けたのは何か勝算があるからなのか?
美波「タッちゃん……カッちゃん……」
胸の前で祈るように手を組んだ浅丘さんは、泣きだしそうな目で兄弟を見つめている。考えてみれば、今回一番辛い立場なのは彼女なのかもしれない。
一也「見ててくれ美波。僕は絶対、兄さんに勝って見せる」
美波「カッちゃん……」
そんな浅丘さんを見つめながら、一也さんは力強く宣言する。
辰也「もう身体は平気なのか?美波」
美波「あ……うん。心配かけてごめんね、タッちゃん」
力なくうなだれていた浅丘さんは、心配そうな辰也さんの言葉に顔を上げ、さびしげな笑みを浮かべた。無理をしているのが丸わかりの彼女の姿に、辰也さんの表情がさらに険しくなる。
一也「それじゃ……いくよ、兄さん」
辰也「ああ、こい」
大きく両腕を振り上げた投球フォームをとる一也さんに対し、辰也さんは腰を落としてバットを構えた。
想「もう出てきてもいいですよ、美波さん」
『勝負は明日』と決めて双子が帰った後、店の裏に向かって逢岡さんが声をかける。
美波「お手数……おかけしました」
おずおずと物陰から出てきた浅丘さんが、おれ達にぺこりと頭を下げてくる。
悠「浅丘さん……!」
吉音「わっ!美波ちゃん、そんなとこにいたんだっ!?」
まさか、そんなところに隠れていたとは思わなかったおれと吉音は思わず驚きの声を上げてしまう。
美波「これで、よかったのでしょうか……?」
想「ええ」
不安げに尋ねる浅丘さんにゆっくりと近づくと、逢岡さんはすっと表情を引き締める。
美波「……」
想「あなたも覚悟をきめなければいけませんね」
美波「……はい」
そっと肩に手を置かれた美波さんは、どこか思いつめた表情でうなずいた。
吉音「えっと……どういうこと?」
悠「さぁ、おれに聞かれてもな」
きょとんとした顔で尋ねてくる吉音に、おれは軽く肩をすくめて見せる。とにかく、この一件に関しては逢岡さんに任せておくしかないだろうな……。
ー大江戸学園:野球ドームー
そして迎えた、二人の勝負の日。
吉音「よっし!どんとこーい!」
自らキャッチャーを申し出た吉音が、威勢のいい掛け声をかける。またえらく軽装だ、本人は大丈夫だというし、あいつの運動能力の高さなら、怪我することもないだろう。一方、おれと言えば外野でボール拾いだ。少し離れたところでは、美波さんと逢岡さんがじっと勝負の行く末を見守っている。
一也「それじゃ、もう一度説明するよ、兄さん」
辰也「……ああ」
落ち着いた表情で投球位置についた一也さんは、だらんと腕を下げてバットを持つ辰也さんに話しかける。
一也「僕が三球投げるうち、一級でも打てれば兄さんの勝ちだ。それが出来なければ僕の勝ちってことになるファールは無効とさせてもらう。あくまでもヒット以上を打って一球としてカウントする。それでいいね?兄さん」
辰也「ああ。俺は構わない」
辰也さんは明らかに気が進まない様子で、やる気に溢れた一也さんの方がどう見ても有利に思える。そもそも一也さんは野球部期待のエースだ。当然、辰也さんもそれは知ってるだろうし、それでも勝負を受けたのは何か勝算があるからなのか?
美波「タッちゃん……カッちゃん……」
胸の前で祈るように手を組んだ浅丘さんは、泣きだしそうな目で兄弟を見つめている。考えてみれば、今回一番辛い立場なのは彼女なのかもしれない。
一也「見ててくれ美波。僕は絶対、兄さんに勝って見せる」
美波「カッちゃん……」
そんな浅丘さんを見つめながら、一也さんは力強く宣言する。
辰也「もう身体は平気なのか?美波」
美波「あ……うん。心配かけてごめんね、タッちゃん」
力なくうなだれていた浅丘さんは、心配そうな辰也さんの言葉に顔を上げ、さびしげな笑みを浮かべた。無理をしているのが丸わかりの彼女の姿に、辰也さんの表情がさらに険しくなる。
一也「それじゃ……いくよ、兄さん」
辰也「ああ、こい」
大きく両腕を振り上げた投球フォームをとる一也さんに対し、辰也さんは腰を落としてバットを構えた。