ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【5】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「ふぅ、ただいま。今日も疲れた疲れた」

稽古を終えて店まで戻ってきたおれは、そんな独りごとをつい口にする。今日は吉音も遅くなるはずだったから、コレは本当に独りごとで、答えの帰ってくるはずはなかった。

シオン「おかえり、悠」

悠「どわっ!帰ってきた!?」

シオン「何をいっているんだ。帰ってきたのはそっちだろ」

悠「いや、そうだけどそうじゃなくて……まあ、そんなことはどうでもいいとして、何か用だったか?」

シオン「女と待ち合わせているんだが、まだ少し時間があったからヒマつぶしをしようと思って来たんだ」

悠「そ、そうか……」

あまり自然に言われると、嫌味をいい返す気も失せてしまう。

シオン「おまえは今日も剣のお稽古か?」

悠「あー……、今日も疲れたよ。とにかく、お客さんて事なら、なにか飲み物でも出そうか」

シオン「いきなり卑猥だな。まだ昼間だぞ」

悠「何がっぁ?!」

シオン「私に口移しでのませるつもりだったんだろ」

悠「何を?!」

シオン「唾液」

悠「わぉ、マニアックス……って、チガウヨ!全然違うっ!!」

シオン「なんだ、つまらない」

悠「ほんとうにやっちゃうぞこのやろ……そんなことより、シオンはこれからデートなんだろ。だったら気をつけろよ」

シオン「気をつける?」

悠「ほら、最近は辻斬りが出るとかで物騒だろ」

シオン「ああ……そういえば、そんなのもいたね」

シオンは本気で忘れていたのかのような口ぶりだ。そりゃまあ、シオンなら辻斬りに出会しても返り討ちにしそうだけど。

悠「……」

シオン「というか、だ」

悠「あー?」

シオンがふいに、じっとみてくる。

シオン「悠、おまえは私が辻斬りだとは思わないのか?」

悠「いやだって、お前はそんなことするキャラじゃないだろ」

シオン「ふん?じゃあ、私はどんなキャラなんだ?」

悠「それは……」

シオン「辻斬りする暇があるなら女の部屋に通っているようなキャラ……か?」

悠「えっ、なんで分かったんだよ」

内心をぴたりといい当てられて目を白黒させていると、シオンにくっくっと笑われた。

シオン「お前は考えていることが、すぐ顔に出る」

悠「そんなことないと思うんだけどな……っか、顔見えてるのか?」

シオン「いや、そんなことあるぞ」

悠「……おれ、明日からマスクしようかな」

シオン「はっはっ、それはそれで面白そうだな」

悠「そんなことより、あんまり夜道をうろうろするなよ。シオンはただでさえ勘違いされやすいんだから」

シオン「へえ……」

シオンがふっと黙りこくった。

悠「あー?なんだよ?」

シオン「悠は、私の心配をしてくれるのか」

悠「そりゃあ、まあ」

シオン「なら、勘違いされないようにするいい方法があるから、協力してくれよ」

悠「そんな方法があるんなら、もちろん協力するが」

シオン「よし、なら決まりだ。辻斬りの噂が消えるまで、夜は私と一緒に過ごすように」

悠「ごめんなさい、ウソでした。謹んで遠慮させてください。」

おれは全力で頭を下げた。
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