ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】
ー大江戸学園:教室ー
美波「あ……ご、ごめんなさいっ!私っ」
想「いえ、あなたのお気持はよく分かりました」
ハッと正気を取り戻して真っ赤になる浅丘さんに、逢岡さんは優しく笑いかける。
吉音「えっと、つまりふたりとも好きだから、どっちか選べないってことなの?」
悠「いや、違うだろ。どちらかを選んだら今までの仲良し三人組じゃいられなくなるから悩んでるんじゃないか」
吉音「えぇーーっ?だってお兄さんは応援してくれてるんでしょ?」
悠「だから、それはあくまでも……」
美波「あ、あのっ、私は……」
想「徳田さん、小鳥遊君。浅丘さんが困ってらっしゃいますよ?」
悠「へ?あっ……す、すみませんっ」
吉音「わわっ、ごめんねっ、美波ちゃん」
穏やかな声で窘(たしな)められ、言い争っていたおれたちはすごすごと引っ込む。
想「大体の事情は飲みこめました。それではこの一件、私に任せていただけませんか?」
にっこりと微笑んだ逢岡さんは、この場を取りまとめるひと言を口にしたのだった。
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
翌日の放課後、いつものように閑古鳥が鳴く店番をしていると、二人組の男子生徒が声をかけてきた。
男子生徒A「あの……二年の浅丘美波からここに来るようにいわれたんですけど。」
男子生徒B「美波のヤツ、わざわざこんなとこに呼び出したりして、いったい何の用なんだ?」
想「仲杉一也さんと辰也さんですね。初めまして、逢岡想いです」
辰也「お、おい一也、逢岡ってあの……」
一也「ああ、南町のお奉行様だよ、兄さん」
すっと立ち上がって名乗った逢岡さんに、ふたりは動揺した様子で顔を見合わせる。
吉音「ふーん、あの人たちが、昨日美波ちゃんがいってた双子の兄弟かぁ~」
店の奥で寝転がっていた吉音が、興味を覚えたようにむくりと起き上ってきた。
悠「とりあえず、浅丘さん抜きで話を聞いてみようってことなのかな?」
吉音「美波ちゃん、今日は来てないしね」
何時の間に手を回していたのかは知らないけど、ここに来るように指示を出させたのは逢岡さんだろうしな。
辰也「それで……その、お奉行さまがおれ達に何を?」
想「そんなに硬くならないでください。今日はあくまでも美波さんの相談者として、あなた方にお話しがあるんです。なんの話しかは、お二人ともだいたい想像がついているのではと思いますが」
一也「僕が……美波に告白したこと、ですか?」
ちらりと探るような視線を向けた逢岡さんに、一也さんが緊張した声で尋ねる。それに逢岡さんは大きくうなずいた。
想「ええ。そのお返事に関して、美波さんから伝言を預かってきました。」
一也「それで……美波はなんて?」
想「『カッちゃんのことは好きだけど、同じくらいタッちゃんの事も好き。どちらかひとりなんて選べない』――そう伝えてほしいと」
一也「そんなっ!それじゃ今までと同じじゃないかっ!」
逢岡さんの言葉に一也さんは悔しげに顔を歪め、辰也さんはどことなくホッとしたように表情を緩める。まさに対照的な反応だった。よく似た顔をした双子だから、その違いが明確に伝わってくる。
辰也「あの……美波はどうしてあなたに返事を任せたんですか?」
想「彼女が酷く悩んでいるのが気になって、事情をお聞きしたんですよ。そして、自分の口からでは返事をしづらいだろうと判断して、私がメッセンジャーを請け負ったんです。あなたにとっては、本人の口から直接聞きたいことでしょうが、彼女の気持ちも考え、ここはこらえてください」
一也「あの……美波は今どこに?今日は学校も休んでたし、どうしたんだろうって思ってはいたんですが……」
想「酷く体調が悪そうだったので休ませています。おそらく精神的な疲れから来たものでしょう」
辰也「そんなに悩んでたのか、アイツ……」
静かに語る逢岡さんから視線を逸らすと、表情を曇らせた辰也さんはグッと拳を握りしめた。そして、何かを決意したように強くうなずくと、隣に立つ一也さんをまっすぐに見つめる。
美波「あ……ご、ごめんなさいっ!私っ」
想「いえ、あなたのお気持はよく分かりました」
ハッと正気を取り戻して真っ赤になる浅丘さんに、逢岡さんは優しく笑いかける。
吉音「えっと、つまりふたりとも好きだから、どっちか選べないってことなの?」
悠「いや、違うだろ。どちらかを選んだら今までの仲良し三人組じゃいられなくなるから悩んでるんじゃないか」
吉音「えぇーーっ?だってお兄さんは応援してくれてるんでしょ?」
悠「だから、それはあくまでも……」
美波「あ、あのっ、私は……」
想「徳田さん、小鳥遊君。浅丘さんが困ってらっしゃいますよ?」
悠「へ?あっ……す、すみませんっ」
吉音「わわっ、ごめんねっ、美波ちゃん」
穏やかな声で窘(たしな)められ、言い争っていたおれたちはすごすごと引っ込む。
想「大体の事情は飲みこめました。それではこの一件、私に任せていただけませんか?」
にっこりと微笑んだ逢岡さんは、この場を取りまとめるひと言を口にしたのだった。
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
翌日の放課後、いつものように閑古鳥が鳴く店番をしていると、二人組の男子生徒が声をかけてきた。
男子生徒A「あの……二年の浅丘美波からここに来るようにいわれたんですけど。」
男子生徒B「美波のヤツ、わざわざこんなとこに呼び出したりして、いったい何の用なんだ?」
想「仲杉一也さんと辰也さんですね。初めまして、逢岡想いです」
辰也「お、おい一也、逢岡ってあの……」
一也「ああ、南町のお奉行様だよ、兄さん」
すっと立ち上がって名乗った逢岡さんに、ふたりは動揺した様子で顔を見合わせる。
吉音「ふーん、あの人たちが、昨日美波ちゃんがいってた双子の兄弟かぁ~」
店の奥で寝転がっていた吉音が、興味を覚えたようにむくりと起き上ってきた。
悠「とりあえず、浅丘さん抜きで話を聞いてみようってことなのかな?」
吉音「美波ちゃん、今日は来てないしね」
何時の間に手を回していたのかは知らないけど、ここに来るように指示を出させたのは逢岡さんだろうしな。
辰也「それで……その、お奉行さまがおれ達に何を?」
想「そんなに硬くならないでください。今日はあくまでも美波さんの相談者として、あなた方にお話しがあるんです。なんの話しかは、お二人ともだいたい想像がついているのではと思いますが」
一也「僕が……美波に告白したこと、ですか?」
ちらりと探るような視線を向けた逢岡さんに、一也さんが緊張した声で尋ねる。それに逢岡さんは大きくうなずいた。
想「ええ。そのお返事に関して、美波さんから伝言を預かってきました。」
一也「それで……美波はなんて?」
想「『カッちゃんのことは好きだけど、同じくらいタッちゃんの事も好き。どちらかひとりなんて選べない』――そう伝えてほしいと」
一也「そんなっ!それじゃ今までと同じじゃないかっ!」
逢岡さんの言葉に一也さんは悔しげに顔を歪め、辰也さんはどことなくホッとしたように表情を緩める。まさに対照的な反応だった。よく似た顔をした双子だから、その違いが明確に伝わってくる。
辰也「あの……美波はどうしてあなたに返事を任せたんですか?」
想「彼女が酷く悩んでいるのが気になって、事情をお聞きしたんですよ。そして、自分の口からでは返事をしづらいだろうと判断して、私がメッセンジャーを請け負ったんです。あなたにとっては、本人の口から直接聞きたいことでしょうが、彼女の気持ちも考え、ここはこらえてください」
一也「あの……美波は今どこに?今日は学校も休んでたし、どうしたんだろうって思ってはいたんですが……」
想「酷く体調が悪そうだったので休ませています。おそらく精神的な疲れから来たものでしょう」
辰也「そんなに悩んでたのか、アイツ……」
静かに語る逢岡さんから視線を逸らすと、表情を曇らせた辰也さんはグッと拳を握りしめた。そして、何かを決意したように強くうなずくと、隣に立つ一也さんをまっすぐに見つめる。